脳卒中片麻痺患者さんの麻痺側下肢筋力を評価するとき、「膝伸展筋力(HHDでの徒手筋力測定)」と「脚伸展筋力(体重計を使った測定)」、どちらを優先すべきか迷ったことはありませんか?
今回は、この2つの筋力評価法と移動能力(FIM:移乗・歩行・階段昇降)との関連を比較した研究をご紹介します。臨床での筋力評価法の選択に、ぜひ役立ててください。
📝 この記事でわかること
- 膝伸展筋力(OKC)と脚伸展筋力(CKC)の違い
- どちらが移動能力との相関が強いか(研究結果)
- 臨床で下肢筋力を評価する際の実践的なポイント
なぜ「筋力測定の運動様式」が問題になるのか
脳卒中片麻痺患者さんの筋力評価には、従来BRS(ブルンストロームステージ)のような質的評価が広く使われてきました。一方で、HHD(Hand-held Dynamometer)などによる量的な筋力評価の使用頻度は約2割程度にとどまるという報告もあります。
しかし近年、麻痺側下肢の筋力強化運動がADL能力の改善につながることが多くの研究で示され、脳卒中治療ガイドライン2009でも麻痺側下肢筋力トレーニングはグレードAで推奨されています。量的な筋力評価の重要性が、あらためて見直されているのです。
下肢筋力の測定方法には、運動様式によって大きく2つのタイプがあります。
🏷️ 用語解説:OKCとCKC
OKC(Open Kinetic Chain・開放性運動連鎖)
末端(足部)が固定されていない運動様式。例:座位での膝伸展運動
CKC(Closed Kinetic Chain・閉鎖性運動連鎖)
末端が床や台に接して固定された状態で行う運動様式。例:立ち上がり動作、歩行
CKCでの筋力強化は、起立や歩行といった実際の動作課題に近い運動様式であるため、運動学習の効果も期待できると考えられています。ただし、脳卒中片麻痺患者を対象にOKCとCKCの筋力評価を比較し、移動能力との関連を検討した報告はこれまでありませんでした。
研究概要:どんな方法で比較したのか
| 対象 | 初発脳卒中片麻痺患者23例(発症1ヶ月以内、BRSⅢ以上) |
| 膝伸展筋力 | HHDを用いた端座位での等尺性筋力測定(OKC) |
| 脚伸展筋力 | 市販体重計を用いた座位での下肢伸展力測定(CKC) |
| 移動能力 | FIM運動項目のうち「移乗」「歩行」「階段昇降」の合計点 |
| 分析 | Spearmanの順位相関係数、Fisherのz変換による相関係数の差の検定 |
結果:脚伸展筋力の方が移動能力との関連が強かった
測定の信頼性については、膝伸展筋力・脚伸展筋力ともに検者内再現性の高いICCが確認され、安定した測定であったといえます。
移動能力との相関を見ると、膝伸展筋力はr=0.56で中等度の相関にとどまったのに対し、脚伸展筋力はr=0.85と強い相関を示しました。この2つの相関係数の差は統計的にも有意で、脚伸展筋力の方が移動能力をより強く反映することが示されています。なお、膝伸展筋力と脚伸展筋力の間には有意な相関は認められませんでした。
✅ 結果のポイント
- 膝伸展筋力と移動能力:中等度の相関(r=0.56)
- 脚伸展筋力と移動能力:強い相関(r=0.85)
- 脚伸展筋力の方が有意に高い相関を示した(p<0.05)
- 膝伸展筋力と脚伸展筋力の間に相関なし=別の能力を反映している可能性
なぜ脚伸展筋力の方が移動能力を反映しやすいのか
片麻痺患者さんの運動障害は基本的に随意運動の障害であり、座位での単関節の随意的な膝伸展は、麻痺の程度によって発揮しにくい場合があります。一方で、荷重時のような多関節・多筋群が関与する場面では、比較的強い筋活動(automaticな筋活動)が引き出されやすいと考えられています。
そのため、座位で十分な膝伸展運動が難しい患者さんでも、立ち上がりや歩行時には膝関節伸展筋群の収縮が可能なケースを臨床でもしばしば経験するのではないでしょうか。この研究結果は、そうした臨床的な感覚とも一致する内容といえます。
💡 臨床応用のポイント
- 膝伸展筋力(単一筋群)だけで下肢機能を判断しない
- 可能であれば脚全体の伸展力(多関節・荷重に近い運動様式)も併せて評価する
- 座位での膝伸展が弱くても、CKC的な評価では異なる結果が出ることがある点を念頭に置く
- 市販体重計を使った脚伸展筋力測定は、特別な機器がなくても臨床で導入しやすい
本研究の限界
脚伸展筋力の測定方法には、先行研究と比較して骨盤の固定性が十分でない点、体幹や非麻痺側下肢の肢位が規定されていない点があり、体幹の姿勢保持能力など、脚伸展筋力以外の要素が結果に影響している可能性が指摘されています。また対象者数が23例と限られており、今後はランダム化比較試験などによる縦断的な検証が必要とされています。
まとめ
今回ご紹介した研究から、脳卒中片麻痺患者さんの麻痺側下肢筋力評価においては、膝伸展筋力という単一筋群の評価だけでなく、脚伸展筋力のような多関節・荷重に近い運動様式での評価を組み合わせることの重要性が示唆されました。日々の評価やアプローチを組み立てる際の一つの視点として、ぜひ参考にしてみてください。
📚 参考文献
川端悠士,林真美,南秀樹,溝口桂:脳卒中片麻痺患者における麻痺側下肢筋力と移動能力の関係─膝伸展筋力・脚伸展筋力の比較─.理学療法科学,2011,26(3): 377-380.
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