はじめに|「リハビリはゆったり穏やかな仕事」って本当にそう?
「理学療法士=のんびりリハビリする人」
そう思われている方が、もしかするとまだ多いかもしれません。
しかし、急性期病院の現場に足を踏み入れた瞬間、そのイメージは一気に覆されることでしょう。
急性期で働く理学療法士の仕事は、患者の生命状態の変化と常に隣り合わせ。毎日がドラマであり、毎時間が戦いです。

この記事では、実際に急性期で働く僕の視点から、以下のようなリアルを包み隠さず紹介していきます。
- 情報収集が命。朝から脳フル回転
- スケジュール調整のプロと化す日常
- 単位取得ノルマに追われる葛藤
- 新人教育も時間との闘い
- 連休なし、休日出勤当たり前
今、理学療法士を目指す学生、新人PT、異動を考えている方、または現場で違和感を抱えているあなたに、急性期のリアルを届けます。
ただ、最初にこれだけは言わせてほしい。
急性期はまさに“1日が戦場”。
タイムリミットに追われ、理想と現実のギャップに悩み、ときに自分の無力さに打ちのめされることもあります。
でもその戦場の中には、命のドラマがあって、チームの絆があって、そして何より、目の前の誰かを救おうとする理学療法士の姿があります。それが自分のアイデンティティや目指したい自分でもあります。
大変さも、理不尽さも、現場のギスギスも確かにある。だけど、その中で踏ん張っているあなたは、自分たちはすごい。
急性期で働くって、たしかにキツい。
でも、それだけじゃない。
人の「これから」に関われるこの仕事には、間違いなく“誇れる理由”がある。そう思います。
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第1章|朝が勝負。情報収集とスケジュール調整の嵐
急性期の1日は「朝の情報収集」から始まります。むしろ、情報収集がうまくいかなければ、その日の仕事はすでに半分失敗していると言っても過言ではありません。
▷変化し続ける患者状態に対応するために
急性期に入院する患者の多くは、術直後、急性疾患の発症直後、あるいはICU管理中、その管理を終えて一般病棟に上がってきたばかりの方々です。
血圧、心拍数、SpO₂、炎症反応、意識レベル、医師の指示の変更など、すべての情報が“その日のリハビリ可否”に直結します。
そのため、出勤前に電子カルテを確認する「前残業」は常態化。情報収集をしておかないと、朝礼後すぐの介入に間に合いません。
▷スケジュールは朝・午前・昼・午後・夕方で何度も更新
検査・手術時間の変更、点滴交換、急変によるリハビリ中止、追加入院に急な退院や転院…
常に起きる想定外に対応するために、予定表の更新は1日5〜6回。しかも即座に書き換え、スタッフ間で共有しなければいけません。
もはや“スケジュール職人”。
医師・看護師・薬剤師・患者家族など、関わる人すべてのタイミングを読み、最適な介入時間を見出すこの作業だけで、1日の大半のエネルギーを使うこともあります。
第2章|単位ノルマに追われる現実と、その矛盾
急性期でのリハビリは「質」も求められますが、それ以上に「数字=単位」が強く意識されます。
※これに関しては職場の色によって様々かと思います。現在僕が勤務している急性期病院(700床以上)では、少なからずそうなってます。
▷ 完璧に「19単位」を達成する難しさ
現在の職場では、リハビリ科(主に職場長)のルールにより、役職者以外の理学療法士の単位数は原則「19単位(約6時間20分)」と定められています。
それ以上もそれ以下も基本的には認められません。20単位は残業が増えるからという理由で”してあげたい患者へのリハビリ時間をさけない”こともありますし、18単位になるようならいくら状態が不安定で疲労が強く拒否される患者さんにも頭を下げてなんとかできる範囲で単位をとりにいく。
つまり、必ず19単位をジャストで調整しないといけないという、ものすごくシビアな世界になってます。
急変や拒否があって1単位減るだけで「なんとか補填できないか?」と焦ります。
▷ 患者の優先順位が「点数」で決まる現実
本来なら、患者のADL能力や改善可能性に基づいてリハビリ計画を立てたいところですが、現場の優先順位は**「診療報酬で高い点数が取れる患者」**が上位になる傾向があります。
つまり、安静度がようやくあがってリハビリを進めどきの患者がいても、点数が低ければすでにADLが自立していても点数が高い患者のほうが優先される場面も出てきます。
ADLをあげたいが点数が低い患者 < 既にADLが自立してる点数が高い患者
このようになるわけです。
本当の意味で“患者本位”な介入ができているのか、日々考えさせられる瞬間です。
第3章|「慣れる暇がない」担当患者は毎日変わる
一般病院や回復期とは異なり、急性期では患者の入れ替わりが非常に激しいのが特徴です。
▷ 担当患者は15〜17名。同時進行で管理する難しさ
担当患者数は平均で12〜15名、多いと17名になることも。
朝の時点で「誰にリハビリするか」を選別し、時間を効率よく振り分けていきます。
ただし、誰にでも介入できるわけではありません。
- 拒否される
- CTやMRIが入る
- 輸血やカテーテル処置がある
- バイタルが不安定
こうした理由で**「今日はこの人には入れない」という判断**が必要になります。
▷ 気づけば前日担当していた患者が退院していた
リハビリをした翌日にカルテを見ると、「転院済」「退院済」などと書かれていることも珍しくありません。
あの人、どこ行った?と探している間に別の新規患者が割り当てられている…。
そんな慌ただしい毎日です。
第4章|新人指導も時間との戦い。20分以上の同行は許されない現実
新人や若手スタッフの教育も、急性期では思うように時間をかけられません。
▷ 教育は大切。でも「時間」はもっと厳しい
急性期では、1人の指導にかけられる時間は極めて限られており、多くの施設では同行指導が20分を超えるとNGとされてしまいます。
「なぜ今この数値でリハビリができないのか」
「この患者さんの病態で注意すべきポイントはどこか」
そういった重要な教育的フィードバックを、わずか数分で伝えることに限界を感じる場面が多々あります。
▷ 教えるべきか、単位を取るべきか
新人指導に時間を割けば、自分の単位数が減ります。
でも、自分が過去に誰かに教えてもらったように、次世代にも伝えていきたいという思いがある。
教える責任と、制度に追われる現実のはざまで揺れるのが、急性期PTのリアルです。
第5章|休みのない勤務体制と、それでも続ける理由
急性期は365日体制です。
2週に一度の休日出勤、大型連休やお盆、年末年始の勤務も当たり前。
▷ 去年の三が日、すべて出勤していました
患者に“正月”は関係ありません。
急性期にいる限り、我々もまた、医療の最前線に立ち続けなければならない。
私自身、昨年の正月三が日すべて出勤し、リハビリ介入を行っていました。
正直、家族と過ごす時間や、自分の体調を回復する時間も犠牲になります。
▷ それでも辞めないのは、「回復の瞬間」に立ち会えるから
急性期には、劇的な回復の瞬間がたくさんあります。
術後3時間で立ち上がったときの患者の驚きの顔、歩けるようになって涙を流して喜ぶ姿、
その場に立ち会えることが、この仕事の何よりの報酬です。
おわりに|「理学療法士のリアル」をもっと知ってほしい
急性期の仕事は楽ではありません。
でも、命の最前線で“回復”を支える仕事の意義は計り知れません。
「リハビリ=穏やか」というイメージを持っている方には、この記事を通じて、少しでもその裏側を知ってもらえたらと思います。
理学療法士として、急性期という現場に身を置くからこそ見える“リアル”がある。
今日もまた、スケジュールを握りしめて、患者さんのもとへ向かいます。