脳血管疾患リハビリにおける病期別の目標設定の考え方急性期・回復期・生活期の臨床思考の型

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脳血管疾患リハビリの目標設定|急性期・回復期・生活期の思考の型を解説【理学療法士向け】
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Clinical Reasoning / 目標設定

脳血管疾患リハビリにおける
病期別の目標設定の考え方
急性期・回復期・生活期の臨床思考の型

対象:理学療法士 読了目安:約8分 根拠:芦澤・竹中(2026)PTジャーナル掲載論文

目標設定の何が難しいのか

「目標は設定しているつもり。でも、これが本当に妥当な目標なのか——正直、自信がない」

こうした感覚を持ったことがある理学療法士は、決して少なくないはずです。目標設定は行われているのに、それが抽象的だったり、医療者主導に偏っていたりすることで、患者の行動変容につながりにくい——これは急性期から生活期まで通底する臨床的課題です。

今回の記事では、PTジャーナル2026年5月号掲載の論文「脳血管疾患 病期別の目標設定の考え方」(芦澤・竹中)をもとに、各病期における目標設定の思考の型を整理します。

「フレームワークは知っている。でも、臨床でどう使うかがわからない」という方にこそ読んでほしい内容です。記事後半ではケーススタディも紹介しています。

目標設定の根底にある考え方

脳血管疾患に対する理学療法の目標の本質は、機能回復そのものではなく、患者が自らの生活を再構築することです。臨床では機能指標の改善が目標の中心になりがちですが、常に意識的に立ち返る必要があります。

SDM(共同意思決定)とは

そのための重要な概念がShared Decision-Making(SDM)です。医療者と患者が最良の根拠と選択肢を共有し、患者が自らの価値観や希望に基づいて選択できるよう支援するアプローチです。SDMを用いることで意思決定の葛藤が軽減し、意思決定の質が向上することが報告されています(Elias et al., 2024)。

Point

SDMは「患者に決めてもらう」ことではなく、「情報と価値観の共有による意思決定」です。この違いは臨床上きわめて重要です。

ICFの枠組みを意識する

目標設定はICFの枠組みを意識しながら行う必要があります。心身機能レベルの目標のみが先行しがちですが、活動・参加・環境因子を含めた包括的な視点が、患者の生活文脈に即した目標立案を可能にします。

病期ごとの目標設定の焦点

脳血管疾患のリハビリは急性期・回復期・生活期の3つの病期に分けて考えることができます。各病期でフォーカスすべき点が異なります。

Phase 01 / Acute
急性期
  • 廃用症候群・合併症の予防
  • 安全な早期離床
  • 予後予測に基づく見通しの共有
  • 将来ゴールの「シード」を拾う
Phase 02 / Recovery
回復期
  • 生活機能の再獲得・社会復帰
  • SMART原則による目標の具体化
  • SDMを活用した共同目標設定
  • 自己効力感の育成
Phase 03 / Community
生活期
  • 維持・予防・自己管理へのシフト
  • 再発予防(5年再発率10〜30%)
  • ヘルスリテラシーへの配慮
  • セルフモニタリングの支援

急性期の目標設定

急性期では、安静臥床による廃用症候群(筋力低下・関節拘縮・深部静脈血栓症など)や誤嚥性肺炎などの合併症予防が第一目標です。「脳卒中治療ガイドライン2021〔改訂2025〕」では、発症後24〜48時間以内の計画立案と離床開始が推奨されています。

急性期特有の難しさ:医療者主導になりやすい理由

急性期は、患者が自身の状況を十分に把握できないことが多く、家族も突発的な発症に伴う悲嘆や将来不安が強い時期です。そのため目標設定が医療者主導に偏りやすい——これは「仕方がない」ことではなく、構造的な特性として理解しておくべき点です。

予後予測ツール:NIHSSの活用

目標を現実的に共有するには、予後予測に基づく客観的な根拠が不可欠です。NIHSSは意識レベル・上下肢運動・感覚など11項目で神経学的重症度を0〜42点で定量化します。

  • NIHSS ≦ 6点:良好な回復が予測される(Adams et al., 1999)
  • NIHSS 7〜15点:中等度。回復の幅が大きく、注意深い見通しの共有が必要
  • NIHSS ≧ 16点:死亡・重度障害の確率が高い(Adams et al., 1999)
臨床思考のポイント

急性期は「参加」レベルの目標設定は現実的でないことが多い。しかし、患者の言葉から将来のゴールの「シード」を拾っておくことが、回復期以降の目標立案の芯になります。

回復期の目標設定:SMART原則の活用

回復期の本質は「失われた生活機能の再獲得と社会復帰」にあります。患者が「どのような生活を望むのか」という潜在的なニーズへの気づきを促し、言語化を支援するプロセスが重要です。

SMART原則とは

曖昧な目標(「歩けるようになる」など)は達成感が得にくく、行動変容につながりにくいです。SMART原則に基づく介入で目標達成度が向上することはRCTでも報告されています(Bahrami et al., 2022)。

要素 意味 臨床での問い
S — Specific 具体的・明確 「何を」「どこで」「どのように」が明示されているか
M — Measurable 測定可能 達成したかどうかを数値・観察で判断できるか
A — Achievable 達成可能 「努力すれば届く」現実的な水準か
R — Relevant 関連性 患者の希望・必要性に紐づいているか
T — Time-bound 期限あり 「いつまでに」が明確になっているか

自己効力感という視点

Banduraの自己効力感理論(1977)によれば、自己効力感を高める4因子のうち成功体験が最も強力です。段階的で達成可能な目標を提示し、小さな成功を積み重ねる支援は、「次も頑張ってみよう」という内発的動機の土台になります。

臨床思考のポイント

SMART目標の「R(Relevant)」が機能するのは、急性期から患者の生活目標のシードを拾っていたことが前提になります。病期をまたいだ情報の引き継ぎが、目標の「意味」を保ちます。

生活期の目標設定

在宅移行後は、理学療法の焦点が「機能回復・生活機能再獲得」から「維持・予防・自己管理」へとシフトします。特に再発予防は最重要課題であり、脳卒中の再発率は発症後5年間で約10〜30%と報告されています(Kolmos et al., 2021)。

ヘルスリテラシーへの配慮

行動変容を促すには、患者のヘルスリテラシーへの配慮が不可欠です。脳卒中患者のヘルスリテラシーは低いことが系統的レビューでも指摘されており(Ymeraj et al., 2025)、平易な言葉での説明・段階的な情報提供が求められます。

ウェアラブルデバイスとセルフモニタリング

ウェアラブルデバイスを用いることで歩数・座位行動・活動強度を可視化でき、目標との乖離を患者自身が把握できます。目標設定と活動量計を組み合わせたセルフモニタリング・フィードバックにより、歩数の増加や座位行動の減少が認められたことも報告されています(Ashizawa et al., 2023)。

脳卒中後うつを見落とさない

生活期で見落とされやすいのが脳卒中後うつです。有病率は約30〜40%と高頻度であり(Liu et al., 2024)、抑うつ状態では主体的な目標設定そのものが阻害されます。抑うつの徴候を早期に認知し、医師・看護師と連携して心理的ケアを優先することが、目標達成への前提条件となります。

ケーススタディ:68歳男性・左被殻出血

思考の型を実際の臨床場面に落とし込むために、仮定症例を使って整理します。

Case Profile

「また孫の運動会を見に行きたい」

患者:68歳・男性。高血圧・2型糖尿病の既往あり。
発症:右上下肢の脱力と構音障害で救急搬送。CT上、左被殻出血(血腫量約18mL)。
NIHSS入院時:14点(中等度)
社会背景:妻と二人暮らし。発症前はほぼ自立(家庭菜園・孫との外出など)。「半年後に孫の運動会がある」と繰り返し語っていた。

▶ 急性期(入院〜2週)

NIHSS 14点は中等度の神経学的重症度を示し、回復の幅は広い。担当PTは「現時点では歩行自立まで可能性がある水準」という現実的な見通しを医師と共有しながら丁寧に伝えた。急性期の第一目標は廃用予防と早期離床とし、「孫の運動会」という将来のゴールは「ここにつながっていくものだ」と共有した。

臨床思考のポイント

「孫の運動会」という言葉を急性期から拾っておくことで、回復期以降の目標立案の芯になります。この段階では参加レベルの目標は設定できないが、将来のゴールのシードとして記録・共有しておくことが重要です。

▶ 回復期(3週〜3か月)

医療リハビリ施設に転院。FIM運動項目55点。右下肢にMMT3〜4相当の筋力が戻りつつある。SDMのプロセスで「孫の運動会」という生活目標から逆算し、SMART原則に沿った短期目標を共同設定しました。

要素本症例への適用
S屋外を一本杖で100m以上歩行できる
M10m歩行テスト・6分間歩行距離で定量評価
A現在の機能水準から3か月後に達成可能な水準と判断
R「孫と一緒に外を歩く」という本人の希望に直結
T転院から3か月後(退院目処)までに達成

▶ 生活期(退院後〜6か月)

一本杖での屋外歩行が自立した状態で退院。退院後2週の訪問で「血圧の薬を飲み忘れる日がある」という話が出たため、ヘルスリテラシーを考慮した段階的な再発予防教育とスマートフォンのリマインダー活用を提案。歩数計を活用し、「孫の運動会まで、毎日5000歩」という具体的なセルフモニタリング目標を本人が設定した。

退院3か月後には軽度の抑うつ傾向(PHQ-9で7点)を確認し、医師・看護師へ早期連携。心理的ケアを優先しながらリハビリを継続した。

Outcome

発症6か月後:孫の運動会に参加

一本杖で参加。競技中の孫を妻と並んで観戦。
「絶対に来ようと思ったから頑張れた」
身体活動量は退院時比で平均歩数が約1.8倍に増加。

まとめ:「目標の芯」を病期をまたいでつなぐ

病期目標の焦点主なフレームワーク
急性期 廃用予防・早期離床・見通しの共有 NIHSS、予後予測、将来ゴールのシード記録
回復期 生活機能の再獲得・社会復帰 SMART原則、SDM、自己効力感の育成
生活期 維持・予防・自己管理 ヘルスリテラシー配慮、セルフモニタリング、抑うつの早期捕捉

各病期のフレームワークは異なりますが、それ以上に重要なのは「患者が何のためにリハビリをするのか」という芯を、病期をまたいで一貫してつなぎ続けることです。

急性期に聞いた「孫の運動会」という言葉が、回復期のSMART目標のRになり、生活期のセルフモニタリングの動機になります。その連続性こそが、目標設定を「医療者の作業」から「患者自身の生活の羅針盤」へと変えます。

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📊 GASによる目標達成度の定量評価
🤝 チーム連携と目標の断片化を防ぐ方法
🧠 脳卒中後うつの早期スクリーニング実践
📱 ICTを活用した目標管理システムの展望
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