はじめに
心肺運動負荷試験(cardiopulmonary exercise test : CPX)とは、トレッドミルやサイクルエルゴメーターなどの運動負荷装置を用いて運動負荷試験を行い、心電図や呼気ガス分析装置による最高酸素摂取量や嫌気性代謝閾値(AT)などの呼吸・循環・代謝等の指標を測定するものです。
この検査により、労作時の息切れや動機などの症状の鑑別、心疾患の有無や心不全の重症度の評価、心臓リハビリテーションを実施するにあたる運動処方の作成に役立ちます。
この記事では、心肺運動負荷試験はどういうものか解説してきます。より専門的な内容になるため、心臓リハビリに興味がある方、心臓リハビリテーション指導士の取得に向けて勉強中の方にオススメの記事となります。
心肺運動負荷試験の目的
① 運動耐容能の評価
- 機能的障害の判定(酸素摂取量)
- 運動制御因子と病態生理学的メカニズム
② 運動制限のある患者の鑑別診断
- 心疾患や肺疾患の鑑別
- 安静時と運動時で症状が異なる場合
③ 心血管疾患患者の評価
- 心機能分類の評価と予後
- 運動処方・心臓リハビリのための評価
- 心臓移植適応の決定
④ 呼吸器疾患患者の評価
- 慢性閉塞性肺疾患の有無
- 低酸素血症の評価と酸素処方
- 標準的な肺機能検査で不十分な時
⑤ その他臨床的な意義
- 手術前の評価
- 呼吸リハビリのための運動評価と処方
- 肺・心臓移植のための評価
運動負荷のプロトコールの基本は一段階負荷となっています。しかしながら、異なった運動強度に対する生体反応を評価するためには十分な休息が必要となります。
そのため、運動負荷心電図検査では多段階漸増負荷法であったり、心肺運動負荷試験では、直線的漸増負荷法(ramp負荷法)が使用されます。
一段階負荷から得られる指標
運動負荷開始時
- 酸素摂取量は運動開始とともに急激に上昇する。
- これは第I相と呼ばれる時期。
- 混合静脈血中の酸素含有量は安静時と同じ。
- 動増脈血酸素含有量較差は変化なし。
- この時期ではVO2の上昇は心拍出量の上昇を意味している。
- 第I相は健常人では20〜30秒間、心疾患症例ではおよそ1分間以上となることもある。
- その後VO2は上昇する。(第II相)
- この曲線の時定数をτon(タウオン)。
- 第I相ではガス交換比は変化しない。
- 第II相ではガス交換比は低下する。
- 運動開始時の酸素摂取量動態はτonとして計算される。
運動中の指標
- 仕事率が(WR)がAT以下の場合、VO2は3分以内に定常状態となる。
- 一定の仕事率に対するVO2は個体の運動効率を示す指標になる。
- 心不全症例ではVO2の指標が低下する。
- 生命維持に直接の影響が少ない末梢組織への血流が減少する。
- 交感神経活性が亢進される。
- 骨格筋に優先的に血液を送り運動効率を良くする機転が働いている。
ramp負荷から得られる指標
ramp負荷法は、直線的漸増負荷法と呼ばれ通常エルゴメーターを用いて、毎分10〜40ワットの割で仕事率を増加させる方法です。ramp負荷中の呼気ガス指標には運動運動耐容能の評価に重要な変曲点がああります。
●嫌気性代謝閾値(AT)
・乳酸産生が顕著になり血中乳酸が増加する点
●呼吸性代償開始点(RC point)
・乳酸に対する緩衝系(主に重炭酸イオン)が不十分になって代謝性アシドーシスが始り、代償性過換気が始める点
上記のような変曲点を分析し運動耐容能などの評価を行っていきます。