急性期リハビリ・リスク管理|医学情報の確認日:2026年11月3日
「血圧は基準内だから、立っても大丈夫」「SpO₂が戻ったので、もう一度歩こう」。 急性期のリハビリで、こうした判断に迷うことはありませんか。
早期離床では、 数値に加えて、症状、直前までの治療の変化、動作に対する反応を組み合わせて判断すること が大切です。中止した場合には、再開するために何を確認するかまでチームで共有します。
本記事は、主に成人のICU患者に対する離床・積極的な運動療法を対象に、 開始前から再評価までの考え方を整理します。 小児、急性期脳卒中、大動脈疾患、補助循環装着中などでは、 それぞれの病態や機器に応じた指示・手順を優先してください。 一般病棟への適用も個別判断が必要です。
最近のガイドラインから押さえたいこと
2026年9月9日に公表されたASSOBRAFIRのガイドラインは、 成人重症患者に対する 構造化された段階的な早期離床 を推奨しています。 推奨は強い一方、根拠の確実性は低〜中等度です。[1]
ここでいう構造化とは、担当者の経験だけで毎回決めるのではなく、 評価・適応・進行方法をあらかじめ整理することです。 「早く」「長く」実施することだけを目標にするのは適切ではありません。
人工呼吸管理中の成人750人を対象としたTEAM試験では、 通常ケアに比べて早期の能動的離床を増やしても、 180日時点の生存院外日数は有意に増えず、 離床に関連する可能性のある有害事象は増加しました。[2] この結果は、すべての早期離床を否定するものではありません。 対象患者と負荷量を吟味する必要性を示しています。
2026年8月31日公表の韓国のガイドラインも、 見合わせ・中止基準を施設で定めて運用することを強く推奨しています。 ただし、この推奨を支える根拠の確実性は非常に低く、 各数値が絶対的な安全境界として検証されたという意味ではありません。[3]
開始前は「今の値」と「その値を維持するための治療」を見る
離床前には、病状と活動指示を確認したうえで、 少なくとも次の点を整理します。[3,4]
- 呼吸: 呼吸困難、呼吸数、SpO₂、酸素投与・人工呼吸の条件とその変化。
- 循環: 血圧・心拍数・心電図、胸部症状、昇圧薬の新規開始や増量。
- 意識・参加: 覚醒、指示理解、疼痛、不穏、安全に動ける協力度。
- 身体と機器: 出血、術創、荷重・動作制限、チューブの固定と移動時の余裕。
例えば、同じ血圧でも、治療変更なく維持できている場合と、 昇圧薬を増量して維持している場合では、判断が変わります。 測定時の一枚の写真に加え、直前からの経過を確認する という考え方です。
活動性出血、未治療の心筋虚血、循環動態を脅かす不整脈、 不安定な骨折などがあれば、 まず病態評価・治療と活動範囲の確認を優先します。[4] 「実施できる運動を探す」前に、 離床を見合わせる必要がある状態かを相談しましょう。
中止基準は、数値と症状を一緒に読む
日本版重症患者リハビリテーション診療ガイドライン2023 (J-ReCIP 2023)は、 離床・運動療法の中止基準を「案」として示しています。 以下はTable 8の一部を整理したものです。 全項目を網羅した表ではなく、この範囲内なら安全という判定表でもありません。 [4]
表は横にスクロールできます。 数値はJ-ReCIP 2023の基準案の一部です。
| 項目 | 中止を検討する数値・状態の例 | 読み方の注意 |
|---|---|---|
| 心拍数 | 40回/分未満、または130回/分超 | 一過性を除く。 範囲内でも著しい変化があれば中止して相談する |
| 収縮期血圧 | 90mmHg未満、または180mmHg超 | 一過性を除く。 個別に異なる基準を用いる場合は医師を含めて共有する |
| 呼吸数 | 5回/分未満、または40回/分超 | 一過性を除く。 呼吸努力や呼吸困難も確認する |
| 自覚症状・意識 | 突然の呼吸困難、耐えがたい苦痛・疲労、意識レベル低下 | 数値が範囲内でも継続しない |
| 心電図・機器など | 治療を要する新たな不整脈、虚血疑い、抜去の危険、出血 | 負荷を中止し、必要な医療評価につなぐ |
出典:J-ReCIP 2023、Table 8(印字S941、PDF通し38ページ)。 原表にはSpO₂、平均血圧、鎮静・不穏、創部などの項目もあります。
酸素化の基準を読むときの注意
SpO₂について原表は、90%未満または88%未満を挙げ、 病態や一過性変化への注意を付記しています。 「全員88%まで許容できる」と読み替えないでください。 その患者の目標範囲と中止条件を開始前に共有し、 測定の信頼性と症状を併せて確認します。[4]
また、「一過性を除く」という注記は、 異常を認めても動作を続けてよいという意味ではありません。 安全を確保して負荷を止め、再測定と患者の評価を行います。 強い症状や意識変化がある場合は、 数値の再確認で応援要請を遅らせないことが大切です。
異常が出たら、負荷を止めて評価と報告へつなぐ
次は、ガイドラインの安全管理の考え方を 臨床の行動に落とし込んだ実践例です。 施設の急変対応手順を優先してください。[3,4]
- 動作を中断する: 歩行・立位を続けず、転倒やチューブ牽引を防ぐ。
- 安全な体位を確保する: 意識・呼吸・循環に応じて介助する。 呼吸困難がある患者を一律に仰臥位へ戻すなど、 体位を固定的に決めない。
- 患者を再評価する: 意識、呼吸、胸部症状、血圧、心拍・心電図、 酸素化、機器の状態を確認する。
- 必要な支援を要請する: 新たな胸痛、強い呼吸困難、失神・意識変化、 治療を要する不整脈などでは速やかに医師・看護師へ連絡する。 心停止が疑われる場合は院内のBLS手順に従う。
- 経過を伝える: 何の動作で、どの症状・変化が出て、 中断後にどうなったかを具体的に報告する。
症状が軽快しても、それだけで重大な病態を除外できるわけではありません。 酸素流量、昇圧薬、人工呼吸器設定などを 自己判断で変更して運動を続けることは避けます。
再開は「戻ったか」に加えて「再発を防げるか」を確認する
J-ReCIP 2023は、中止後に症状とバイタルを注意深く確認し、 病態や症状が安定したのちに再開を検討するとしています。[4] 一律の待機時間を決めるのではなく、次の点を確認します。
- 中止理由の整理: 起立に伴う反応、疼痛、機器の問題、新たな病態など、 何を疑っているか。
- 再開の条件: 症状・測定値・治療が安定し、 必要な医療評価と活動指示の確認が済んでいるか。
- 次の負荷: 開始肢位、到達する動作、実施量、休憩、 介助人数をどう調整するか。
- 再中止と報告の条件: 何が再発したら中止し、誰に連絡するか。
例えば、歩行中止後に端座位へ負荷を下げる場合も、 端座位なら必ず安全とは限りません。 まず再開可能な状態かを判断し、 その後に低い負荷からの試行を検討します。
架空例:端座位でめまいが出た場合
肺炎治療後の成人患者が、端座位でめまいを訴えたとします。 心拍数が上の表の範囲内でも、そのまま立位へ進めません。
負荷を中断し、意識・呼吸・循環を再評価します。 体位変換との時間関係、薬剤変更、出血や貧血、 循環血液量の問題などを確認し、 原因を一つに決めつけずチームへ報告します。 回復後も、次にどの体位・負荷で評価するかを共有してから進めます。
この例の学習ポイントは、 中止した理由と、次に安全に試すための条件を言葉にすること です。実在の患者に基づく事例ではありません。
明日の臨床で確認したい3つの問い
- 今の状態だけでなく、酸素や薬剤などの治療は直前に変わっていないか。
- この患者では、何が起きたら中止し、どこへ連絡するか。
- 中止後に、何を確認できれば再開を検討できるか。
離床の段階を進めることと同じように、 見合わせ・中止・再評価の判断もリハビリの重要な仕事です。 患者の反応と治療経過をチームで共有し、 その時点で適切な活動を選びましょう。
【参照元】
- [1] Bernardes Neto SC, et al. ASSOBRAFIR clinical practice guidelines in intensive care physical therapy: Rehabilitation strategies in critically ill adults. Braz J Phys Ther. 2026;30(6):101635. 公開全文 。 HTML本文の推奨・対象範囲を確認。 安定した成人重症患者を対象とし、 小児や神経集中治療の病態への一般化に注意。
- [2] TEAM Study Investigators and the ANZICS Clinical Trials Group. Early Active Mobilization during Mechanical Ventilation in the ICU. N Engl J Med. 2022;387:1747–1758. 原著 。 公開抄録の対象・主要結果・有害事象を確認。 本記事で介入手順の詳細は引用していない。
- [3] Chung CR, et al. Korean Clinical Practice Guidelines for Rehabilitation in Critically Ill Patients and Post-Intensive Care Syndrome. Ann Rehabil Med. 2026;50(4):197–221. 公開全文 。 HTML本文の成人KQ1・KQ2および実装上の注意を確認。 推奨の強さと根拠の確実性は別の指標である。
- [4] 日本集中治療医学会発行。 日本版重症患者リハビリテーション診療ガイドライン2023 (J-ReCIP 2023) 。 学会公開PDF 。 印字S935–S936 (PDF通し32–33ページ、開始基準の解説・Table 7)、 S940–S942 (同37–39ページ、CQ8・Table 8・再開に関する記述) を原PDF画像と抽出テキストで確認。
医学情報の確認日:2026年11月3日。 元PDF:視覚的に確認済み (学会公開のJ-ReCIP 2023、上記ページ・表)。 本記事は学習用の一般情報です。 個別の実施可否は病態・治療経過・活動指示に応じて判断してください。
