人工膝関節全置換術(TKA)後の痛みは創部だけじゃない|疼痛の経過と部位【論文解説】

運動器リハビリ

TKA(人工膝関節全置換術)後の理学療法で、術後の疼痛をどのように評価していますか。

「NRSは何点ですか?」と聞いて、創部を中心に見て終わりにしていないでしょうか。実際には、膝の裏(膝窩)や膝のお皿の内側、太ももの前面が痛いという訴えも、臨床でよく聞きます。

この記事では、TKA後早期の疼痛強度と疼痛部位の推移を調べた論文(中北ら, 2014)を、研究デザインから限界まで理学療法士向けに解説します。

この記事の結論(先に3行で)

  • TKA後の痛みは術後1日目が最も強く、2〜3日目にかけて低下し、3日目以降は横ばい
  • 歩行時痛は安静時痛より強く、術後5日目でも約4分の3の患者に痛みが残る
  • 痛みは創部だけでなく、膝窩・膝蓋骨内側・大腿前面にも出やすい

論文の概要と研究の目的

今回紹介するのは、次の論文です。

中北智士, 和田治, 飛山義憲. 人工膝関節全置換術後早期の理学療法における疼痛強度および疼痛部位の推移. 理学療法科学 29(6): 917–922, 2014.

TKA後は、術後早期からの理学療法が推奨されています。一方で、術後の強い疼痛は理学療法の進行を遅らせ、不活動を助長し、運動機能の低下につながります。

先行研究では「術後の疼痛は1日目が最も強く、その後は軽減する」ことが示されていました。しかし、その多くは安静時痛のみの報告でした。

  • 歩行時痛の推移は不明だった
  • 疼痛部位の推移を調べた報告はなかった

そこで本研究は、TKA後早期の疼痛強度(安静時・歩行時)と疼痛部位の推移を明らかにすることを目的としています。

研究デザイン

デザインと対象

論文中に明記はありませんが、内容からは、単一施設で1つのプロトコルに沿って経過を追った縦断的な観察研究と読み取れます。対照群はありません。

  • 対象:2013年に片側TKAを施行した患者(男性35名、女性163名、平均72.2歳、BMI 26.1)
  • 術式:すべて medial parapatellar approach
  • 除外基準:著明な術後せん妄、深部静脈血栓、膝以外の下肢・腰部の整形外科的既往、神経学的異常、中枢疾患の既往、認知症

術後管理(施設プロトコル)

  • 鎮痛:術中カクテル療法に加え、術後はロキソプロフェンとアセトアミノフェン(またはトラマドール・アセトアミノフェン配合剤)を1日3回定期内服
  • 術後1日目に歩行器歩行を開始し、2日目から杖歩行練習、3日目に杖歩行自立を目指す
  • 4日目に階段昇降を実施し、5日目に退院
  • 理学療法の内容:アイスマッサージ、足関節底背屈運動、股関節内外旋・内転等尺性運動、膝関節の自己他動運動

評価方法と統計解析

  • 術後1〜5日目まで毎日、理学療法実施後に聴取
  • 安静時(背臥位)と歩行時の2条件で評価
  • 疼痛強度はNRS(複数部位ある場合は最も強い部位の値を採用)
  • 疼痛部位は14部位に分類(創部、膝窩、大腿前面・後面・外側、下腿前面・後面・内側・外側、膝蓋骨上部・下部・内側・外側)。複数部位ある場合はすべて記録
  • 統計解析:術後日数間の比較は Kruskal-Wallis 検定+Bonferroni 法、性差の検討は二元配置分散分析

結果:疼痛強度と疼痛部位の推移

TKA後の疼痛強度(NRS)は術後早期に急速に低下する

NRSの平均値の推移は次のとおりです(論文の表1より)。

1日目 2日目 3日目 4日目 5日目
安静時痛2.00.90.50.50.6
歩行時痛4.43.22.21.51.6
  • 安静時痛・歩行時痛ともに、2日目以降は1日目より有意に低下
  • 3日目以降は2日目よりさらに有意に低下
  • 3〜5日目の間には有意差なし(横ばい)
  • 安静時痛は全体的に低値で、歩行時痛のほうが強い
  • 性差は、どの評価日でも有意差なし

痛みを認めない患者の割合

  • 安静時痛なし:1日目46.7% → 4日目75.8%
  • 歩行時痛なし:1日目4.5% → 5日目24.9%
  • 歩行時には、術後5日目でも約4分の3の患者が何らかの痛みを訴えている

TKA後の疼痛部位:創部以外にも出る

歩行時に痛みを訴えた人数の推移です(主な4部位、論文の表7より。複数部位の重複あり)。

部位 1日目 2日目 3日目 4日目 5日目
創部9576687771
膝窩4243322426
膝蓋骨内側2628232726
大腿前面1718151411
  • 安静時は、創部・膝窩・膝蓋骨内側が多い
  • 歩行時は、創部・膝窩・膝蓋骨内側・大腿前面が多い
  • 膝蓋骨内側や大腿前面の痛みは、術後5日目になってもあまり減らない

研究の結論・まとめ

著者らの結論は次のとおりです。

  1. TKA後の疼痛は術後1日目が最も強く、その後軽減する
  2. 歩行時痛は安静時痛より強く、3日目以降は落ち着く
  3. 疼痛は創部だけでなく、膝窩・膝蓋骨内側・大腿前面にも出現する
  4. 術後早期から創部以外の疼痛も考慮した理学療法が重要である

TKA後の理学療法にどう活かすか

1. 疼痛評価は「安静時」と「歩行時」の両方で行う

歩行時痛は安静時痛より高く、術後5日目でも残る患者が多くいます。安静時NRSだけでは、動作時の困りごとを見落とします。

2. 「どこが痛いか」を毎回聞く

創部だけを見ず、膝窩・膝蓋骨内側・大腿前面も確認します。ボディチャートで記録しておくと、日々の変化を追いやすくなります。

3. 部位ごとに原因の仮説を立てる

著者らは、次のような仮説を考察で挙げています。ただしこれらは調査で検証されたものではなく、あくまで推察です。

部位 著者らが挙げた要因(推察) 評価・介入のヒント
膝窩腫脹によるハムストリングスの緊張亢進、術前ROM筋緊張、腫脹、ROMの確認
膝蓋骨内側内側軟部組織の処置、鵞足炎の残存、伏在神経の絞扼鵞足部・内転筋管付近の圧痛確認
大腿前面手術侵襲を受けた大腿四頭筋への歩行時負荷歩行時の荷重、筋スパズム、大腿四頭筋の評価

4. 「経過の目安」として使う

歩行時NRSは、1日目で平均4.4でした。NRS4以上は中等度〜強度の疼痛の目安とされます。3日目以降は2点前後まで低下する経過でした。

この経過から大きく外れる場合(増悪、いつまでも下がらない、想定外の部位の痛みなど)は、理学療法の負荷だけを疑うのではなく、腫脹・熱感・血栓・感染などの合併症も念頭に置いて、医師・看護師に早めに共有することが大切です。この点は本研究の結果ではなく、一般的な臨床上の注意点です。

5. 性差を理由にした先入観を持たない

本研究では、性別による疼痛強度の差はありませんでした。「女性だから痛みが強い」といった先入観は不要です。

6. 鎮痛薬・アイシングとリハのタイミングを合わせる

本研究の施設では定期内服で鎮痛管理をしており、その中で杖歩行への移行が疼痛増強なく行えました。鎮痛薬の効いている時間帯に理学療法を設定できるか、看護師と相談してみる価値があります。

研究の限界

批判的に読むと、次の点に注意が必要です。

① 対照群のない観察研究である

疼痛の軽減が、鎮痛薬、アイシング、理学療法、自然経過のどれによるのかは区別できません。考察で「内服コントロールとアイスマッサージの影響」とされている点は、あくまで推測です。

② 単一施設・単一プロトコルである

鎮痛方法(定期内服、術中カクテル療法)、リハの進め方、5日退院という設定は、この施設のものです。神経ブロックの併用や在院日数が異なる施設では、経過が変わる可能性があります。

③ 評価のタイミングと方法

  • 評価は午後の理学療法実施後で、その直後の痛みを反映しています。運動前や夜間・早朝の痛みは評価されていません
  • NRSは「最も強い部位」の値のみで、部位ごとの強度は不明です
  • 部位は人数の集計で、強度との関係は示されていません

④ 疼痛の原因は調査していない

著者らも述べているとおり、疼痛部位の原因は今後の課題です。臨床での対応は、あくまで仮説にとどまります。

⑤ 統計解析と数値の整合性に注意

  • 同じ患者を繰り返し測定したデータに Kruskal-Wallis 検定が使われています(通常は対応のある検定が用いられます)
  • 対象者数が抄録では197名、本文では198名と食い違っています
  • 表1と表2でSDが大きく異なる箇所があります(例:2日目の安静時痛のSDは全体で0.8、男女別では1.8〜1.9)

いずれも結論の方向性(経過とともに軽減する)を大きく覆すものではないと思いますが、数値をそのまま引用する際には注意が必要です。

⑥ 発表から10年以上経過している

現在は鎮痛法や術後管理が変化しています。数値は目安にとどめ、自施設のデータと照らして使うのが安全です。

よくある質問

Q. TKA後の痛みは、いつまで続きますか?

本研究(術後1〜5日目)では、疼痛は1日目が最も強く、3日目以降は横ばいでした。ただし、歩行時には5日目でも約4分の3の患者に痛みが残っています。5日目以降の経過は、この論文からは分かりません。

Q. TKA後に膝の裏が痛いのはなぜですか?

著者らは、術後の腫脹によるハムストリングスの緊張亢進や、術前の関節可動域の影響を推察しています。ただし本研究では原因を調べていないため、実際の臨床では個別に評価する必要があります。

Q. TKA後の痛みに性差はありますか?

本研究では、術後1〜5日目のどの時点でも、疼痛強度に男女差は認められませんでした。ただし、対象は女性が約8割を占めています。

Q. 痛みが強いときは、理学療法を中止すべきですか?

本研究のプロトコルでは、荷重は「疼痛自制内」で行われていました。痛みの部位・強度・経過を評価したうえで、負荷を調整することが大切です。急な増悪や強い腫脹・熱感などがある場合は、医師・看護師に共有してください。

まとめ

  • TKA後の疼痛は術後1日目が最も強く、2〜3日目にかけて低下し、その後は横ばいになる
  • 歩行時痛は安静時痛より強く、術後5日目でも残る患者が多い
  • 疼痛は創部だけでなく、膝窩・膝蓋骨内側・大腿前面にも出やすい
  • 評価は「安静時+歩行時」「強度+部位」の両方で行う
  • ただし対照群のない単一施設の観察研究であり、原因の推察は仮説にとどまる

論文を読むときは、「結論が正しいか」だけでなく、「自分の患者・自分の施設に当てはまるか」を検証する視点が大切です。まずは明日の担当患者さんで、「どこが、動いたときにどれくらい痛いか」を丁寧に聞くところから始めてみてください。

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参考文献

中北智士, 和田治, 飛山義憲. 人工膝関節全置換術後早期の理学療法における疼痛強度および疼痛部位の推移. 理学療法科学. 2014; 29(6): 917–922.

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