TKA術後リハビリに悩むあなたへ
TKA(人工膝関節全置換術)後のリハビリは、新人理学療法士にとって非常に身近で、かつ難しさを感じやすい症例です。
「術後の膝が全然伸びない…」「疼痛が強くてリハビリが進まない…」「荷重はどこまでかけていいのか?」
こんな疑問や不安を抱えながら、患者さんと向き合った経験がある方も多いのではないでしょうか。
TKAのリハビリは、教科書的な「術後プロトコル」だけでは対応できない場面も多く、患者さんごとの個別性をどう評価し、どう対応していくかが大きな鍵になります。
本記事では、「新人理学療法士がTKA術後リハビリにどう向き合えばいいか?」という視点で、評価のポイント、進め方、注意点をわかりやすく解説していきます。
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TKA(人工膝関節全置換術)とは?
TKA(Total Knee Arthroplasty:人工膝関節全置換術)とは、変形性膝関節症や関節リウマチなどにより変性した膝関節を、人工関節に置き換える手術です。高齢者に多く、整形外科病棟や回復期病棟では非常に頻度の高い手術でもあります。
人工膝関節は、一般的に以下のような構造になっています。
- 大腿骨・脛骨・膝蓋骨にそれぞれ人工の部品(インプラント)を設置
- 関節の可動性や安定性を保ちつつ、痛みを軽減
- 通常、骨セメントを用いて固定する「セメント固定」が主流(セメントレスは比較的若年者や骨質が良好な症例で選択される)
TKA後のリハビリは、術後翌日から早期離床・可動域訓練が開始されることが多く、疼痛管理やリスクの見極めが重要です。
術式によっても経過は異なるため、医師の術後指示・オペ記録の確認が必須となります。
リハビリ開始時に確認すべきポイント
TKA術後のリハビリを安全かつ効果的に行うためには、介入前の情報収集と観察が重要です。**「まず見る・聞く・確認する」**という初動の質が、リスクの回避とリハビリのスムーズな立ち上がりに直結します。
✔1. 術式とドクターの指示確認
- TKA術後は一般的に翌日からリハビリ介入が始まりますが、手術方法(セメント固定 or セメントレス)、皮膚の状態、術中合併症の有無などで対応が変わることがあります。
- 術後指示には、「荷重制限の有無」「関節可動域制限」「装具使用の有無」などが明記されているため、必ず術後オーダーを確認してから介入しましょう。
✔2. 麻酔の影響を考慮する
- 術後の疼痛管理として、**硬膜外麻酔や末梢神経ブロック(FNBなど)**が行われているケースがあります。
- 特にFNB(大腿神経ブロック)は大腿四頭筋の筋力低下を招くため、立位・歩行の安全性に注意が必要です。
✔3. 術後合併症のリスク評価
- TKA術後は、以下の合併症に注意します:
- 深部静脈血栓症(DVT):腫脹、熱感、疼痛の片側性出現がサイン
- 感染症(SSI):創部の発赤、滲出液、発熱など
- 肺塞栓・低酸素血症:息苦しさ、SpO₂の低下
- バイタルサイン、下肢の腫脹、圧痛などを毎回確認することが、新人PTにとって大切な習慣です。
✔4. 疼痛と可動域の初期評価
- 疼痛評価はNRS(Numerical Rating Scale)で数値化しておくと便利です。
- 初期では関節伸展制限が残存しやすいため、「膝伸展−5°以下」を目標に介入していくことが多いです。

急性期リハビリの進め方
術後1日目からのリハビリは、疼痛コントロール・ROMの確保・早期離床の3本柱で構成されます。以下の流れを基本として、患者さんの状態に応じて調整していきます。
✔1. ベッド上運動と離床
- 【術後1日目】
- 足関節ポンピング、股関節・膝関節の自動・他動運動
- ベッドサイドで端座位保持・立ち上がり練習
- 【術後2日目以降】
- 平行棒内での立位保持、重心移動訓練
- 歩行器やT字杖を用いた歩行開始(荷重許可に応じて)
※立ち上がり時には起立性低血圧にも注意し、ゆっくり動作・声かけが重要です。
✔2. 関節可動域訓練(特に伸展制限)
- TKA術後の可動域訓練(ROMex)は早期からの介入が鍵です。
- 伸展(0°)確保 → 拘縮予防のため最優先
- 屈曲(120°目標) → 退院までに少しずつ獲得
- 痛みが強い場合は、アイシングや痛みの閾値を意識した訓練でアプローチします。
✔3. 筋力訓練:大腿四頭筋の再教育
- TKA術後は特に大腿四頭筋の活動低下が目立ちます。
- 臥位でのクワドセッティングやSLR(Straight Leg Raise)を取り入れましょう。
- FNB施行例では、感覚・運動麻痺の改善を見ながら段階的に進めることが重要です。
✔4. 歩行訓練と荷重練習
- 歩行は平行棒内から開始し、荷重量・安定性・歩行時の代償動作を評価します。
- 股関節屈曲や体幹の代償が強い場合、荷重コントロールや立位バランス訓練を優先します。
- 歩行補助具は段階的に→歩行器 → T杖 → 杖なしのように切り替えます。
✍️この章のまとめ(ポイント)
- 術後は情報収集+状態観察を徹底
- 伸展可動域の確保、大腿四頭筋の再教育がリハビリのカギ
- 無理をさせず、痛みと不安に寄り添う関わりが重要
よくあるリスクとその対策
TKA術後のリハビリでは、術後合併症やトラブルへの気づき・対応が非常に重要です。特に新人理学療法士にとっては、見落としがちなリスクもあるため、以下のポイントを押さえておきましょう。
🔸1. 膝関節の拘縮
●原因:
- 疼痛による可動域制限
- 急激なROM訓練による炎症・筋緊張増加
●対策:
- **「無理に動かす」より「痛みに配慮して継続する」**ことを優先
- アイス・挙上・リラクゼーションを併用しながら段階的に可動域拡大を目指す
🔸2. 深部静脈血栓症(DVT)
●兆候:
- 下腿の腫脹、熱感、圧痛(Homan徴候)
- 術後1〜3日目で起こることが多い
●対策:
- 毎セッション前に患肢の観察と触診を行う
- 下肢のアイシング・弾性ストッキング・ポンピング運動で予防
- 疑わしい場合はすぐに看護師・医師に報告
🔸3. 転倒・起立性低血圧
●リスク因子:
- 神経ブロック(FNB)による筋力低下
- 術後の循環不安定・立位保持力低下
●対策:
- 初回離床時は2名介助や看護師同行で安全確保
- 立ち上がり時はゆっくりと、症状の確認を逐次行う
- バイタルチェック・起立時の血圧変動を記録する習慣を持つ
🔸4. 痛みとリハビリ拒否
●ポイント:
- 痛みへの不安が強いと、訓練意欲が著しく低下するケースもあります。
- 「怖くて膝を動かしたくない」「リハビリを休みたい」と言われた経験がある方も多いはず。
●対策:
- 痛みの可視化(NRSなど)+段階的な成功体験の提供
- 「今日はこれだけできた!」というポジティブな声かけ
- 必要に応じて主治医・薬剤師と疼痛コントロールを再検討
退院に向けた指導と在宅生活へのつなぎ方
TKA術後リハビリは、病棟での機能訓練に加えて、退院後の生活を見据えた支援が非常に重要です。回復期・在宅への移行に際して、新人理学療法士が行うべき指導内容と支援ポイントを整理します。
🔸1. 退院時のADL評価
- 歩行能力(歩行補助具の種類・距離・屋外可否)
- 自宅環境(段差、トイレ・風呂の仕様、寝室の場所など)
- 日常動作(靴下を履く、トイレ動作、入浴動作の可否)
→ 「生活の中で困ること」を具体的に想像し、患者さんと共有することがカギ。
🔸2. 指導すべきポイント
項目 | 指導内容の例 |
①膝の使い方 | 正座・しゃがみ込みは不可、膝の曲げすぎ注意 |
②装具の使い方 | 杖の使い方や段差昇降の方法 |
③運動の継続 | 自主訓練メニューを説明(クワドセッティング、膝のROM運動など) |
④疼痛管理 | アイスのタイミング、薬の使用方法 |
🔸3. 家屋調査や福祉用具の提案
- 必要に応じて**住宅改修(手すり設置・段差解消)や福祉用具(手すり、杖、椅子の高さ調整)**も検討
- OTやケアマネジャーとの連携がポイント
🔸4. 家族や介護者への説明
- 移動・移乗の介助方法
- 転倒リスクとその対応
- 通院やリハビリ継続に必要な支援内容
→ 患者さんだけでなく、支える家族の理解と納得も退院支援の一部です。
✅この章のまとめ
「日常生活をどう取り戻すか?」に目を向けた関わりが、新人PTに求められる視点です
TKAリハビリでは拘縮、転倒、DVTなどのリスク管理が必須
在宅生活を見据えて、自立支援+生活指導+家族支援が重要
まとめ:TKA術後リハビリに必要な「基本」と「臨床力」
TKA(人工膝関節全置換術)術後のリハビリは、術後早期からの機能回復と再発防止、そして自立した生活への橋渡しを担う重要なフェーズです。新人理学療法士として現場に立つあなたが、まず押さえておくべきポイントを改めて整理しましょう。
🔸1. 基本を押さえることが「守り」
- 術後何日目に何をするのか(リハのスケジュール感)
- 禁忌やドクター指示の確認
- 膝関節の解剖や術式の理解(正座禁止の理由など)
→これらを押さえることで「安全」が担保されます。
🔸2. 観察力と推論が「攻め」
- 「今日は歩き方がおかしい」「痛みが強くなってる」などの日々の変化に気づけるか
- それを「なぜそうなったのか?」と考えられるか
これは教科書にはない、「臨床力の第一歩」です。観察と仮説の繰り返しが、あなたを“ただの指示通りのPT”から、“信頼されるPT”へと育てます。
🔸3. 患者さんと向き合う「対話力」
- リハビリの目的を伝える
- 痛みに共感する
- 不安や疑問を聞き出す
これがないと、いくら正しい訓練でも患者さんの心に届きません。**「伝える力」ではなく「伝わる力」**を意識してみましょう。
🔸4. TKAリハビリは「生活に戻るための支援」
- 歩けることだけがゴールではありません。
- 「靴下を履けるようになりたい」「孫と公園を歩きたい」といった、その人らしい生活の回復を支えるのがTKAリハビリの本質です。
新人PTであっても、目の前の患者さんの“暮らし”を見据えて関わる姿勢は、必ず伝わります。
🔚終わりに:自信がなくても、一歩ずつ臨床力は育つ
TKA術後のリハビリは、医学的な知識、運動療法、観察眼、そしてコミュニケーション力が総合的に試される分野です。最初は不安もあるでしょうが、「なぜこの訓練をするのか?」「この患者さんにとって最善は何か?」と問いながら関わることで、あなたの臨床力は着実に育っていきます。
焦らず、誠実に、一人ひとりの患者さんと向き合ってください。
🎁補足:TKAリハビリで使える自主トレメニュー例(患者指導にも使えます)
種類 | 目的 | 方法 |
クワドセッティング | 大腿四頭筋の収縮訓練 | 膝を伸ばしたまま膝裏を床に押しつける(5秒キープ×10回) |
ストレートレッグレイズ | 股関節周囲筋・膝伸展保持 | 膝を伸ばしたまま20cm持ち上げてゆっくり下ろす |
膝屈伸ROM | 拘縮予防 | 座位で膝をゆっくり曲げ伸ばし(痛みのない範囲で) |
足関節ポンピング | DVT予防 | 仰臥位で足首を上下に動かす |