虚血性心疾患の病態理解

はじめに

虚血性心疾患(IHD)は、世界中で多くの人々に影響を与える重大な健康問題です。循環器疾患の中では頻度の多い疾患であることが知られています。

また、心臓リハビリテーションには虚血性心疾患の長期的予後改善があると報告されており、薬物療法、冠血行再建術などと並ぶ治療方法の一つとなります。

虚血性心疾患とは

虚血性心疾患は、心筋を栄養する冠動脈に器質的な狭窄や閉塞、攣縮により、心筋の壊死、虚血をきたす総称になります。

もう少しざっくりお話しすると、

冠動脈が狭くなり、心筋への血液供給が不足することにより発生します。虚血性心疾患には分類がありそれぞれ違った病態・特徴があります。

虚血性心疾患にはどんなものがある?

虚血性心疾患は以下のように分類されます。

分類
  • 急性冠症候群(ACS)
    • 急性心筋梗塞(AMI)
    • 不安定狭心症 (UAP)
    • 心臓突然死(sudden cardiac death)
  • 陳旧性心筋梗塞(OMI)
  • 梗塞後心筋梗塞(PIA)
  • 労作性狭心症(EAP)
  • 無症候性心筋虚血(SMI)
  • 冠攣縮性狭心症(CSA)

虚血性心疾患の原因は?

虚血性心疾患の主な原因は、冠動脈の動脈硬化です。動脈硬化は、動脈の内壁にプラークと呼ばれる脂肪性物質が蓄積することで発生します。以下の要因が動脈硬化を促進し、虚血性心疾患のリスクを高めます。

  • 高血圧:血圧が高い状態が続くと、動脈壁に負担がかかり、動脈硬化が進行します。
  • 高コレステロール:LDLコレステロールの増加がプラークの形成を助長します。
  • 喫煙:タバコに含まれる化学物質が動脈を傷つけ、動脈硬化を引き起こします。
  • 糖尿病:高血糖状態が動脈の内壁を損傷し、動脈硬化のリスクを増加させます。
  • 肥満:肥満は高血圧、高コレステロール、糖尿病のリスクを高め、動脈硬化を促進します。
  • 運動不足:運動不足が肥満や高血圧、糖尿病などのリスク要因を増加させます。

虚血性心疾患の診断・検査方法について

A heart symbol placed on top of a medical record, representing health and medical care. The document appears to be related to a patients heart health or medical.

虚血性心疾患の症状は、心筋への血液供給が不足する程度や部位により異なります。

代表的な症状は胸痛や呼吸困難感、動悸などの臨床所見があります。

しかしながら、上記で挙げたように病態により症状は異なりSMIのように無症状である場合から心原性ショックを初発症状とするAMIまであるため、臨床症状のみで診断することは困難と言われています。

自覚症状や既往歴、バイタルサイン、その他検査を踏まえて緊急性があるか否かを判断する必要があります。緊急性があるAMI、UAPの場合、早急な確定診断と治療が必要となります。

検査には以下のようなものがあります。

検査方法
  • 標準12誘導心電図
    • 心臓の電気活動を記録し、不整脈などの異常を検出します。
  • 胸部X線画像
    • ここでは胸水や心拡大の有無を評価します。
  • 血液検査
    • BNPやトロポニンTなどの心筋逸脱酵素を含めた心疾患、全身状態の評価に用います。
  • 心臓超音波検査(心臓エコー検索)
    • 心臓の構造や機能を超音波で評価します。
  • 心臓カテーテル検査(左心・右心カテーテル)
    • 冠動脈に造影剤を注入し、X線で動脈の狭窄や閉塞を確認することや、心臓への負荷がどのくらいあるか、心不全の重症度分類評価にも用いられます。

緊急性がないと判断されるOMIやEAPなどの検査方法には、運動負荷試験、心筋シンチグラムなどが挙げられます。

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虚血性心疾患の治療法

虚血性心疾患の治療は、生活習慣の改善、薬物療法、手術療法など多岐にわたります。

  • 療養指導:健康的な食事、定期的な運動、禁煙、適度な飲酒が推奨されます。
  • 薬物療法:抗血小板薬(アスピリン)、スタチン(コレステロール低下薬)、ベータ遮断薬、ACE阻害薬などが使用されます。
  • 手術療法:冠動脈バイパス手術(CABG)、経皮的冠動脈形成術(PCI)などが行われます。これらの手術は、冠動脈の狭窄や閉塞を解消し、心筋への血流を改善します。

近年では、薬剤溶出性ステント(DES)の登場や、人工心肺を用いないCABGなどの例も多く出てきており、さらに術後のデコンディショニングを軽減できるようになってきております。

患者の冠動脈病変、心機能の状態、他臓器疾患の合併を評価した上で最適な治療方法を選択、虚血性心疾患の軽快のみではなく心不全の予防や治療まで行うことが大切となってきます。

まとめ

虚血性心疾患は、冠動脈の動脈硬化による心筋への血液供給不足が原因となる深刻な疾患です。高血圧、高コレステロール、喫煙、糖尿病、肥満、運動不足などがリスク要因となります。症状には狭心症、心筋梗塞、心不全が含まれ、診断には心電図、運動負荷試験、心臓超音波検査、冠動脈造影、CTスキャンが用いられます。治療法としては、生活習慣の改善、薬物療法、手術療法があり、早期発見と適切な治療が重要です。日常生活での予防と定期的な健康チェックを怠らず、虚血性心疾患のリスクを低減しましょう。

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