【保存版】心臓リハビリテーションにおける運動療法の適応と禁忌|理学療法士が徹底解説

心大血管リハビリ

はじめに:なぜ心疾患の患者に「運動」が必要なのか?

心疾患を経験した患者さんに対して「運動」をすすめるというのは、時に驚かれることもあります。「心臓が悪いのに運動して大丈夫なの?」という不安の声も少なくありません。

しかし実際には、適切な運動療法は心疾患の予後を改善するだけでなく、再発リスクの低下や日常生活の自立度の向上に大きく貢献します。心臓リハビリ(心リハ)は、運動療法を中心に、食事指導や服薬管理、心理的サポートなどを多面的に提供する包括的なプログラムであり、その中核をなすのが“運動”なのです。

とはいえ、全ての患者に対して運動が安全に適用できるわけではありません。心リハにおける運動療法の「適応」と「禁忌」を正確に理解し、臨床で適切な判断ができることが、私たち医療従事者に求められる知識と責任です。

【適応】どんな患者さんが運動療法の対象となるのか?

心リハで運動療法が適応となるのは、医学的に安定しており、かつ運動によるリスクが低いと判断された患者さんです。対象となるのは以下のようなケースです。

運動療法の主な適応疾患・病態

  • 医学的に安定している心筋梗塞後
    • 発症後数日以内に状態が安定し、心機能もある程度回復している患者
  • 安定狭心症
    • 安静時や軽労作時に症状がなく、内服等によりコントロールされているもの
  • 経皮的冠動脈形成術(PCI)後
    • ステント留置などにより血流再建された後、合併症がない状態
  • 冠動脈バイパス術(CABG)後
    • 手術後の回復が順調で、安定期に入った患者
  • 安定した心不全
    • 収縮不全(HFrEF)または拡張不全(HFpEF)に起因し、利尿薬やβ遮断薬などで症状がコントロールされているもの
  • 心臓移植後
    • 拒絶反応などがコントロールされ、リハビリが医師から許可されている場合
  • 弁膜症および手術後の回復期
    • 僧帽弁狭窄や大動脈弁閉鎖不全などの術後に、安定した経過を辿っている患者
  • 末梢動脈疾患(PAD)
    • 特に間欠性跛行の改善を目的とした歩行訓練が効果的とされる
  • 動脈硬化リスクが高い生活習慣病
    • 糖尿病、高脂血症、高血圧、肥満などの慢性疾患を有し、冠動脈疾患発症リスクが高いと判断された方

理学療法士の視点:

これらの対象疾患においては、患者の「病態の安定性」や「全身状態の把握」が運動開始のカギとなります。運動耐容能の事前評価や、心拍応答・血圧変化の確認が重要です。

【禁忌】運動が危険となる病態とは?

運動療法は万能ではありません。むしろ、誤った判断で運動を行えば、重篤な合併症や命に関わるリスクにもつながります。以下のような病態がある場合は、原則として運動療法は禁止、あるいは極めて慎重な対応が求められます。

運動禁忌の具体例と理由

  • 不安定狭心症
    • 労作時以外でも胸痛が出現しやすく、運動中の発作リスクが高い
  • コントロールされていない高血圧
    • 高い血圧状態で運動を行うと、脳出血や大動脈解離のリスクが増す
  • 起立性低血圧(>20mmHg)+症状あり
    • 運動時の転倒リスク、脳虚血リスクが高く危険
  • 重度の大動脈弁狭窄症
    • 左室の後負荷が大きく、運動によって虚血や失神を引き起こす可能性
  • コントロール不能な心房・心室性不整脈
    • 心拍リズムが不安定な状態での運動は、心停止のリスクを伴う
  • 安静時洞性頻脈(>120bpm)
    • 心拍数の上昇余地がなく、運動耐容能が著しく低下している
  • 非代償性心不全
    • 呼吸困難、浮腫、倦怠感などの症状が強く、安静療養が必要
  • 3度房室ブロック(PMI未)
    • 心室への刺激伝導が完全に途絶えており、致命的徐脈を招くリスク
  • 心膜炎・心筋炎(活動期)
    • 心臓組織が炎症を起こしており、運動によって状態が急激に悪化する可能性
  • 急性・亜急性の塞栓症(肺・全身)
    • 血栓が存在する状況では、運動により血流が促進され塞栓が移動する危険性
  • 大動脈解離
    • 血管壁が裂ける極めて危険な状態であり、運動は即座に禁忌
  • 整形外科的な重篤疾患(例:圧迫骨折、関節固定など)
    • 運動制限が必要な状況で、適応にはならない
  • 重度の精神障害(意思疎通困難)
    • 運動処方の遵守が困難で、安全性が担保できない

リスク分類:AHAの運動療法リスク分類で評価する

心疾患を持つ患者に対して、安全に運動を実施するには「リスク評価」が欠かせません。AHA(アメリカ心臓協会)のガイドラインでは、心疾患患者の運動療法リスクを4段階のクラスに分類しています。

クラス分類の考え方

  • クラスⅠ(低リスク)
    • 既往に重篤なイベントがなく、運動耐容能も高い。
    • 通常は非監視下でも運動可能。
  • クラスⅡ(中リスク)
    • 軽度の左室機能障害、治療済みの不整脈、軽度の虚血性変化あり。
    • 初期は監視下運動が推奨される。
  • クラスⅢ(高リスク)
    • 運動中の虚血性変化、致死的不整脈、低い運動耐容能あり。
    • 監視下での慎重な実施が求められる。
  • クラスⅣ(極高リスク)
    • 運動禁忌に該当し、運動療法は原則実施不可。

この分類は、医師の診断結果や運動負荷試験、過去の既往歴をもとに多職種で共有し、適切な運動処方に活用することが重要です。

「監視型運動療法」における“監視”の本当の意味とは?

「監視型」と聞くと、ただモニターを見ているだけのイメージを持つ人もいますが、実際の心リハにおける“監視”はもっと多面的で専門的です。

監視の内容と重要性

  • バイタルサインの常時モニタリング
    • 血圧・心拍数・SpO₂・心電図をリアルタイムで確認
  • 医療従事者による動作観察と声かけ
    • 運動中の表情、動作、呼吸状態などを細かくチェック
  • 症状や訴えへの即時対応
    • 胸痛・息切れ・めまいなどの自覚症状をヒアリングし即対応
  • 運動処方の順守状況確認
    • 想定された運動強度(Borg指数、心拍数)内で動けているか
  • 定期的な評価と運動処方の調整
    • 回復状況や再発リスクに応じて、段階的に強度や内容を見直す

このような多層的な監視体制によって、安全かつ個別性のある運動療法が提供されているのです。

おわりに:心リハで“適切に動く”ことが、再発を防ぐ最善策になる

心臓リハビリテーションは、患者さんの再発予防・QOL改善・社会復帰を支援するための極めて重要な医療サービスです。そして、運動療法はその柱であり、適応と禁忌を正しく理解して実施することが医療従事者に求められる責任です。

「動いていい人」「動いてはいけない人」を見極め、個別性の高い運動処方を提供することこそが、リハビリテーション専門職の専門性であり、信頼されるケアの土台となります。

最後に

運動療法は心臓リハビリテーションにおいて中心的なプログラムであり、安全かつ効果的に取り組むことが重要です。

運動によるプラスの影響を最大限に引き出すためには、個々の状況に応じて根拠に基づいた運動処方肝要です。

臨床の一助となりますように。

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