心不全リハビリの基礎知識|
急性期離床から運動処方まで
理学療法士が押さえるべきポイント
心不全リハビリの全体像
わが国の心不全罹患者数は約100万人にのぼり、高齢化に伴いその数は増加し続けています。心不全は「完治しない疾患」であり、入退院を繰り返しながら徐々に病態が悪化していくことが特徴です。そのため、心臓リハビリテーション(以下、心リハ)は単なる運動指導ではなく、再入院を防ぎ、長期生命予後を改善する包括的な疾病管理プログラムとして位置づけられています。
日本心臓リハビリテーション学会の標準プログラムでは、心不全リハビリを時間軸に沿って4つのフェーズで構成しています。
入院前のADLが十分に自立していた心不全患者で、運動療法の禁忌に該当しない症例が対象です。フレイルの高齢者、CRT/ICDやLVAD(補助人工心臓)装着患者については、それぞれ別途考慮が必要です。
急性期|離床プログラムの考え方
急性心不全では、血行動態の安定化が最優先されます。一方で、長期安静臥床は筋力低下・廃用症候群・ADL低下を招くため、早期からの段階的な離床プログラムが推奨されています。
標準プログラムでは、Stage 1〜6の段階でベッド上安静から棟内歩行へと活動量を拡大していきます。重要なのは「ステージを上げる前に必ず血行動態の確認(負荷試験)を行う」という原則です。
| Stage | 安静度 | ステージアップの目安 |
|---|---|---|
| 1 | ベッド上安静 | 端座位で血行動態確認 |
| 2 | 端坐位(目標1時間/日) | 10m 歩行テスト(自由速度) |
| 3〜5 | 室内〜棟内自由(〜80m) | 40m・80m・80m×2〜3回 歩行テスト |
| 6 | 棟内自由 | 6分間歩行テスト 300m以上 → 運動療法へ |
血圧・心拍数・SpO₂・心電図モニターで安定を確認してからステージを上げます。「前回問題なかったから大丈夫」という判断は避け、毎回の確認を習慣化することが重要です。
メンバーシップ記事で詳しく解説しています
こうした現場での疑問に、より具体的なレベルで答えています。
- Stageごとの詳細な負荷試験の判断基準
- カテコラミン離脱できない重症例への対応
- フレイル症例の離床プログラムの修正方法
- 軽症例でのステージ短縮の考え方
運動療法の禁忌と導入前評価
運動療法を開始する前に、必ず「禁忌項目の確認」と「患者背景の評価」を行います。心不全患者は病態が変動しやすく、前日まで安定していても当日に増悪していることは珍しくありません。
今回の急性増悪因子を必ず同定する
今回の入院を引き起こした急性増悪因子を特定することは、再入院予防の観点からも非常に重要です。以下が代表的な増悪因子です。
感染症 / 塩分・水分制限の不徹底 / 内服アドヒアランス低下 / 心虚血 / 血圧上昇 / 貧血 / 腎機能障害 / 甲状腺機能異常 / 過剰な身体活動 / 精神的ストレス
運動療法の主な禁忌項目
以下のいずれかに該当する場合は、運動療法の適応外となります。開始前・毎回の実施前に確認することが必要です。
- 過去3日以内の心不全自覚症状(呼吸困難・浮腫等)の増悪
- 不安定狭心症・閾値の低い心筋虚血
- 手術適応のある重症弁膜症(特に大動脈弁狭窄症)
- 未治療の運動誘発性重症不整脈(心室細動・持続性心室頻拍)
- 活動性の心筋炎・急性全身性疾患・発熱
運動処方の基本
病態が安定したら、いよいよ運動プログラムの作成に入ります。前期回復期では心肺運動負荷試験(CPX)の結果をもとに、個別の運動処方を行うことが原則です。
有酸素運動の処方4要素(FITT)
週3〜5回
(重症は週3回から)
ATレベル心拍数
Borg指数 11〜13
5〜10分×2回から
→ 20〜30分×2回へ
歩行 / 自転車エルゴ
/ トレッドミル
CPXが実施できない場合は、Borg指数11〜13、またはKarvonen法(k=0.3〜0.5)で代替します。β遮断薬投与例では心拍応答が減弱するため、心拍数だけを指標にすると過負荷になりやすい点に注意が必要です。
運動中止の判断基準(毎回確認)
- 同一運動強度での胸部自覚症状の増悪
- 心拍数の10bpm以上の上昇 or Borg指数が2段階以上の上昇
- SpO₂が90%未満 or 安静時から5%以上低下
- 新たな不整脈・1mm以上のST低下
レジスタンストレーニングの処方方法を詳しく解説
処方の手順を具体的な数値・事例とともに解説しています。
- CPX結果の読み方(Peak VO₂・AT・VE/VCO₂ slope)
- Karvonen法の計算式と使い方(β遮断薬投与例の注意点)
- レジスタンストレーニングの強度・セット数・部位別処方
- 運動中モニタリングの実践ポイント
疾病管理プログラムの役割
心臓リハビリテーションの本質は「運動療法」単体ではありません。栄養・服薬・合併症・心理社会的管理を包括して実施する疾病管理プログラムであることを、チーム全体で共有しておく必要があります。
入院中に並行して進める主な管理項目
| 管理領域 | 主なチェック・介入内容 |
|---|---|
| 栄養・水分 | 毎日の体重測定・減塩指導(目標6g/日未満)・低栄養スクリーニング(MNA等) |
| 服薬管理 | β遮断薬・利尿薬・ACE阻害薬の服薬アドヒアランス確認、副作用の教育 |
| 合併症管理 | 高血圧・腎機能・血糖・貧血・睡眠呼吸障害の評価と治療調整 |
| 心理・社会的支援 | 不安・うつのスクリーニング(PHQ-9・HADS等)、介護保険等の社会資源活用 |
特に心理面では、心不全患者の2〜4割に抑うつや不安が合併するとされており、服薬アドヒアランスや運動継続率・予後に直結します。「元気そうだから大丈夫」という判断は禁物で、定期的なスクリーニングツールを活用した客観的評価が重要です。
退院後の外来リハと再入院予防
心不全リハビリの効果を最大化するには、退院後も継続することが不可欠です。しかし現状、日本の外来心リハ実施率は決して高くなく、退院後の継続が大きな課題となっています。
外来リハの最大の目標は、患者自身が急性増悪因子を管理する能力を獲得することです。毎回の受診・運動実施前に以下を確認します。
- 心不全増悪を疑う自覚症状(胸痛・息切れ・食欲低下・易疲労感)の有無
- 体重の変化(3日間で2kg以上の増加は要注意)
- 服薬アドヒアランス・食塩摂取・飲酒状況
- 日常生活での過剰活動・低活動の有無
患者が「体重が増えたな」「息切れがいつもより強い」と気づき、自ら医療チームに連絡できる体制を構築することが、再入院予防の核心です。そのための患者教育こそが、外来リハにおける最も価値ある介入といえます。
具体的な対応方法もメンバーシップ記事で解説
- フレイル判定基準と運動・栄養の組み合わせ方
- CRT/ICD植込み後の目標心拍数の設定方法
- LVAD装着患者の運動療法の安全管理
- 外来リハにおける患者教育の実践的な進め方
まとめ
本記事の内容を整理します。
📌 心不全リハビリ|この記事のポイント
- 心不全リハは急性期→前期回復期→後期回復期→維持期の4フェーズで構成される
- 急性期の離床はStage 1〜6で段階的に進め、毎回血行動態を確認してからステージを上げる
- 運動療法の禁忌を運動前・毎回確認することが安全管理の基本
- 運動処方はCPXに基づくことが原則(できない場合はBorg指数・Karvonen法で代替)
- 心リハは運動だけでなく、栄養・服薬・心理支援を包括した疾病管理プログラムである
- 外来リハでの患者の自己管理能力獲得が再入院予防の核心
心不全リハビリは「禁忌を守りながら適切に動かすことで予後を改善できる」分野です。標準プログラムの枠組みを理解したうえで、患者個別の病態や施設の状況に合わせた判断ができるようになることが、臨床力向上への第一歩です。
※本記事は日本心臓リハビリテーション学会「心不全の心臓リハビリテーション標準プログラム(2017年版)」をもとに作成しています。実際の臨床では患者個別の病態・施設の方針・最新のガイドラインに従い、担当医の指示のもとで実施してください。
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