第1回:はじめの一歩編「急変対応はABCDEアプローチから!まず覚えるべき観察のキホン」



はじめに

「先輩、〇〇さんの様子がなんだかおかしくて…」
「先生、3番ベッドの患者さんが急変です!」

病棟で働き始めたばかりの新人看護師さんやリハビリ中の理学療法士。こんな場面を想像するだけで、心臓がドキッとして、冷や汗が出てきませんか?

「何から手をつけていいか分からない…」
「自分の判断ミスで、患者さんの状態を悪化させたらどうしよう…」

その不安な気持ち、痛いほどよく分かります。私自身「急変に立ち会ったらどうしよう。」とビクビクしていました。

でも、安心してください。
急変対応のゴールは、あなたが一人で完璧な診断を下すことではありません。
大切なのは、「目の前の患者さんの命の危機をいち早く察知し、助けを呼び、チームで命を繋ぐこと」です。

そのために、全世界の医療者が共通で使っている「最強の武器」があります。それが今回徹底解説する「ABCDEアプローチ」です。

この記事では、急変の現場で思考停止してしまう状態から抜け出し、「まず何をすべきか」が知るきっかけなられるように作成しました。

さあ、一緒に第一歩を踏み出しましょう! 

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**「臨床理学Lab」**は、理学療法における基本的な知識の向上に加え、評価と臨床推論の強化を目的としたメンバーシップです。「なぜこの評価をするのか?」「その結果から何がわかり、どう治療に活かせるのか?」深く掘り下げ、現場で実践できる力を養...

こんな方々におすすめの記事です

  • 新人看護師、看護学生
  • 理学療法士を含めたコメディカルスタッフ
  • 急変対応に苦手意識を持つ若手医療従事者

【この記事で解決できる悩み】

  • 急変時にパニックになり、何をすべきか分からなくなる。
  • 患者さんの「いつもと違う」に気づいても、どうアセスメントすれば良いか自信がない。
  • 先輩や医師への報告がうまくできるか不安。

なぜABCDEアプローチが「最強」なのか?

「アプローチ」と聞くと難しそうですが、要は「観察する順番」のことです。

A → B → C → D → E

この順番には、非常に重要な意味があります。それは、「治療しないと死に至るまでの時間が短い順」になっていること。

例えば、呼吸が止まっている人(Bの異常)と、意識が少し朦朧としている人(Dの異常)がいたら、どちらを優先すべきかは明らかですよね。ABCDEアプローチは、この「生命の優先順位」に沿って作られているため、誰がやっても致命的な異常を見逃さず、効率的に対応できるということでつくられています。

では、具体的な観察ポイントと、新人さんが「まずやるべきこと」を見ていきましょう。


【A:Airway(気道)】空気の通り道は確保されているか?

人間は、気道が完全に塞がるとわずか数分で心停止に至ります。最も優先すべき最重要項目です。

  • 観察のポイント
    • 発声は明瞭か?:「〇〇さん、大丈夫ですか?」と声をかけ、はっきりした声で返事ができれば、ひとまず気道は開通しています。かすれ声や弱い声の場合は要注意。
    • 気道異音はないか?
      • いびき様の呼吸音(Snoring):意識レベルが低下し、舌が喉の奥に落ち込んでいる(舌根沈下)サイン。
      • ゴロゴロ、ゼロゼロ(Gurgling):痰や唾液、吐物が喉に詰まっている音。誤嚥のリスク大!
      • ヒューヒュー、ゼーゼー(Stridor / Wheezing):気道がむくんだり(浮腫)、異物で狭くなっている危険な音。アナフィラキシーや喘息発作を疑います。
  • 新人さんが「まずやること」
    1. 人を呼ぶ!:「〇〇さん、呼吸がおかしいです!応援お願いします!」と、まず大声で助けを呼びましょう。これが一番大事。
    2. 気道確保:枕を外して頭を後ろに傾け、顎先を持ち上げます(頭部後屈あご先挙上法)。これだけで、舌根沈下による気道閉塞は改善することが多いです。
    3. 吸引の準備:ゴロゴロ音が聞こえたら、すぐに吸引ができるよう準備を始めます。

【B:Breathing(呼吸)】有効なガス交換ができているか?

気道が開通していても、呼吸そのものが止まっていたり、浅すぎたりすれば、体内に酸素を取り込めません。

  • 観察のポイント
    • 呼吸数:正常は12〜20回/分。これより速い「頻呼吸(>20回/分)」や遅い「徐呼吸(<12回/分)」は危険なサインです。特に、「ゆっくりで浅い呼吸」は呼吸停止の前兆かもしれません。
    • 呼吸様式:肩を上下させる「努力呼吸」や、シーソーのように胸とお腹が逆の動きをする「奇異呼吸」は、呼吸がかなり苦しい証拠です。
    • SpO2(経皮的動脈血酸素飽和度):正常は95%以上。94%未満は明らかな異常と考え、酸素投与を検討します。COPDなど慢性呼吸不全の患者さんでは目標値が異なる場合があるので注意。
    • チアノーゼ:唇や爪が紫色になっていないか。酸素不足が深刻なサインです。
  • 新人さんが「まずやること」
    1. 人を呼ぶ!:(これも、まず人を呼びます)
    2. 体位の工夫:ベッドの頭を上げる(ファーラー位、セミファーラー位)。座位になるだけで、横隔膜が下がり呼吸が楽になります。
    3. 酸素投与の準備:医師の到着を待つ間に、酸素マスクや経鼻カニューレを準備しておくと、その後の対応がスムーズになります。

【C:Circulation(循環)】血液は全身に巡っているか?

心臓というポンプが正常に働き、全身に血液(酸素や栄養)を届けられているかを確認します。循環不全の状態を**「ショック」**と呼びます。

  • 観察のポイント
    • 脈拍:手首(橈骨動脈)で触れますか?もし触れなければ、首(頸動脈)で確認。速い(頻脈)、遅い(徐脈)、弱い、不整などがないか。
    • 血圧:普段の血圧と比べてどうですか?収縮期血圧90mmHg未満はショックの兆候です。
    • 皮膚の状態
      • 顔面蒼白
      • 冷や汗(皮膚が冷たく湿っている)
      • CRT(毛細血管再充満時間)の延長:爪を5秒圧迫して離した後、ピンク色に戻るのに2秒以上かかる場合は、末梢の循環が悪いサイン。
    • 尿量:尿量が減っているのは、腎臓への血流が減っているサインです。
  • 新人さんが「まずやること」
    1. 大声で人を呼ぶ!すぐに応援を!:脈が触れない、意識がない場合は心停止の可能性も。直ちに**心肺蘇生(CPR)**を開始する必要があります。
    2. ルート確保・輸液の準備:医師の指示ですぐに点滴が開始できるよう、太めの針(20G以上)で静脈路を確保したり、輸液セットを準備します。
    3. ショック体位:ベッドを水平にし、足を15〜30cmほど高くします(下肢挙上)。これにより、心臓へ戻る血液量を一時的に増やすことができます。

【D:Dysfunction of CNS(中枢神経障害)】意識レベルは正常か?

脳への血流や酸素が足りていない、あるいは頭蓋内で何か問題が起きている可能性を探ります。

  • 観察のポイント
    • 意識レベル:**JCS(Japan Coma Scale)GCS(Glasgow Coma Scale)**を使って客観的に評価します。「いつもより反応が鈍い」「呼びかけに開眼しない」など、普段との違いが重要です。
    • 瞳孔:大きさ、左右差、対光反射(光を当てたときの反応)を確認します。
    • 麻痺:手足を動かしてもらい、左右差がないか確認します。呂律が回らないなどの症状も要注意。
  • 新人さんが「まずやること」
    1. 人を呼ぶ!
    2. 血糖測定!:意識障害で最も見逃してはいけない原因の一つが**「低血糖」**です。これは血糖測定器があればすぐに診断・治療が可能です。意識がおかしいと思ったら、まず血糖を測る癖をつけましょう。

【E:Exposure & Environment(全身観察と体温管理)】他に隠れた異常はないか?

最後に、服の下に隠れている情報を見つけ出し、患者さんの体温を適切に保ちます。

  • 観察のポイント
    • 全身の皮膚:服をめくって、発疹(薬疹やアナフィラキシー?)、あざや外傷(転倒?)、出血はないかを確認します。
    • 体温:低体温は血液凝固能を低下させるなど、様々な悪影響を及ぼします。逆に高体温(発熱)は、感染症など急変の原因を示唆します。
  • 新人さんが「まずやること」
    1. 保温:心停止やショックの患者さんは体温が下がりやすいです。診察のために肌を露出させた後は、必ずすぐにタオルや毛布をかけて保温しましょう。
    2. プライバシーへの配慮:診察は必要ですが、カーテンを閉めるなど、患者さんの尊厳を守る配慮を忘れずに。

まとめ:恐怖を「行動」に変える第一歩

ここまでお疲れ様でした。一気にたくさんの情報をお伝えしましたが、今すぐ全てを完璧に暗記する必要はありません。

今日、あなたに覚えて帰ってほしいのは、この3つです。

  1. 「何かおかしい」と感じたら、心の中で「A, B, C, D, E…」と順番に確認してみる。
  2. 一つでも異常があれば、ためらわずに「人を呼ぶ」。
  3. 意識がおかしいと思ったら「血糖測定」。

これだけで、あなたはもう「何もできずに固まる新人」ではありません。的確な初期評価ができる、頼れるチームの一員です。

急変対応は、経験を積むことで必ず上達します。このABCDEアプローチという羅針盤を手に、焦らず、一歩ずつ成長していきましょう。

次回は、ABCDEアプローチで「C」の異常、つまり心停止を判断したときに、あなたがヒーローになれるスキル**「BLS(一次救命処置)とAEDの使い方」**について、汗と涙の(?)実践的なコツを解説します!お楽しみに!

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