慢性疼痛のメカニズムとは?|理学療法士が知っておきたい3つの疼痛分類と臨床推論
「画像では異常がないのに、なぜこんなに痛いのだろう?」
急性期病院や回復期リハビリテーションの臨床では、痛みの訴えと画像所見が一致しない患者さんに出会うことがあります。
画像所見と患者さんの訴えが一致しない。炎症反応も落ち着いている。それでも痛みが続いている。
そんなとき、私たちは無意識に「気のせいではないか」「心理的なものではないか」と考えてしまうことがあります。
私自身も、以前はそうでした。
しかし、近年の疼痛研究では、痛みを単純に「組織が傷ついた結果」として捉えるだけでは説明できないことが明らかになっています。
今回は、PTジャーナル2026年9月号「“わかりにくい痛み”に向き合う力」に掲載された、半場道子氏による総説「慢性疼痛を理解するための疼痛メカニズム総論」を手がかりに、慢性疼痛の基本的なメカニズムを整理します。
さらに、単に論文・総説の内容を紹介するだけではなく、「この知識を理学療法士の臨床推論にどう活かすのか」という視点から考えていきます。
この記事でわかること
痛みの定義は変わっている
慢性疼痛を考える前に、まず知っておきたいのが「痛みそのものに対する考え方が変化している」ということです。
国際疼痛学会(IASP)は2020年に、約40年ぶりとなる痛みの定義改訂を行いました。
ポイント
痛みは単なる「感覚」だけではなく、個人の経験や情動などを含む複雑な体験として捉えられています。
つまり、患者さんが感じている「痛み」は、組織の損傷だけを測定すれば完全に説明できるものではありません。
その背景には、神経系の働き、過去の痛みの経験、情動、睡眠、活動量など、さまざまな要素が関係しています。
この考え方を理解するうえで重要になるのが、侵害受容性疼痛・神経障害性疼痛・痛覚変調性疼痛という3つの疼痛機序です。
慢性疼痛は3つの機序から考える
慢性疼痛を理解するときには、痛みが「どのような機序によって生じているのか」を考えることが重要です。
① 侵害受容性疼痛
組織の損傷や炎症などによって侵害受容器が活性化することで生じる痛みです。
② 神経障害性疼痛
体性感覚神経系の病変や疾患によって生じる痛みです。
③ 痛覚変調性疼痛
明確な組織損傷や神経系の病変だけでは説明できない痛みです。
① 侵害受容性疼痛
侵害受容性疼痛は、組織の損傷や炎症などによって侵害受容器が活性化することで生じる痛みです。
変形性関節症や関節リウマチなど、末梢組織の状態が痛みに関係する疾患では、この視点が基本になります。
「どこが痛いか」だけではなく、「なぜその組織が痛みを生じさせているのか」を考えることが重要です。
また、総説では慢性炎症と免疫系との関係についても紹介されています。
高齢者では加齢に伴う免疫系の変化なども背景となり得るため、局所組織だけを見るのではなく、患者さんの全身状態を含めて考える視点も必要になります。
② 神経障害性疼痛
神経障害性疼痛は、体性感覚神経系の病変や疾患によって生じる痛みです。
腰椎椎間板ヘルニア、帯状疱疹後神経痛、糖尿病性神経障害などが代表的な疾患として挙げられます。
臨床では、電撃痛、灼熱感、しびれ、異常感覚、アロディニアなどの特徴を丁寧に確認することが重要です。
- 痛みの部位・分布
- 痛みの性質
- しびれ・感覚異常
- 神経学的所見
- 運動や姿勢との関係
- 症状の時間経過
③ 痛覚変調性疼痛(nociplastic pain)
そして、今回のテーマを考えるうえで特に重要なのが痛覚変調性疼痛(nociplastic pain)です。
痛覚変調性疼痛は、明確な組織損傷や神経系の病変だけでは説明できない痛みを理解するための重要な概念です。
代表的な病態として線維筋痛症やCRPSなどが挙げられます。
「画像に異常がない」=「痛みが存在しない」ではない
検査画像に明らかな異常がない場合でも、患者さんが感じている痛みそのものを否定することはできません。
慢性疼痛では「脳での痛みの処理」も考える
慢性疼痛を考えるうえでは、末梢組織だけではなく、中枢神経系でどのように痛みが処理されているのかという視点も重要になります。
総説では、fMRIなどを用いた脳画像研究についても紹介されています。
扁桃体、海馬、島皮質、眼窩前頭皮質、帯状皮質など、情動や認知に関係する領域の活動変化が慢性疼痛との関連で取り上げられています。
ここで重要なのは「痛みは脳にある」という単純な話ではありません。
痛みは、末梢からの入力だけではなく、中枢神経系での情報処理や情動、認知などが関係する複雑な体験として捉える必要があります。
慢性疼痛の臨床で「痛みの原因」だけを探してはいけない理由
ここまで読むと、慢性疼痛の患者さんに対して「結局、痛みの原因は何なのか?」と考えたくなるかもしれません。
もちろん、原因となっている疾患や組織の問題を確認することは重要です。
しかし、慢性疼痛では「何が痛みを発生させたのか」と「なぜ痛みが今も続いているのか」を分けて考える必要があります。
原因を探す視点
組織損傷、炎症、神経障害、疾患などを確認する。
慢性化を考える視点
神経系、情動、睡眠、活動量、生活背景などを含めて考える。
ここから先は「知識を臨床推論にどう落とし込むか」
ここまで紹介した内容は、今回取り上げた総説のほんの一部です。
実際の臨床では、 「この患者さんの痛みはどの機序が中心なのか?」 「何を問診すればよいのか?」 「どの評価を優先するのか?」 「理学療法では何を変えていくのか?」 といった、もう一段深い思考が必要になります。
私のnoteメンバーシップでは、こうした「論文・総説を読んで終わりにせず、理学療法士の臨床にどう活かすのか」という視点を大切にしています。
今回の記事で紹介した「慢性疼痛のメカニズム」についても、メンバーシップ記事では、総説の内容をさらに掘り下げながら、臨床推論につなげるための考え方を整理しています。
論文・総説の内容をそのまま「エビデンス」として扱わない
論文や総説に書かれている内容を読んだら、そのまま臨床で使えばよいわけではありません。
まず、「これはどのような研究デザインから得られた知見なのか?」を考える必要があります。
今回の総説を読むときに意識したいこと
- 単著によるナラティブレビューである
- 系統的レビューとは目的や方法が異なる
- 紹介されている研究のデザインを確認する必要がある
- 脳画像研究の結果だけで因果関係を断定しない
- 最終的には引用元の原著論文を確認する
これは慢性疼痛に限った話ではありません。
理学療法士が論文を臨床に活かすうえでは、「何が書いてあるか」だけではなく、「どの程度確かな情報なのか」を考えることが重要です。
理学療法士の臨床推論にどう活かすか
最終的に重要なのは、論文や総説で得た知識を患者さんの評価や介入につなげることです。
① 痛みの分類を評価の軸に加える
「痛み」という一つの言葉で患者さんの症状をまとめるのではなく、侵害受容性・神経障害性・痛覚変調性のどれに近いのかを考えてみます。
② 神経障害性疼痛を見逃さない
電撃痛、灼熱感、感覚異常、アロディニアなどの特徴がないかを確認します。
③ 痛覚変調性疼痛では「生活」まで見る
痛みだけを評価するのではなく、睡眠、疲労、活動量、気分、仕事や家庭での役割、痛みに対する認識なども確認します。
④ 「原因探し」から「問題の構造化」へ
組織・神経系・中枢神経系・心理社会的要因・生活背景
↓
痛みの経験
↓
活動・参加への影響
まとめ|「わからない痛み」を「考えられる痛み」へ
- 痛みは単なる組織損傷の感覚ではなく、複雑な体験として捉える
- 慢性疼痛は侵害受容性・神経障害性・痛覚変調性の視点から整理できる
- 慢性疼痛では末梢組織だけでなく神経系や情動・認知なども考える
- 画像所見だけでは患者さんの痛みを完全には説明できない
- 論文・総説の知見は研究デザインや限界を確認して臨床に活用する
- 最終的には患者さんの生活・活動・参加まで含めて臨床推論を行う
「わかりにくい痛み」は、決して患者さんの気のせいでも、大げさな訴えでもありません。
大切なのは、「痛みをどのようなメカニズムで捉えられるのか」を考えながら、患者さんの症状を多面的に評価することです。
そして、論文を読むときには「書いてあったから正しい」と受け入れるのではなく、「この知見はどのような研究から得られたのか?」と一度立ち止まって考える。
その積み重ねが、論文を単なる知識ではなく、臨床推論に使える情報に変えていくのだと思います。
さらに深く「論文を臨床に活かす」なら
今回の記事では、慢性疼痛のメカニズムと臨床への活かし方を中心に紹介しました。
noteのメンバーシップでは、今回取り上げた総説についてさらに詳しく整理し、「研究結果をどう読み取るか」「その知見を理学療法評価にどうつなげるか」「臨床推論では何を考えるのか」といったところまで掘り下げています。
「論文を読む」だけで終わらせず、「臨床で使える知識」に変えていきたい方へ。
参考文献
半場道子:慢性疼痛を理解するための疼痛メカニズム総論——侵害受容性・神経障害性・痛覚変調性疼痛.PTジャーナル 2026;60(9):998–1001.
※本記事では上記総説の内容をもとに、理学療法士の臨床で活用するための視点を整理しています。個々の研究結果については、可能な限り引用元となる原著論文をご確認ください。
