TKA術後の理学療法評価、ROM・筋力だけで足りていますか?症例検討で勉強する

運動器リハビリ

TKA術後の理学療法評価、ROM・筋力だけで足りていますか?

TKA(人工膝関節全置換術)術後の理学療法では、「膝関節可動域」「疼痛」「筋力」を評価することが、いわば定番になっています。もちろん、これらはどれも欠かせない評価項目です。

ただ、実際の臨床では、これらを測定して終わりにしてしまうと、患者さんが本当に困っていることを見落としてしまうケースがあります。今回は、右TKA術後5日目の70歳代女性の症例をもとに、「評価項目を埋める」評価から一歩進んだ、臨床推論の考え方をご紹介します。

TKA術後リハでよくある評価の落とし穴

TKA術後の患者さんを担当すると、多くの理学療法士が次のような問いを頭に浮かべると思います。

  • 膝関節屈曲は何度か
  • 伸展制限はあるか
  • 大腿四頭筋のMMTは何点か
  • 疼痛はNRSで何点か

これらは確かに重要な評価項目です。しかし、評価の目的は検査項目を埋めることではありません。数値を測定した先に、「この結果が、患者さんの生活にどうつながっているのか」まで考えて初めて、評価が臨床推論として機能します。

評価の前に立てるべき問い「なぜ買い物に行けないのか」

理学療法評価は、本来「何を測定するか」からではなく、「この患者さんについて何を知りたいのか」から考えるべきものです。そのうえで、「それを知るためには何を評価すればよいか」という順番で組み立てていきます。

今回ご紹介する症例には、明確なHOPEがありました。「また自分で買い物に行けるようになりたい」というものです。この視点を持つと、「歩行能力低下」という一言だけでは問題を捉えきれないことが見えてきます。買い物に行くためには、屋内移動・上がり框の跨ぎ・屋外歩行・坂道歩行・スーパー内移動など、一連の活動が必要になるからです。

症例紹介|70歳代女性・右TKA術後5日目

診断名:右変形性膝関節症(右TKA施行、術後5日目)

主訴:「膝が痛くて歩くのが怖い」「手術をした足に力が入りにくい感じがする」

HOPE:「また自分で買い物に行けるようになりたい」「できれば杖を使わずに歩けるようになりたい」

在宅環境:戸建て2階建て(寝室は2階)、最寄りのスーパーまで徒歩約8分・途中に坂道あり

病棟内では歩行器を使用して自立しており、荷重制限もありません。それでも本人からは「膝を曲げると痛い」「右足に体重をかけるのが少し怖い」「右足が弱い感じがする」という訴えが聞かれました。

仮説から評価へ|臨床推論の3ステップ

STEP1 問題の仮説を立てる

評価を始める前に、まず「この患者さんは何に困っているのか」を考えます。今回のケースでは、疼痛による荷重制限、ROM制限、筋力低下、術前からの歩行パターンの残存、荷重への恐怖感など、複数の仮説が考えられました。この段階では、どれか一つに決めつけず、いくつもの可能性を並べて持っておくことがポイントです。

STEP2 仮説を検証する評価を選ぶ

仮説が立ったら、次はそれを検証するための評価を選びます。ここで大切なのは、「膝屈曲ROMを測る」で終わらせず、「なぜその評価をするのか」まで言語化することです。例えば「膝関節屈曲制限が、実際の立ち上がりや歩行、階段昇降に影響しているかを確認するため」というところまで考えると、評価項目に意味が生まれます。

STEP3 評価結果から仮説を検証する

実際に評価を行うと、安静時の疼痛は軽度でも荷重時や階段下降時に疼痛が増強すること、膝関節に屈曲・伸展制限があること、右膝伸展筋力が低下していることがわかりました。さらに歩行観察やTUG、階段昇降の様子から、右下肢への荷重を避けるような動作パターンが随所に見られました。

ここで重要なのは、これらの結果を「筋力低下だから」「痛いから」と単独の原因に切り分けないことです。疼痛・ROM制限・筋力低下・荷重への恐怖感がどのように絡み合い、退院後の生活動作にどうつながっているのかを一つの流れとして捉える必要があります。

TKA術後評価で意識したい5つの視点

  1. 数値ではなく動作への影響を見る―ROMやMMTの数字だけでなく、それが動作にどう影響しているかを確認する
  2. 疼痛は「強さ」より「出現場面」を確認する―安静時と動作時、荷重時の違いを分けて聞く
  3. 術前からの動作パターンを疑う―手術で構造的な問題が改善しても、痛みを避ける習慣が残っていないか確認する
  4. 心理的な要素を見逃さない―「怖い」という発言の背景を、問診や会話から探る
  5. 病棟内歩行自立=生活自立ではない―退院後の生活動作(階段・屋外歩行・坂道など)から逆算して評価項目を選ぶ

まとめ|評価は「答え合わせ」ではなく「仮説修正」の作業

TKA術後の理学療法評価は、ROM・疼痛・筋力を測定するだけでは十分とは言えません。「なぜ、この患者さんは今の生活になっているのか」という問いを起点に、仮説を立て、評価で検証し、必要があれば仮説を修正していく。このプロセスの積み重ねが、患者さんのHOPEに近づくための理学療法上の問題点の抽出につながっていきます。

続きが気になる方へ

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今回ご紹介したTKA症例は、note限定マガジン「臨床理学Lab|リハの地図〜学びnote〜」の症例検討シリーズの一部です。実際の評価結果の詳細や問題点の統合と解釈(ICF分類)、治療プログラムの立案、最終評価までを、読者自身が考えながら読み進められる形式でまとめています。

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