はじめに
理学療法の臨床において、「評価に時間がかかりすぎてしまう」「検査結果と実際の動作が結びつかない」と悩んだことはありませんか?
多くのセラピストが直面するこの課題を解決する鍵が、「トップダウン評価」です。本記事では、効率的かつ効果的なトップダウン評価のプロセスを解説します。
理学療法における2つの評価プロセス
理学療法評価には、大きく分けて「トップダウン評価」と「ボトムアップ評価」の2つの過程が存在します。
ボトムアップ評価とは
疾患や障害部位に関連する検査項目を網羅的に挙げて検査する方法です。
- メリット: 機能障害の問題点を確実に見つけ出せる。
- デメリット: 莫大な評価時間が必要であり、動作との関連性が見えにくい場合がある。
- 適応: 術後直後などで動作が不可能な患者など。
トップダウン評価とは
カルテや面接、実際のADLの状況から「問題となる動作(能力障害)」を特定し、そこから原因となる「機能障害」を追求していく過程です。臨床場面では、この動作分析を主体とするトップダウン評価が極めて重要となります。

トップダウン評価の第一歩:社会的背景の把握
正しい評価のためには、単に機能障害に注目するのではなく、患者様の「生活状況」を把握することから始まります。
- 患者の年齢、仕事内容、趣味
- 住居状況などの社会的背景
これらにより、解決すべきADL(日常生活動作)の優先順位が変わります。患者様の障害が、なぜ今の日常生活を困難にしているのか、その原因を追求することが理学療法評価の本質です。
動作分析の流れ:基本動作を制する
トップダウン評価の中核は、「基本動作」の観察にあります。
トイレ動作などの複雑な身の回り動作も、分解すれば「起き上がり」「座位」「立ち上がり」「歩行」といった基本動作の組み合わせだからです。
評価のプロセス
1. 問診・情報収集: 患者の問題となる動作を挙げる。
2. 動作観察: 基本動作を観察し、異常な要素を見つける。
3. 問題点の仮説: 「なぜできないのか?」を正常動作と比較して仮説を立てる。
4. 検査・測定: 仮説に基づき、特定の機能障害を検査する。
5. 問題点の決定: 検査結果から真の原因を特定する。
6. 治療プログラム: 特定された問題点に対してアプローチを行う。
動作の実用性を評価する「5つの基準」
動作観察をする際、ただ漫然と眺めるだけでは不十分です。資料では、動作の「実用性」を判断するための5つの基準が示されています。

特に活動性の高い患者様の場合、スピードや耐久性、社会的容認性が重要な指標となります。
なぜ「正常動作」の理解が必要なのか?

異常動作を理解するためには、その対照となる**「正常動作」の知識**が不可欠です。
「健常者はどうしてできているのか?」「正常動作を可能にする要素は何か?」を考えることで、患者様の動作の異常性が浮き彫りになります。
また、セラピスト自身が患者様の動作を真似してみることも、動作観察の技能向上に役立ちます。関節運動の順序性や相対的な関係を意識して観察しましょう。
実践:評価からアプローチへの優先順位
トップダウン評価の最大のメリットは、**「やるべきことが明確になる」**ことです。
優先順位の決定と即時効果の確認
1. 複数の機能障害が見つかった場合、最も重要と思われるものに優先順位をつける。
2. 最優先の問題点に対してのみ、理学療法を実施する。
3. 実施後、すぐに基本動作の実用性が改善したか確認する。
もし動作が変わらなければ、仮説が間違っていたか、優先順位が違っていたということになります。
具体例:歩行開始時の不安定性
例えば、立位での下腿外側傾斜が不十分な患者様に対し、以下の3点が問題として挙がったとします。
• 足部外がえし可動域制限
• 腓骨筋の筋緊張低下
• 足部内反筋群の筋緊張亢進
ここで「内反筋の緊張亢進」が最優先と判断し、ストレッチを行った直後、歩行の安定性が改善すれば、そのアプローチは正解です。他のアプローチを重複して行う必要はありません。

トップダウン評価のメリットとデメリット
メリット
• 検査項目が限定され、評価が迅速になる。
• 検査の目的が明確になる。
• 「能力障害(動作)」と「機能障害」のつながりが理解しやすい。
デメリットと解決策
• デメリット: 動作そのものができない急性期などには適さない。
• 解決策(仮想トップダウン評価): 最初に獲得させたい動作を想定し、それに必要な機能を逆算して検査する手法をとります。
おわりに
理学療法士の役割は、単に可動域を広げたり筋力をつけたりすることではありません。**「患者様の問題となる動作の実用性を改善し、日常生活を円滑にすること」**が真の目的です。
「全ては患者が教えてくれる」
この言葉通り、丁寧な動作観察とアプローチ後の評価の再確認を繰り返すことで、あなたの臨床推論の精度は飛躍的に高まるはずです。
明日からの臨床で、まずは一人の患者様の「基本的動作」を5つの実用性基準で観察することから始めてみませんか?
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