急性期脳卒中の理学療法評価|優先順位と歩行の予後予測
「評価したいことが多い。でも、患者さんにかけられる時間は限られている」
急性期の脳卒中では、麻痺の検査、感覚、バランス、基本動作、歩行と、 確認すべきことが広がります。 さらに、離床の安全性と病状の変化を見ながら、 目標や転院後の見通しまで考える必要があります。
私が評価を整理するうえで大切だと考えるのは、 「今日どこまで動かせるか」と 「その判断に何が足りないか」を先に明らかにすることです。
- 急性期脳卒中で評価を進める優先順位
- 歩行の予後予測に使える指標と、その限界
- 歩行再獲得に向けて見落としたくない評価項目
- 早期離床・装具・課題指向型練習の推奨をどう読むか
本記事は保管資料のガイドラインと総説をもとに、 理学療法士の視点から評価の考え方を整理したものです。 青は文献の知見、緑は筆者の解釈、黄は注意点を示します。 実際の症例経験や治療成績を報告する記事ではありません。 個別患者の離床・負荷設定は、病態と医師の指示、 施設の運用に照らして判断してください。
急性期脳卒中の理学療法評価は何から始める?
私は、評価を「安全性」「評価に参加できる状態」 「運動・感覚」「基本動作」「歩行と生活」の5つに分けると、 優先順位を考えやすいと思います。 これは文献をもとにした整理案であり、 この順番自体の有効性が検証されているわけではありません。
病態・治療・安静度を確認する
病型、発症時刻、画像と神経症状の経過、 血栓溶解・血栓回収・手術の有無、 血圧管理指示、呼吸循環状態を確認します。
ここで決めたいのは、 今日実施できる姿勢と運動負荷の範囲です。
根拠:文献1 CQ1、文献2 pp.668–669。 早期理学療法は条件付き推奨/D。
検査結果を解釈できる状態か
意識、指示理解、注意、意思疎通、視覚・聴覚入力を確認します。 GCSや、状況に応じてRASSなどを使います。
動けない理由には、麻痺に加えて、 失語、鎮静、注意障害などが関わる場合があります。
根拠:文献2 p.669。 総説による解説で、介入GRADEは付いていません。
麻痺の程度と動作の問題をつなげる
SIAS、FMA、BRSなどから目的に合う尺度を選び、 関節可動域、筋緊張、疼痛、感覚、非麻痺側機能を確認します。
点数を付けるだけで終わらず、 立脚の支持や振り出しにどう影響するかを考えます。
根拠:文献1 BQ5・7、文献2 pp.669–671。 評価指標の解説・総説。
座位・立ち上がり・移乗を確認する
許可された範囲で、起き上がり、座位保持、 立ち上がり、立位、移乗を確認します。
体幹制御、支持の必要性、症状やバイタルの変化を見ながら、 次に進める活動を判断します。
根拠:文献1 BQ5・7、文献2 pp.669–672、文献3。 総説・予後研究。
歩けることを病棟生活につなげる
歩行が可能なら、FACによる介助・監視の必要性、 歩容、距離、疲労を確認し、 必要に応じて10m歩行、TUG、BBSなどを追加します。 ADLはFIMやBIなどで捉えます。
歩行速度が測れることと、 トイレまで安全に一人で行けることは、 別に評価する必要があります。 方向転換、環境への注意、補助具の扱いなどを 生活場面で確認する視点が大切です。
根拠:文献1 BQ7、文献2の病棟ADLへの反映。 後半は筆者の実務上の解釈。
初回評価では、「安全に進められる活動」「必要な介助」 「まだ判断できないこと」を明確にする方が、 次の介入につながると考えます。 安静度で実施できない検査は、その理由を記録し、 実施可能になった段階で追加します。
発症48時間以内の理学療法=積極的な離床ではない
脳卒中理学療法ガイドラインのCQ1では、 発症48時間以内の理学療法は 条件付き推奨、エビデンスの強さD(非常に弱い) です。 条件は「神経症状や全身状態が安定している場合」とされ、 24時間以内の早期理学療法はエビデンス評価から除外されています。 [1:CQ1、pp.32–34]
ここで大切なのは、「理学療法を開始すること」と 「長時間の座位・立位・歩行を行うこと」を分けて考えることです。 ベッドサイドの評価や姿勢調整と、 離床による運動負荷では、内容も負担も異なります。
2025年のCanadian Stroke Best Practicesでも、 発症24時間以内の高強度離床は推奨されていません。 医学的に安定した場合に、 24〜48時間を目安に慎重に離床を始める方針です。[5]
新たな麻痺や意識の悪化、強い頭痛、呼吸循環の不安定化、 医師から指定された管理範囲からの逸脱があれば、 中止・報告を判断します。 血栓回収後の穿刺部や処置に伴う制限にも注意が必要です。 一律の血圧値や時間だけで、 全患者の離床可否を決めることはできません。
上記は安全運用の整理です。 資料から共通の数値中止基準を設定したものではありません。
歩行の予後予測は、麻痺の程度だけで決めない
最初に「何を、いつまでに予測するか」を決める
「歩けるようになる」という言葉には、 平行棒内での介助歩行、屋内自立、屋外移動など、 異なる意味が含まれます。 麻痺そのものの回復と、 装具や杖を使用した歩行自立も同じではありません。
予後予測では、 帰結・測定時期・達成時点を そろえて考える必要があります。 発症15日後の予測を、3か月後や退院後の生活に そのまま置き換えないことが重要です。[3]
| 指標・情報 | 何を見るか | 限界・注意点 |
|---|---|---|
| SIAS・FMA下肢・BRS | 初期の下肢運動障害とその変化 | BRSだけでは筋力、感覚、歩行の実用性を捉えきれない |
| 座位・体幹・バランス | 姿勢保持、重心移動、動作の安定性 | 支持条件や尺度をそろえる。座位良好だけで歩行を確約しない |
| 感覚・無視・認知・ADL | 運動以外の歩行自立に関わる要素 | 関連因子の有無は、個人の将来を確定するものではない |
| 年齢・発症前能力・併存疾患 | 回復と生活を考える背景情報 | 年齢だけで可能性や介入の適応を制限しない |
| 画像・皮質脊髄路等 | 臨床評価を補う病態情報 | 上肢と下肢の予測因子を混同しない。 画像だけで歩行予後を断定しない |
根拠:文献1 BQ4–5、文献3。 予後因子・観察研究の紹介であり、 各指標に介入の推奨等級を付けた表ではありません。
予測研究から読み取れるのは「複数の機能を見る必要性」
平塚らは急性期脳卒中患者612名を対象に、 発症早期の機能評価から15日後の歩行を予測する 決定木を作成しました。 SFBBSが上位の分岐に選ばれ、 他の運動・感覚・認知指標も組み合わされました。[6]
観察研究。通常のBBSとSFBBSは同じ尺度ではありません。 研究内の分岐点を、そのまま病棟歩行の 自立許可基準にすることはできません。
また、予後予測の総説では、 Prestonらの系統的レビューが紹介され、 下肢筋力、座位保持、認知・無視、失禁、ADLなどが 歩行自立の見通しに関わると整理されています。 ここでは総説を介した知見として扱います。[3]
予測は、患者さんの可能性を固定するためではなく、 今の介入と準備を考えるために使いたいと思います。 「歩ける/歩けない」の二択より、 好ましい因子、妨げとなる因子、 まだ評価できていない因子を共有する方が、 次の判断につながります。
現時点では、座位保持と下肢の動きが 歩行の見通しを考える材料になっています。 感覚や注意、病状の変化も影響するため、 経過を見ながら目標を調整していきます。
患者・家族への説明例として作成した文です。 実際の患者との会話ではありません。
歩行再獲得に向けて確認したい6つの評価領域
歩行観察では、見た目の異常を並べるだけでなく、 「どの局面で、何が足りず、どの支援で改善するか」を 確認したいと考えます。
① 立脚の支持性
膝折れ、反張膝、足部の接地、麻痺側荷重、 股関節・体幹の制御を見ます。 筋力に加えて、感覚、関節可動域、姿勢、 装具の影響も考えます。
② 遊脚の振り出し
股・膝の屈曲、足関節背屈、足部クリアランス、 体幹や骨盤の代償を見ます。 ベッド上で可能な運動が、 歩行中にも発揮できるかを確認します。
③ 体幹・動的バランス
重心移動、立ち上がり、方向転換、支持の変化を見ます。 尺度の点数とともに、 不安定になる場面や介助の理由を残します。
④ 感覚・注意・視覚
位置覚、無視、視野、注意、危険認識を確認します。 下肢の動きが良好でも、 障害物や周囲の人への対応が難しい場合があります。
⑤ 距離・速度・疲労
FAC、歩行距離、必要に応じた歩行速度、 症状やバイタル反応を確認します。 耐久性検査は必要性と安全性が整った段階で追加します。
⑥ 装具・補助具への反応
装着による支持性、クリアランス、介助量の変化に加え、 疼痛や皮膚の状態を見ます。 補助具の操作や装着方法も生活の自立に関わります。
文献1 BQ5・7とCQ8、文献2、文献4をもとに 筆者が統合した観察項目です。 6領域の分類そのものに推奨等級はありません。
装具・杖、介助者数、介助部位、距離、方向転換、 症状、開始前後の反応を一緒に残すと、 次の担当者が判断しやすくなります。 歩行距離だけで改善を捉えず、 介助量と安全性の変化も確認します。
装具・課題指向型練習・川平法の根拠をどう読むか
ガイドラインを読む際には、推奨の強さに加えて、 対象、比較した介入、目的とする結果を確認します。 エビデンスの確実性が低いことは、無効の証明ではありません。 一方で、効果を確実なものとして説明することもできません。
| 介入/出典 | 推奨・確実性 | 臨床での読み方 |
|---|---|---|
| 早期理学療法/文献1 CQ1 | 条件付き/D | 神経症状・全身状態の安定が条件。 24時間以内は評価対象外 |
| バランス練習/CQ3 | 条件付き/C | 評価で明らかになった姿勢・動作の問題に対応させる |
| トレッドミル/CQ7 | 条件付き/C | 歩行練習全般の等級ではない。適応と安全な条件を選ぶ |
| 下肢装具/CQ8 | 条件付き/D | 根拠は主にAFO。KAFOの効果は研究が不十分 |
| 下肢の運動量増加/CQ11 | 条件付き/D | 急性期から一律に頻度・強度を増やす指示ではない |
| 課題指向型練習・サーキット/CQ12 | 条件付き/D | ADL・移動能力向上が目的。 転倒予防効果まで確立してはいない |
| 特定コンセプトに基づく理学療法/CQ6 | 介入・対照双方への条件付き/D | 一般運動療法または併用も含めて選ぶ。 特定手技の一律の優越性を示していない |
C=弱い、D=非常に弱い。 今回確認した文献1の等級であり、 他のガイドラインと同じ評価体系とは限りません。
下肢装具:補助効果と機能回復を分けて考える
文献1ではAFOによる歩行速度やバランス等への効果が 整理されていますが、 KAFOは研究の質・量が不十分とされています。[1:CQ8]
装具を使って歩行が安定したことは、 練習や生活にとって大切な変化です。 ただし、装具による補助効果と、 装具なしの機能改善は分けて記録したいと考えます。 安全を損なう比較をせず、条件が整った場面で評価します。
課題指向型練習:生活の課題を具体化する
私は「トイレまで移動する」「ベッドから椅子に移る」など、 生活に必要な動作から課題を選ぶ考え方が使いやすいと思います。 ただし、課題を反復できることが前提です。 介助・装具・環境を調整し、 疲労や症状を見ながら難易度を変えます。
促通反復療法:手技の改善を実際の動作につなげる
促通反復療法の総説では、目標運動の促通と反復、 装具・杖の活用、非麻痺側や体幹機能を使った 実用歩行の獲得が重視されています。[4]
総説の反復回数や歩行手順は、 急性期患者全員への標準処方ではありません。 また、特定コンセプトの推奨を、 川平法単独の効果の確実性と読み替えないことが重要です。 選択した介入が立脚、振り出し、介助量、 生活動作の改善につながったかを評価します。
限られた時間で残したい評価記録
私は、検査を増やす前に、 記録から次の判断ができるかを確認することが大切だと考えます。 次の6項目は、初回評価や申し送りを整理するための案です。
- 安全条件: 病型、発症日、治療、安静度、管理指示、症状の変化
- 機能: 意識・理解、下肢運動、感覚、無視、体幹・座位
- 活動: 起き上がり、移乗、歩行の介助量と理由
- 歩行条件: 装具・杖、介助、距離、症状・バイタル反応
- 見通し: 予測する帰結と時点、好ましい因子、不確実な因子
- 次の判断: 練習課題、病棟の移動方法、再評価・報告の条件
「BRSⅢだから歩行は難しい」で止まらず、 座位、支持性、感覚、理解、装具への反応を確かめます。 一方で、「歩行速度が速いから自立」とも決めず、 方向転換や生活場面の安全を確認します。
急性期脳卒中の評価でよくある疑問
BRSだけで歩行の予後を予測できますか?
BRSは運動麻痺の整理に使えますが、 歩行には体幹、支持性、感覚、注意、補助具なども関わります。 単独で歩行自立の有無や時期を確定する使い方は 避けたいと考えます。[1、3]
初回評価でBBSや10m歩行まで実施するべきですか?
安全性と安静度、実施可能な動作に合わせて選びます。 立位や歩行が難しい段階では、 臥位・座位で得られる情報と基本動作を確認し、 実施できない理由を残す方法が実用的です。
予後予測モデルのカットオフで歩行自立を許可してよいですか?
予測モデルは将来の帰結を推定するものです。 今日の病棟歩行を許可する安全基準とは異なります。 対象、尺度、測定時期、外部検証を確認し、 実際の行動観察と施設の基準で判断します。[3、6]
評価は、次の臨床判断につなげるために
急性期脳卒中では、安全性を確認し、 運動・感覚と実際の動作をつなげ、 経過とともに見通しを更新することが大切です。 私自身は「何点だったか」に加えて、 今日どこまでできるか、どの支援が必要か、 次に何を確かめるか を明確にする評価を意識したいと考えます。
【参照元】
ガイドラインの知見と総説を優先し、 本文は筆者の言葉で要約・解釈しています。 有料資料の図表・誌面画像・本文の長文転載はしていません。 保管PDFへの非公開リンクは掲載せず、 確認できた公開原文にリンクしています。
- 日本神経理学療法学会.脳卒中理学療法ガイドライン. 保管ファイル:脳卒中理学療法ガイドライン.pdf. 参照:BQ4–7、CQ1・3・6–8・11–12。 推奨作成は2020年の会議を含む。 保管PDFの抜粋では書籍全体の版・発行年を 確定していないため、 ここでは最新版とは表記していません。
- 中山恭秀.急性期における脳卒中片麻痺の理学療法. 理学療法ジャーナル.2025;59(6):667–672. 保管ファイル:急性期における脳卒中片麻痺の理学療法.pdf. 総説。
- 石黒幸治,福元裕人.脳卒中片麻痺の予後予測. 理学療法ジャーナル.2025;59(6):660–666. 保管ファイル:脳卒中片麻痺の予後予測.pdf. 総説。 Prestonら、二木、TWIST等の知見は この総説を介して参照し、 原著の全文を独立して検証したものではありません。
- 宮本明,川平和美. 脳卒中片麻痺の回復・改善促通に寄与する治療や考え方: 促通反復療法(川平法). 理学療法ジャーナル.2025;59(6):698–700. 保管ファイル: 脳卒中片麻痺の回復・改善促通に寄与する治療や考え方 促通反復療法(川平法).pdf. 総説。
- Heart and Stroke Foundation of Canada. Canadian Stroke Best Practice Recommendations: Stroke Rehabilitation Planning, 2025. Section 3, Delivery of Inpatient Stroke Rehabilitation. 公式推奨を読む (2026年10月7日確認)。
- 平塚健太,田宮高道,松岡審爾,木村一志. 脳卒中患者における発症15日後の歩行自立因子とその相互関係 ─決定木分析を用いた検討─. 理学療法科学.2021;36(3):361–367. doi:10.1589/rika.36.361 . 保管総説の図と、公開原著の抄録で研究概要を確認。
確認範囲:保管4資料の本文を取得。 元PDFの視覚確認は、 ガイドラインの推奨一覧、 急性期総説pp.668–669、 予後総説p.664の決定木、 川平法総説p.699で実施。 全ページ・全図表の視覚確認はしていません。
