心不全療養指導士:症例報告書の作成方法

はじめに

心不全療養指導士の主な役割は、幅広い専門知識と技術を有する医師以外の医療専門職が、患者に対して最適な療養指導を行うことにあります。心不全は患者自身により予防可能な疾患であることから、心不全療養指導士は患者本人および家族など介護者に正確な知識と技術を身につけていただき、発症・増悪予防のためにセルフケアと療養を継続していただくことを支援します。そんな心不全療養指導士になるためのステップとして症例報告書を作成する必要があります。

今回の記事では、その症例報告書の作成方法について記載していきます。

「症例報告書」作成の目的

心不全療法指導士は、心不全の療養指導に必要な基本的知識を有し、それを活用し実践している者に与えられる資格です。心不全療養指導士の受験資格「心不全療養指導に従事していること」を証明する材料として、療養指導の実務経験を「症例報告書」5例記載し提出する必要があります。質の高い心不全療養指導が実践できているか判断されるためです。

「症例報告書」の症例テーマ

心不全症例は、症例ごとに指導する内容・方法や異なります。故に、症例報告書作成についてはテーマに分かれており、そのテーマに応じた指導内容が適切に記載されているかがポイントになります。

例えば、

  • 心不全進展ステージの時間的な経過
    • 心不全にかかわる原因疾患の診断・治療・病態の時間的な経過
    • 心不全の発症原因、症状、身体機能への影響とその変化
  • 疾病管理/療養行動、セルフケアの状況と、その経過と、関連する患者背景
  • 問題点を意識した優先度が高い療養指導:自己の実践に加えて、多職種と協働した療養指導
  • 治療や療養指導を行った結果としての転帰
  • 各ステージ個別の状況を踏まえて優先度の高い療養指導を実施する。

上記のような内容で記載していきます。

「症例報告書」症例テーマ記載基準
  • ステージA・B 心不全発症予防のための療養指導
    • ステージA:心不全の原因疾患のリスク因子の包括的把握とそのコントロール状況
    • ステージB:心不全の原因疾患の診断・治療経過の状況
    • 心不全の原因疾患および心不全発症リスクとその予防のため療養指導
  • ステージC 初発心不全患者への療養指導
    • ステージCにいたるまでの経過と初発心不全の発症状況
    • 心不全の病態や知識、病の軌跡、疾病管理方法などの初期教育としての療養指導
  • ステージC 心不全を繰り返す患者への療養指導
    • ステージCに至るまでの経過と、治療抵抗性の状況
    • 心不全増悪の因子に焦点を当てた生活の改善策や、新たな療養行動の提案などの療養行動
  • ステージD 難治性心不全患者に対する療養指導
    • ステージDにいたるまでの経過と、人生の最終段階にある状況
    • 病状進行の理解を促す介入、アドバンス・ケア・プランニンングの推進
    • QOLを損なっている問題点を踏まえた、苦痛増大の予防・緩和・増悪時の早期対処
  • ステージD 人生の最終段階にある心不全患者への療養指導(ACP)
    • ステージDにいたるまでの経過と、人生の最終段階にある状況
    • 全人的苦痛のアセスメントと苦痛緩和のための介入
    • アドバンス・ケア・プランニングを踏まえた、緩和ケア、終末期ケア
  • 高齢心不全患者への療養指導
    • 身体的フレイル、精神的フレイル、社会的フレイルなどの加齢による変化の状況
    • 高齢者の特徴を踏まえて配慮、工夫された療養指導
  • 心臓手術を受けた周術期患者に対する療養指導
    • 心臓手術治療(心臓電気デバイスの植込み、カテーテル治療や開心術など)の術式、術後の経過
    • 回復過程での過活動や感染症などの予防行動、心不全の病の軌跡についての周術期患者への療養指導
  • 多職種連携、地域連携の強化が必要な療養指導
    • 多職種連携、地域連携の強化が必要な心不全の状況や疾病管理状況
    • どの職種、地域と、どのように連携を強化したのか、家族・介護者への療養指導

「症例報告書」に記載する内容

症例報告書には、心不全に関する基本的な知識を活用してどのように心不全指導に繋げているのかを記載する必要があります。そのためには、まず対象者がどのような症例が全体的な視点で捉えることが重要である。それを踏まえ、現在生じている問題点を抽出しどのような心不全指導が必要なのか、そしてその行った指導の結果を評価します。

POINT

症例テーマを踏まえて、情報を整理する。

心不全進展ステージや個別の状態に合わせたテーマに沿って、重要な情報を判断し整地する必要があります。例えば、現病歴を記載する際、単なる診断・治療の結果を示すようなカルテを丸写しした記載では問題点の抽出に繋がりにくい。そのため、心不全の原因疾患および心不全の診断、治療、経過がわかるように心不全ステージの時間的な経過や、疾病管理の状況、それに関わる患者背景がわかるように情報を整理することが大切です。

記載すべきこと
  • 心不全進展ステージのどの時期にあたるか
  • 心不全のリスク因子の有無、その管理状況
  • 心不全発症・増悪にいたった原因とその問題点
  • 問題点に対する療養指導内容
  • 療養指導の結果の考察

症例テーマを踏まえた情報の整理

項目
  • 患者背景
    • 社会資源の活用状況
      • 医療助成、助成の種類
    • 家族構成・家族状態
    • 認知機能・心理的問題
    • その他、特記事項
  • 心不全の病態
    • 心不全の原因疾患
    • 心不全の発症・進展に影響する併存疾患
    • その他の既往歴
    • 現病歴(心不全の原因疾患および併存疾患の症状・診断治療の経過)
    • 心不全進展ステージ
    • 心機能・その他の検査・身体所見
  • 心不全治療
    • 薬物療法
    • 非薬物療法
  • セルフケアの状況
    • 心不全に関する知識
    • セルフモニタリング・受診行動
    • 服薬管理状況
    • 栄養・水分管理状況
    • 身体活動
    • 喫煙状況
  • 問題点の抽出
  • 療養指導の実際
  • 療養指導の結果
  • 療養指導の評価・今後の課題

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