「この患者さん、筋緊張が高い気がするけど、痙縮なのか固縮なのか、それとも防御性収縮なのか自信を持って言えない…」
臨床現場でよく遭遇するこの悩み。実は筋緊張亢進とひとことで言っても、背景にある神経メカニズムはまったく異なり、評価方法やアプローチの考え方も変わってきます。
本記事では、理学療法士として押さえておきたい筋緊張が亢進する原因とメカニズムを、基礎から整理して解説します。
📝 この記事でわかること
- 筋緊張とは何か、亢進とはどういう状態か
- 痙縮と固縮の違いとその見分け方
- 筋緊張亢進が起こる神経生理学的メカニズム
- 臨床でよく遭遇する原因疾患と評価のポイント
筋緊張とは何か~亢進を理解する前提知識
筋緊張(muscle tone)とは、安静時に筋が持続的に示すわずかな緊張状態のことで、他動的に関節を動かしたときに感じる抵抗として臨床的に評価されます。
この抵抗は、筋・腱・関節包などの非神経性要素(粘弾性)と、脊髄反射を介した神経性要素(伸張反射の興奮性)の2つによって成り立っています。「筋緊張が亢進している」という状態は、多くの場合この神経性要素、つまり伸張反射の興奮性が異常に高まっていることを指します。
筋緊張亢進の2大タイプ「痙縮」と「固縮」の違い
筋緊張亢進は、大きく痙縮(スパスティシティ)と固縮(リジディティ)に分類されます。この2つは原因となる病巣も、他動運動時の抵抗の出方もまったく異なります。
痙縮(スパスティシティ)の特徴
錐体路(皮質脊髄路)を中心とした上位運動ニューロン障害によって生じ、他動的に速く動かすほど抵抗が強くなる速度依存性が特徴です。脳卒中や脊髄損傷後に多く見られます。ある角度を超えると急に抵抗が抜ける「折りたたみナイフ現象」もよく知られたサインです。
固縮(リジディティ)の特徴
大脳基底核(錐体外路系)の障害によって生じ、速度に関わらず運動の全域にわたって一定の抵抗を示します。パーキンソン病でみられる「鉛管様固縮」や、振戦を伴う「歯車様固縮」が代表例です。
痙縮と固縮の比較表
| 項目 | 痙縮 | 固縮 |
|---|---|---|
| 責任病巣 | 錐体路(上位運動ニューロン) | 大脳基底核(錐体外路) |
| 速度依存性 | あり(速いほど抵抗増大) | なし(一定の抵抗) |
| 抵抗のパターン | 折りたたみナイフ現象 | 鉛管様・歯車様 |
| 代表疾患 | 脳卒中、脊髄損傷 | パーキンソン病 |
筋緊張が亢進するメカニズム~神経生理学的な視点
伸張反射の基本回路
筋が急に伸張されると、筋紡錘(Ⅰa求心性線維)がこれを感知し、脊髄内でα運動ニューロンを興奮させて同名筋を収縮させます。これが伸張反射の基本回路であり、通常は上位中枢からの抑制によってコントロールされています。
🔄 伸張反射の流れ(簡易図)
※通常はこの興奮を上位中枢(網様体脊髄路など)が抑制的にコントロールしている
上位運動ニューロン障害による抑制系の破綻
脳卒中などで皮質脊髄路や網様体脊髄路といった下行性の抑制系が損傷されると、脊髄レベルの伸張反射に対するブレーキが効かなくなります。その結果、Ⅰa求心性線維の興奮性が相対的に高まり、わずかな他動伸張でも過剰な筋収縮(クローヌスなど)が出現しやすくなります。これが痙縮の中核的なメカニズムです。
Ⅰa相反抑制と相反性支配の変化
健常な状態では、主動作筋が収縮する際に拮抗筋がⅠa相反抑制によって弛緩し、スムーズな運動が可能になります。しかし上位運動ニューロン障害後はこの相反抑制機構が減弱し、主動作筋と拮抗筋が同時に収縮する同時収縮(co-contraction)が生じやすくなります。これも臨床で見られる筋緊張亢進の一因です。
💡 付箋メモ:痙縮は「筋そのものが硬い」のではなく、「反射の興奮性が高い」状態だと捉えると評価・介入の視点が広がります。長期的には筋の粘弾性変化(二次的な軟部組織の変化)も加わり、より複雑な病態になっていきます。
筋緊張亢進を引き起こす代表的な原因・疾患
- 脳卒中(脳血管障害):片麻痺側に痙縮が出現しやすい代表疾患
- 脊髄損傷:損傷高位以下に両側性の痙縮がみられる
- 脳性麻痺:発達期の脳損傷により痙縮型・アテトーゼ型など多様な病型を呈する
- パーキンソン病:大脳基底核の機能異常による固縮
- 多発性硬化症:脱髄による錐体路症状として痙縮を呈する
- 頭部外傷(TBI):損傷部位により痙縮・固縮どちらも生じうる
臨床評価のポイント
痙縮の評価ではModified Ashworth Scale(MAS)が広く使われますが、速度を変えて評価するModified Tardieu Scale(MTS)の方が神経性要素と非神経性要素を区別しやすいとされています。固縮の評価では他動運動を一定速度でゆっくり行い、速度依存性がないことを確認するのがポイントです。
✅ 評価のチェックポイント
- 他動運動の速度を変えて抵抗の変化を確認する(速度依存性の有無)
- 抵抗が可動域全体で一定か、途中で抜けるかを観察する
- 疼痛・不安・防御性収縮など、反射性以外の要因を除外する
- 安静時と運動時、日内変動の有無も記録しておく
まとめ~明日からの臨床にどう活かすか
筋緊張亢進は「痙縮」と「固縮」で責任病巣もメカニズムも異なり、それぞれ伸張反射の興奮性亢進、あるいは大脳基底核レベルの調節異常が背景にあります。この違いを理解しておくことで、評価の視点が明確になり、患者さんへの説明にも説得力が増します。
「なんとなく筋緊張が高い」で終わらせず、どのメカニズムに基づく亢進なのかを意識することが、根拠のある理学療法につながっていきます。
もっと深く学びたい方へ
実際の症例をもとにした筋緊張評価・介入の考え方は、note会員コミュニティ「臨床理学Lab」で詳しく解説しています。
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