心不全リハビリの全体像と標準プログラムを解説|急性期PTが知っておきたい離床・運動処方の基本
そんな不安を持つ理学療法士は少なくありません。
この記事では、日本心臓リハビリテーション学会の「心不全の心臓リハビリテーション標準プログラム(2017年版)」をもとに、急性期の離床プログラムから外来リハまでの全体像をわかりやすく解説します。
心臓リハビリ未経験の方でも「明日から現場で使える」知識を提供することを目標としています。
なぜ今、心不全リハビリを学ぶ必要があるのか
わが国では現在、約100万人が心不全に罹患しているとされており、高齢化の進展とともにその数はさらに増加することが見込まれています。
心不全は「完治しない疾患」の代表格であり、入退院を繰り返しながら徐々に増悪していく経過をたどることが多い疾患です。再入院1回あたりの予後悪化リスクは無視できず、再入院率の低下は急性期PTにとっても最重要課題のひとつです。
こうした背景のもと、心臓リハビリテーション(心リハ)は単なる「運動指導」にとどまらず、多職種チームが関与する包括的な疾病管理プログラムとして位置づけられるようになっています。
- 運動耐容能の改善
- 神経体液性因子の是正
- 再入院率の低下
- 長期生命予後の改善
「心不全だから安静に」という考えは過去のものです。適切に評価し、安全に動かすことで予後が改善する——この考え方が心不全リハビリの根幹にあります。
心不全リハビリの全体像|4つのフェーズで捉える
心不全のリハビリテーションは、入院から地域生活まで、時間軸に沿って4つのフェーズで構成されます。
| フェーズ | 時期・場所 | 主な内容 |
|---|---|---|
| 急性期 | 病態不安定期・ICU/病棟 | 離床プログラム(Stage 1〜6)・ベッドサイドから段階的に開始 |
| 前期回復期 | 病態安定期・入院 | 入院リハビリ・CPXに基づく運動処方 |
| 後期回復期 | 外来通院 | 外来心リハ・疾病管理プログラムの継続 |
| 維持期 | 慢性安定期・在宅 | 在宅運動・自己管理支援 |
各フェーズに共通するのは「安全性の確保」と「疾病管理プログラムとしての機能」です。
運動療法はあくまでその一要素にすぎず、服薬管理・栄養管理・患者教育・心理支援を同時に進めることが求められます。
急性期の離床プログラム|Stage 1〜6の進め方
急性心不全で入院した直後は血行動態の安定が最優先ですが、長期安静臥床は筋力低下・廃用症候群のリスクを招きます。そのため、急性期から段階的な離床プログラムを導入し、運動療法につなげていくことが重要です。
Stage分類と各ステージの目標
| Stage | 安静度 | 目標座位時間 | ステージアップ負荷試験 |
|---|---|---|---|
| Stage 1 | ベッド上安静 | ギャッジアップ | 端座位での血行動態確認 |
| Stage 2 | 端坐位 | 1時間/日 | 10m歩行テスト(自由速度) |
| Stage 3 | 室内自由 | 2時間/日 | 40m歩行テスト(自由速度) |
| Stage 4 | トイレ歩行 | 3時間/日 | 80m歩行テスト(自由速度) |
| Stage 5 | 棟内自由(〜80m) | 3時間/日 | 80m×2〜3回 歩行テスト |
| Stage 6 | 棟内自由 | 3時間/日 | 6分間歩行テスト(300m以上で終了) |
- 各ステージを上げる前には必ず「ステージ終了負荷試験」を実施する
- 血圧・心拍数・SpO₂・心電図モニターで血行動態が不安定にならないことを確認する
- 確認なくステージを上げることは絶対に避ける
Stage 6の終了基準として設定されている「6分間歩行距離 300m以上」は、運動療法の本格導入が可能な運動耐容能の目安となります。300mに満たない場合は病態安定化を優先し、ステージを維持しながら再評価を行うことが重要です。
運動療法の禁忌と安全管理|毎回確認する習慣を
運動療法を開始する前には、患者背景・禁忌項目の確認が欠かせません。心不全の病態は変動しやすく、前日まで安定していても当日に増悪していることは珍しくないからです。
- 過去3日以内における心不全の自覚症状の増悪
- 不安定狭心症または閾値の低い心筋虚血
- 手術適応のある重症弁膜症(特に大動脈弁狭窄症)
- 未治療の運動誘発性重症不整脈(心室細動・持続性心室頻拍)
- 活動性の心筋炎
- 急性全身性疾患または発熱
- 中等度以上の大動脈瘤・重症高血圧・2週間以内の塞栓症
急性増悪因子が解消されていない段階での運動療法開始は再増悪のリスクがあり、原則として推奨されません。
また、運動中止の判断基準(同一強度での心拍数10bpm以上の上昇・SpO₂の90%未満への低下・新たな不整脈の出現など)も、単に暗記するのではなく「なぜその値で中止するのか」という病態生理の理解とセットで押さえることが重要です。
CPXを使った運動処方|前期回復期の実際
病態安定後の前期回復期では、心肺運動負荷試験(CPX)の結果に基づいて運動プログラムを作成するのが原則です。CPXでは以下の指標を客観的に把握できます。
- Peak VO₂(最高酸素摂取量):運動耐容能と予後の指標
- AT(嫌気性代謝閾値):有酸素運動の処方強度の基準
- VE/VCO₂ slope:換気効率・心不全重症度の評価
有酸素運動の処方強度はPeak VO₂の40〜60%、またはATレベルの心拍数が一般的な目安となります。
頻度:週3〜5回(重症例は週3回、軽症例は週5回まで可)
強度:Peak VO₂の40〜60% / ATレベルの心拍数 / HRR 40〜60%(Karvonen法)
持続時間:5〜10分×1日2回から開始し、20〜30分×1日2回まで1週間程度で漸増
CPXが実施できない場合はBorg指数11〜13またはKarvonen法(k=0.3〜0.5)を代替として使用する。
レジスタンストレーニングの処方
心不全患者は骨格筋量が低下しやすく、筋力維持が生活機能・予後と密接に関連します。上肢は1RMの30〜40%、下肢は1RMの50〜60%を目安に、週2〜3回実施します。Borg指数13以下(「ややつらい」以下)を超えないよう管理することが重要です。
特殊デバイス症例(CRT/ICD/LVAD)への対応
CRT・ICD植込み後はデバイスの設定値(治療域心拍数・ペーシング上限心拍数)を必ず事前確認する。ICDの場合は下限治療域から10bpmを差し引いた値を目標心拍数の上限とする。LVAD症例ではドライブライン刺入部の確認とバッテリー管理が必須となる。
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まとめ|心不全リハビリの5つのコアメッセージ
心不全に対する心臓リハビリテーションは、「怖い疾患だから動かさない」ではなく、「適切に評価し、安全に動かすことで予後が改善する」という考え方が基本です。
- 心不全リハは「急性期(離床)→前期回復期→後期回復期→維持期」の時間軸で構成される
- 各Stageのステージアップ前には必ず血行動態の確認(負荷試験)を行う
- 運動療法は禁忌確認・主治医承認のうえで開始し、毎回中止基準を把握して実施する
- CPXに基づく処方が原則。できない場合はBorg指数・Karvonen法で代替する
- 心リハは運動だけでなく、栄養・服薬・心理・社会的管理を包括した疾病管理プログラムである
心不全の標準プログラムは「必須項目」と「努力項目」から構成されており、施設によって実施できる内容に差があります。まずは必須項目を確実に押さえることが、臨床における第一歩です。
運動処方の詳細パラメータ・特殊症例への対応・疾病管理プログラムの全項目については、noteメンバーシップの完全解説記事でご確認ください。
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