【2025年ガイドライン対応】心臓リハビリの進め方|理学療法士・作業療法士が押さえるべき安全管理と運動処方の実践ポイント

心不全療養指導士

はじめに

「心不全の患者さんに運動させていいの?」「どこまでやっていいか判断に迷う」——心臓リハビリに関わる理学療法士・作業療法士なら、一度は感じたことがある不安ではないでしょうか。

2025年3月、日本循環器学会と日本心不全学会が合同で「2025年改訂版 心不全診療ガイドライン」を発行しました。この改訂では、急性期からのリハビリテーションの推奨強化包括的心臓リハビリのエビデンス充実が大きなテーマです。

この記事では、2025年ガイドラインをベースに、PT・OTが心臓リハビリを安全かつ効果的に提供するための実践的な知識を解説します。


心不全の分類——リハビリに直結する基本知識

LVEF(左室駆出率)による分類

心臓リハビリを安全に進めるうえで、まず患者のLVEF分類を把握することが出発点です。

分類LVEF特徴と運動療法の注意点
HFrEF40%未満収縮機能低下型。運動療法のエビデンスが最も豊富
HFmrEF40〜49%軽度低下型。2025年改訂でSGLT2阻害薬などの推奨が追加
HFpEF50%以上収縮機能は保たれるが拡張機能に障害。運動耐容能は著しく低下することも
HFimpEF経時的に改善継続的なモニタリングが重要。過信しない

重要ポイント: 「LVEFが高い=安全」ではありません。HFpEFでも運動耐容能は著しく低下していることがあります。LVEFだけで運動強度を決めず、個々の状態を評価することが必須です。

NYHA心機能分類との組み合わせ

LVEFに加えて、NYHA分類をMETs換算で理解しておくと運動強度の判断に役立ちます。

  • Ⅱ度(5〜7METs):日常活動で軽度の症状が出る
  • Ⅲ度(2〜5METs):軽い労作で症状が出る
  • Ⅳ度(<2METs):安静時にも症状あり→運動療法の適応を慎重に判断

運動耐容能の評価——何を使って、どう読む?

適切な運動処方は正確な評価から始まります。ガイドラインが推奨する評価ツールを整理しましょう。

6分間歩行試験(6MWT)

病棟・外来でも実施しやすい亜最大負荷試験です。

  • 6MWD<300m:予後不良のサイン
  • 治療前後で50m以上の改善:治療効果・予後良好の指標

日常的なスクリーニングや退院時評価に積極的に取り入れましょう。

心肺運動負荷試験(CPX)

運動処方の「ゴールドスタンダード」です。

  • AT(嫌気性代謝閾値):日常生活で過負荷にならない安全な活動強度の目安 →運動処方に直結する最重要指標
  • peak VO₂:最も客観的な運動耐容能の評価指標。<12mL/kg/minはNYHAⅣ度相当

ATを基準に有酸素運動の強度を設定するのが、心不全患者への運動処方の基本です。

SPPB(包括的下肢機能評価)

高齢者の身体機能評価に欠かせません。

  • SPPB<4点:自宅退院困難の予測因子
  • SPPB<7点:退院後のリスクが高い

2025年ガイドラインでは、運動耐容能だけでなく身体機能の評価も重要であることが強調されています。CPXで得られる数値と、SPPBや歩行速度などの身体機能評価を組み合わせた多角的なアセスメントが求められます。


急性期の早期離床——2025年ガイドラインの新スタンス

「安静が基本」は過去の話

2025年ガイドラインの主要改訂点のひとつが、急性期リハビリテーションの推奨強化です。

急性非代償性心不全で入院した患者では、過度な安静臥床による身体的・精神的デコンディショニングが深刻な問題です。わが国のデータでは:

  • 入院患者の約37%に入院関連機能障害(HAD)が発生
  • 56%に退院時の廃用症候群やADL低下

ADLの低下は心不全再入院とも強く関連しています。

ACTIVE-ADHF試験(わが国の多施設RCT)では、入院早期からの理学療法・有酸素運動・身体活動量管理が、6分間歩行距離・身体・認知機能・退院後QOLの改善に有効であることが実証されました。

急性期リハビリの推奨クラス

対象推奨クラスエビデンスレベル
入院中の早期離床・個別的運動療法・多職種介入Class ⅠB-NR
急性非代償性心不全(代償後)からの運動療法Class ⅡaB-R
重症心不全/強心薬投与中のデコンディショニング予防Class ⅡbB-NR

入院後48時間以内からのベッドサイド早期運動開始が推奨されています。

急性期の開始基準・中止基準

開始前の確認事項(必須)

  • 血行動態の安定性(血圧・心拍数・SpO₂・呼吸数)
  • 静注強心薬・昇圧薬の使用状況
  • 胸水・浮腫の程度と経過
  • 不整脈の有無
  • BNP/NT-proBNPの値と推移

中止基準(一般的目安)

項目中止の目安
収縮期血圧>180mmHg または <90mmHg
心拍数>120bpm または新たな不整脈出現
SpO₂<90% または安静時から3%以上の低下
症状新たな胸痛・強い息切れ・めまいの出現

PT・OTへの実践アドバイス: 重症心不全や強心薬投与中であっても「禁忌」ではなく「慎重に実施する」というのが2025年ガイドラインのスタンスです。低強度での介入によるデコンディショニング予防が推奨されていますが、必ず医師・看護師との密な連携のもとで判断することが前提です。


回復期・維持期の運動処方——具体的な進め方

運動療法の効果エビデンス

回復期以降の運動療法については、強力なエビデンスが揃っています。

  • 外来心リハでpeak VO₂が平均17%改善
  • 健康関連QOLの改善
  • 心不全再入院の回避
  • 全死亡・すべての入院の複合エンドポイントの発生率低下

EFの分類を問わず、運動療法はClass Ⅰ・エビデンスAで推奨されています。

有酸素運動の処方

CPXで得られたATを基準にした中強度運動がファーストチョイスです。

心不全増悪なく中強度運動を安全に実施できる患者には、高強度インターバルトレーニング(HIIT) も選択肢になります。CPXによるリスク評価に基づき、監視下で実施することでより効率的な運動耐容能改善が期待できます。

レジスタンストレーニングの原則

特に高齢者・フレイル・サルコペニア合併例では、有酸素運動と並んでレジスタンストレーニングが重要です。

  • 少量頻回を原則とする
  • 目標は座位・立位・歩行動作の安定
  • パワートレーニング+バランス運動+動作訓練を組み合わせたマルチコンポーネント運動プログラムが推奨

通常の有酸素運動が困難な患者には、チェア・エクササイズやアシスト機能付きエルゴメーターを用いた低強度有酸素運動が有効です。


特殊な患者群への対応——ICD・高齢者・フレイル

ICD(植込み型除細動器)留置後

  • 運動療法によってショック作動を約30%減少させる効果あり
  • 頻拍治療の下限設定心拍数を10〜30bpm下回る心拍数を運動の上限に設定する

心臓移植後

  • 術後早期からの運動療法が推奨。peak VO₂で26%の運動耐容能改善効果が示されている
  • 移植心は除神経心のため、運動開始・終了に伴う心拍応答が緩徐・遅延する——心拍数だけで負荷を管理しないこと
  • 運動強度は自覚的運動強度またはpeak VO₂の40〜60%を目安に

高齢者・フレイル患者——今後の主戦場

2025年ガイドラインで最も注目すべき変化のひとつが、高齢・フレイル患者へのアプローチ強化です。

REHAB-HF試験では、急性非代償性心不全で入院したフレイルの高齢患者に対して、入院中から運動療法を開始・継続することで包括的下肢機能の改善効果が得られ、フレイルが高度な患者ほど顕著な機能改善が示されました。

ガイドラインでは「フレイル・サルコペニアを合併する高齢心不全患者へのレジスタンストレーニング・マルチコンポーネント運動」がClass Ⅰ・B-Rで推奨されています。

また、「運動耐容能の改善」から「身体機能とADLの維持改善・QOLを保った生活の維持支援」へと目標軸をシフトさせることの重要性がガイドラインで明示されました。これは、PT・OTが高齢心不全患者に関わるときの大きな拠り所になります。


安全管理の実際——中止基準とモニタリング

運動中のモニタリング項目

項目確認内容
心拍数目標心拍数の範囲内か、不整脈の出現はないか
血圧運動前後の変化、過度な上昇・低下がないか
SpO₂90%以下、または安静時から3%以上の低下で中止
自覚症状Borgスケール11〜13(「楽」〜「ややきつい」)を目安

心不全増悪サインを見逃さない

以下のサインが現れた際は、速やかに医師・看護師へ報告し、リハビリ内容の変更を検討してください。

  • 急激な体重増加(2〜3日で2kg以上)
  • 浮腫の増悪
  • 安静時の息切れ出現・増悪
  • 夜間起座呼吸
  • 活動耐容量の急激な低下

BNP/NT-proBNPの活用

PT・OTが直接測定する指標ではありませんが、主治医・看護師からBNPの推移を情報収集する習慣が重要です。BNPが上昇傾向にある際は、運動負荷を控える・医師に相談するという判断の根拠になります。


2025年改訂で何が変わった?PT・OTへのインパクト

2025年ガイドライン改訂のポイントを、PT・OTの視点からまとめます。

改訂の主な変更点

① 急性期リハビリの積極的推奨
入院後48時間以内のベッドサイド早期運動がClass Ⅰで推奨。急性期病棟でのPT・OTの役割が明確に位置づけられました。

② 重症心不全への「慎重に実施」スタンス
強心薬投与中などの重症例でも「禁忌ではなく慎重に」。デコンディショニング予防のための低強度介入の推奨が新たに加わりました。

③ 高齢者・フレイル患者への個別プログラム強化
マルチコンポーネント運動プログラムがClass Ⅰ推奨。PT・OTの専門性が最も発揮される領域です。

④ 包括的プログラムとしての評価
運動療法単独ではなく、多職種による包括的プログラムの効果として評価するという視点が強調されています。

⑤ 在宅・訪問リハビリの位置づけ明確化
「在宅での心臓リハビリは外来心臓リハビリと同等の効果がある」と明記。訪問リハビリに関わるPT・OTにとって大きな後ろ盾になります。

⑥ 心不全療養指導士との連携
理学療法士・作業療法士は心不全療養指導士の資格取得対象者として明記されており、チーム医療の中核的役割が期待されています。

わが国の心リハの現状と課題

  • 入院中の心リハ実施率:約40%
  • 外来心リハ実施率:約7%(きわめて低い)

外来通院が困難な患者への対応として、回復期病棟・地域包括ケア病棟・在宅での心リハを担う役割がPT・OTにますます求められています。


まとめ

2025年ガイドラインが私たちPT・OTに伝えているメッセージは明確です。

「急性期から在宅まで、切れ目なく、個別化して、チームで届ける」

心臓リハビリは「危険だから慎重に」から「適切なリスク管理のもとで積極的に」へとパラダイムが変わっています。エビデンスに基づいた運動処方と丁寧なモニタリングを組み合わせれば、心臓リハビリは患者の命を守り、生活を豊かにする強力な武器になります。

この記事が、明日からの臨床実践の一助になれば幸いです。


参考文献

  • 日本循環器学会/日本心不全学会合同ガイドライン「2025年改訂版 心不全診療ガイドライン」(2025年3月発行)
  • 日本循環器学会「2021年改訂版 心血管疾患におけるリハビリテーションに関するガイドライン」

本記事は教育・情報提供を目的として作成しています。個々の患者への運動療法の適応・処方は、必ず主治医との連携のもとで判断してください。



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