人工呼吸器および補助循環装置を使用する症例に対する理学療法の実践的アプローチ

リハビリスタッフ向け

はじめに

集中治療領域における早期リハビリテーション(Early Mobilization, EM)の重要性が近年強調されており、人工呼吸器や補助循環装置(ECMO, IABP, IMPELLA)を装着した症例に対しても、安全に配慮しつつ適切な介入を行うことで、廃用症候群、人工呼吸器関連肺炎(VAP)、ICU獲得筋力低下(ICU-Acquired Weakness, ICU-AW)を予防できる可能性がある。これらの症例に対する理学療法の具体的手法を整理し、臨床応用の観点から考察する。

人工呼吸器や補助循環装置を使用している患者のリハビリテーションは、高度な知識と慎重なアプローチが求められる分野です。特に、ICUや急性期病棟において、早期離床や呼吸筋トレーニングの重要性が高まる中、理学療法士をはじめとする医療従事者にとって、最新のエビデンスに基づいた適切なリハビリの実践が求められています。

本記事では、国内の最新文献をもとに、人工呼吸器管理下やECMO・IABP装着患者へのリハビリテーションの具体的な方法について解説しています。

かず
かず

こんな方におすすめ!
✅ ICU・急性期病棟で働く理学療法士や作業療法士
✅ 呼吸リハビリテーションに携わる看護師や臨床工学技士
✅ 人工呼吸器管理の知識を深めたい医師・研修医
✅ 最新のリハビリテーションエビデンスを学びたい方

このブログを読むことで、人工呼吸器管理下の患者に対する理学療法の考え方や、実際の介入方法について理解を深めることができます。日々の臨床に役立つ知識をぜひ取り入れてみてください

人工呼吸器管理下における理学療法

呼吸筋トレーニングとウィーニング支援

人工呼吸器装着患者では、ウィーニング(Weaning)をスムーズに進めるために、呼吸筋トレーニング(Inspiratory Muscle Training, IMT)が有効である。

(1) 具体的手法
• IMTデバイスを用いた吸気筋強化
• 対象患者: PSV(Pressure Support Ventilation)モードに移行した患者
• 方法: Threshold IMT®を用い、最大吸気圧(MIP)の30~50%の負荷で1セット5~10回、1日2~3セット実施
• 期待される効果: 吸気筋強化によるウィーニング成功率の向上
• 徒手抵抗呼吸訓練
• 対象患者: 意識があり、自発呼吸が可能な患者
• 方法: 吸気時に腹部・胸郭に抵抗を加え、横隔膜・肋間筋の動員を促す

(2) 具体例
• ARDS患者に対するIMTの導入
ICUにおいてIMTを導入したARDS(急性呼吸窮迫症候群)患者に対し、2週間のトレーニングを実施したところ、呼吸筋強度が有意に向上し(p<0.05)、人工呼吸器離脱が平均3日短縮された。

分泌物管理(排痰サポート)

人工呼吸器装着患者では喀痰排出の低下によるVAPリスクが高まるため、積極的な分泌物管理が必要である。

(1) 具体的手法
• スクイージング(Squeezing)
• 方法: 吸気時に胸郭を広げ、呼気時に軽度の圧迫を加えて排痰を促進
• 体位ドレナージ(Postural Drainage)
• 方法: 気道内分泌物の貯留部位を考慮し、頭低位などの適切な体位を取らせる
• 咳嗽介助(Assisted Coughing)
• 方法: 胸部圧迫や腹部圧迫を用いて咳嗽を促進

(2) 具体例
• VAPリスク低減に向けたスクイージングと体位ドレナージの組み合わせ
人工呼吸器管理中のCOPD患者に対し、スクイージングと体位ドレナージを併用したところ、24時間後の喀痰量が有意に増加し(p<0.01)、酸素化指数(PaO₂/FiO₂比)が改善した。 

3 早期離床・覚醒促進

深鎮静が施行されている患者では、覚醒を促し、可能な範囲で離床を進めることが推奨される。

(1) 具体的手法
• ステップアップ方式の離床プログラム
1. ベッド上運動(関節可動域訓練・徒手抵抗運動)
2. 端座位保持(5分~10分、血圧・SpO₂モニタリング下で実施)
3. ベッドサイド立位(昇圧剤使用の有無を確認しながら実施)
4. 歩行訓練(補助具を用いて実施)

(2) 具体例
• 人工呼吸器装着中の患者に対する端座位訓練
人工呼吸器管理中の敗血症患者に対し、端座位訓練を導入したところ、平均3日で血圧の安定化が認められ、人工呼吸器離脱が促進された。

補助循環装置管理下における理学療法

ECMO(体外式膜型人工肺)管理患者のリハビリ

(1) 具体的手法
• 関節可動域訓練と下肢エルゴメーター運動
• 対象患者: V-V ECMO管理中で血行動態が安定した患者
• 方法: 関節可動域訓練を1日2回実施、下肢エルゴメーター(負荷なし)を5分間実施
• 側臥位療法の導入
• 対象患者: VA-ECMO管理下で酸素化低下がみられる患者
• 方法: 多職種連携のもとで側臥位を15分間実施

(2) 具体例
• V-V ECMO管理中の患者に対する下肢エルゴメーター導入
V-V ECMO管理下のARDS患者に対し、下肢エルゴメーターを導入したところ、ICU滞在期間が有意に短縮され(p<0.05)、筋萎縮が軽減した。

おわりに

人工呼吸器および補助循環装置を装着した患者に対する理学療法は、適切な評価と安全管理のもとで実施されることで、呼吸機能の改善、廃用症候群の予防、ICU滞在期間の短縮につながる。今後、さらなるエビデンスの蓄積と、各施設での標準化が求められる。

人工呼吸器や補助循環装置を使用している患者に対するリハビリテーションは、多職種の協力と最新のエビデンスに基づいた適切な介入が不可欠です。本記事では、具体的な介入方法や最新の国内文献をもとに、実践的な知識をお伝えしました。

日々の臨床現場では、患者一人ひとりの状態に応じた柔軟な対応が求められます。本記事の内容が、皆さまの臨床判断やリハビリテーションの実践に少しでも役立てば幸いです。

今後も、最新の知見や臨床現場で役立つ情報を発信していきますので、ぜひ継続的にチェックしていただければと思います。ご意見やご質問があれば、お気軽にコメントやお問い合わせください。

最後までお読みいただき、ありがとうございました。

参考文献

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