THA術後の歩行時痛、原因は筋力低下ではなかった?理学療法士が知るべき新たな評価指標

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整形外科リハビリ|THA術後ケア

THA術後の歩行時痛、原因は筋力低下ではなかった?
理学療法士が知るべき新たな評価指標

公開日:2026年4月22日 | 読了時間:約5分
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人工股関節全置換術(THA)を受けた患者さんが術後4〜5日目に「足の付け根や太ももの前が痛くて歩けない」と訴える場面は、急性期病院の理学療法士であれば日常的に経験されているかと思います。

そのとき、あなたはどのような原因を想定しているでしょうか?

⚠️ よくある思い込み
「筋力が落ちているから痛い」「浮腫があるから動けない」——こうした説明は必ずしも正しいとは限りません。最新の研究では、これらの指標は術後早期の歩行時痛と有意に関連しなかったことが示されています。

2025年に発表された国内研究(谷川ら、理学療法の科学と研究 Vol.16 No.1)は、THA術後早期の歩行時痛に関連する身体所見を100例のデータで探索的に検討したものです。その結果は、多くの臨床家の直感に反するものでした。

どんな研究だったのか?

この研究では、前方進入法(DAA)でTHAを施行した女性患者100名を対象に、術後5日目の歩行時VASと各身体所見との関連を重回帰分析によって検討しています。

研究概要
対象 DAA-THA施行の女性患者 100名(平均年齢68歳)
アウトカム 術後5日目の歩行時痛 VAS(mm)
評価指標 股関節ROM(屈曲・外転・内転)、踵殿距離(HBD)、大腿周径変化量(浮腫)、膝伸展筋力(N/kg)
解析手法 重回帰分析(ステップワイズ法)+調整変数を加えた強制投入法
出典 理学療法の科学と研究 Vol.16 No.1 2025, pp.29–35

結果のポイント:選ばれたのはHBDだけだった

重回帰分析(ステップワイズ法)の結果、術後5日目の歩行時痛VASに対して統計的に有意な関連が認められた独立変数は、踵殿距離(Heel-to-Buttock Distance:HBD)のみでした(偏回帰係数 B=0.46、p<0.05)。

HBDは腹臥位で膝を他動的に屈曲させたときの「踵から坐骨までの距離」を測るシンプルな評価で、大腿直筋の柔軟性テストとして広く知られています。踵が臀部から遠いほど(HBDが大きいほど)、術後の歩行時痛が強い傾向があったことが示されました。

📌 この研究の核心
股関節ROM・浮腫(大腿周径変化量)・膝伸展筋力は、いずれも歩行時痛との有意な関連を示しませんでした。私たちが「原因」として疑いやすい指標が、術後早期の歩行時痛とは直接結びついていない可能性があります。

なぜHBDが関連するのか?

HBDが「大腿直筋の単なる硬さ」だけを反映しているなら話はシンプルです。しかし実際には、THA術後のHBD増大には複数のメカニズムが重なっていると考えられます。

DAAは大腿筋膜張筋と縫工筋の筋間から侵入し、深部で大腿直筋をレトラクターによって内側に避けながら手術を進めます。この操作や、脚延長・オフセット変化といった術中の処置が、股関節前方組織に炎症反応や筋スパズムを引き起こすと推察されています。

つまり術後早期のHBD増大は、大腿直筋の短縮だけでなく、DAAによる前方侵襲・虚血・筋スパズム・炎症反応という複合的な「前方組織の状態」を包括的に反映している可能性があります。

この視点で評価と介入を設計することで、「なぜ痛いのか」が解剖学的・侵襲論的に整理され、筋力増強一辺倒だったアプローチに新たな選択肢が加わります。具体的には……

臨床への応用:明日からできること

① HBDの術前基準値を記録しておく ② 等尺性筋力だけでなく前方組織の柔軟性を優先的に評価する ③ 強制的なストレッチを避け愛護的アプローチで前方組織に介入する。さらに「ROMや浮腫が関連しなかった理由」「研究の限界をどう臨床解釈に活かすか」についても詳しく……

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この記事が投げかける問い

本研究は横断研究であり、HBDを改善すれば歩行時痛が減るかどうかは、まだ介入研究として検証されていません。それでもこの知見は、臨床において重要な問いを投げかけています。

「術後早期に筋力訓練を急ぐ前に、股関節前方組織の状態を丁寧に評価できているか?」——腹臥位とメジャーがあれば即日実施できるHBDを、ルーチン評価に加える価値があるかもしれません。

メカニズムの深掘り、他の指標が関連しなかった理由の考察、そして明日から使える具体的な評価・介入の視点については、以下のメンバーシップ記事で詳しく解説しています。ぜひ読んでみてください。

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