はじめに
「ChatGPTの登場で、『AIに仕事を奪われる』という言葉を毎日のように耳にするようになりました。私たち理学療法士(PT)の仕事も、例外ではないのでしょうか?」
この記事を読んでいるあなたは、理学療法士として、あるいはそれを目指す学生として、AIの急速な進化に漠然とした不安を感じているのかもしれません。
- 患者データ分析やリハビリ計画の立案なら、AIの方が得意かもしれない…
- 自分の専門性やスキルは、10年後も通用するのだろうか?
- 理学療法士の仕事は、将来なくなってしまうのか?
大丈夫です。その不安は、未来を見据えている証拠だと思います。
この記事では、AIが理学療法士の業務に与える影響を冷静に分析し、AIには決して真似できないPTの核心的価値について考えます。そして、AI時代を「最強の味方」と共に力強く生き抜くための具体的な3つの戦略について深く考えます。
読み終える頃には、あなたの漠然とした不安は「未来への希望と具体的な行動計画」へ変化させるための一歩を踏み出せていることを願います。
\本気で臨床に向き合うあなたへ/
「臨床理学Lab」では、臨床にすぐ活かせる専門記事を毎週更新中。
すべての有料記事が読み放題、さらに質問や意見交換もOK!疑問を共有し、深く考え、共に成長できるこの場で、
あなたの臨床スキルを一歩先へ進めませんか?

なぜ『PTの仕事がAIに奪われる』と言われるのか?AIが得意なこと
まず、なぜ「AIがPTの仕事を奪う」という懸念が生まれるのか、その理由を具体的に見ていきましょう。AI、特に生成AIは、以下の領域で私たちの業務を「代替」または「補助」する高いポテンシャルを持っています。
① 情報収集と分析の高速化
- 論文・文献検索: 「変形性膝関節症に対する最新の運動療法のエビデンスは?」と入力すれば、AIは世界中の膨大な論文データを瞬時に検索・要約し、治療法の候補を提示します。
- データ解析: 歩行解析装置やウェアラブルセンサーから得られる膨大なデータをAIが解析。人間の目では見逃しがちな僅かな変化を捉え、客観的な評価レポートを自動で作成します。
② リハビリ計画立案と運動指導の補助
- 計画のたたき台作成: 患者の年齢、診断名、身体機能評価、生活背景などの情報を入力すれば、AIが標準的なリハビリテーション計画の「たたき台」を数秒で作成します。
- 個別運動プログラムの提供: VR(仮想現実)や専用アプリを活用し、患者が自宅でもゲーム感覚で楽しく継続できる、パーソナライズされた運動プログラムを提供します。
③ 事務作業の劇的な自動化
- カルテ・書類作成の効率化: 患者さんとの会話をAIがリアルタイムでテキスト化し、SOAP形式で要約。サマリーや各種書類作成にかかる時間を大幅に削減します。
これらの業務は、理学療法士の仕事の中でも時間と労力がかかる部分です。この部分だけを見れば、「AIに代替されるのでは?」という懸念が生まれるのは自然なことと言えるでしょう。


AIには絶対に真似できない!理学療法士の3つの核心的価値
しかし、ここからが本題です。AIには決して真似できない、人間の理学療法士だからこそ提供できる「核心的価値」が存在します。これこそが、私たちの専門性が未来永劫輝き続ける理由です。
価値①:『触れる』技術と身体的コミュニケーション
AIロボットがどれだけ進化しても、人間の「手」の繊細さには敵いません。
- 触診(Palpation): 筋の微妙な緊張、関節のわずかなズレ、皮膚の温度や質感。ミリ単位の情報を感じ取り、問題の根源を探る「手」の感覚は、何万時間もの臨床経験によって培われるアートであり、現在のAIには再現不可能です。
- 徒手療法・介助: 私たちが患者さんの身体にそっと触れるとき、それは単なる物理的なサポートではありません。その温もりは「大丈夫ですよ、私がついています」という無言のメッセージとなり、患者さんに深い安心感と信頼をもたらします。この身体を通したコミュニケーションは、治療効果を最大化する上で不可欠な要素です。
価値②:『対話』から生まれる信頼と個別性
AIはデータを処理できますが、人の「心」を真に理解することはできません。
- 非言語的情報の読解: 患者さんの強がりの裏にある不安な表情、言葉に詰まる瞬間のためらい、痛みを訴える声のトーン。私たちは、言葉にならない想いや痛みを汲み取る共感力を持っています。
- ナラティブの理解: 「退院したら、孫とキャッチボールがしたい」「もう一度、自分の足であの山に登りたい」。AIが処理するデータには現れない、患者さん一人ひとりの人生の物語(ナラティブ)を深く理解し、それを治療の「真のゴール」に設定する。これこそがオーダーメイドのリハビリテーションの本質です。
- モチベーションの向上: 辛いリハビリに心が折れそうな時、理学療法士の「〇〇さんなら、できますよ!」という励ましや、ただ黙って話を聞く傾聴の姿勢が、どれほど患者さんの心を支えることか。この人間的な関わりが、治療を継続する原動力となります。
価値③:『統合』して判断する臨床推論と責任
理学療法士の仕事は、マニュアル通りにはいきません。そこにこそ、私たちの真価があります。
- 複雑系の意思決定: 科学的根拠(EBM)、患者さんの価値観や希望、自身の過去の経験則、医師や看護師からの情報。時には矛盾しうるこれらの複雑な情報を瞬時に頭の中で**統合し、その場で最善の判断を下す能力(臨床推論)**は、高度な思考能力の表れです。
- 予期せぬ事態への対応: 計画通りに進まない、急に痛みが増した、メンタルが落ち込んでいる。そんな教科書に載っていない現実に、柔軟に対応し軌道修正する力は、AIにはありません。
- 倫理観と最終責任: どのような治療法を選択し、その結果に何が起きようとも、その最終的な判断と責任を負うのは、プログラムではなく私たち人間です。この倫理観と覚悟こそが、専門職としての根幹を成しています。
【未来戦略】生成AI時代を勝ち抜く!理学療法士が今すぐ始めるべきこと
では、AIに奪われない価値を磨きつつ、未来を勝ち抜くためには具体的に何をすればよいのでしょうか。今日から始められる3つの戦略を提案します。
戦略①:AIを『最強のアシスタント』として使いこなす
AIを敵視するのではなく、業務効率を最大化する**「優秀な新人アシスタント」**として積極的に活用しましょう。
- マインドセットの転換: 「AIに仕事を奪われる」ではなく、「AIを使って自分の時間を創り出す」と考える。
- 具体的な活用例:
- 情報収集: ChatGPTに「最新の脳卒中リハビリに関するコクランレビューを要約して」と指示する。
- 資料作成: 患者さん向けの説明資料や自主トレーニングメニューのたたき台をAIに作らせる。
- アイデア出し: 難渋している症例について、考えられるアプローチの選択肢をAIに挙げてもらう。
AIによって生まれた貴重な時間を、「人間にしかできない業務」(触診、対話、臨床推論)に再投資する。これが最も賢いAI活用法です。
戦略②:『専門性』を深化・拡張させる
「何でもできるPT」から「〇〇ならこの人」と言われる存在へ。自身の専門性を尖らせましょう。
- 専門性の深化: 認定・専門理学療法士の資格取得を目指す。スポーツ、ウィメンズヘルス、循環器、呼吸器、疼痛管理など、特定の分野で誰にも負けない知識と技術を磨き上げましょう。ニッチな分野ほど、AIによる代替は困難になります。
- 専門性の拡張: 心理学、コーチング、栄養学、福祉用具など、理学療法と親和性の高い隣接領域の知識を学ぶことで、より多角的でホリスティックなアプローチが可能になります。**「理学療法 × 〇〇」**という掛け算が、あなただけのユニークな価値を生み出します。
戦略③:『人間力(ヒューマンスキル)』を意識的に磨く
AI時代に最も価値が高まるのは、皮肉にも「人間らしさ」です。
- コミュニケーション能力の向上: 患者さんやその家族、多職種と円滑な関係を築く力は、これまで以上に重要になります。傾聴や共感、ファシリテーションに関する本を読んだり、研修に参加したりするのも良いでしょう。
- 「病気」ではなく「病人」を診る: 私たちの目の前にいるのは、「変形性膝関節症」という病気ではありません。「膝の痛みで旅行に行けず、生きがいを失いかけている〇〇さん」という一人の人間です。この視点を常に持ち続けることが、AIとの決定的な差別化につながります。
まとめ:AIとの協働が創る、理学療法の新しい未来
結論として、AIが理学療法士の仕事を完全に奪うことはありません。
しかし、時代の変化に適応しようとせず、「昔ながらのやり方」に固執する理学療法士の仕事は、部分的にAIに代替されていくでしょう。
未来は、こう変わります。
単純作業や情報処理はAIという優秀なアシスタントに任せ、理学療法士はより創造的で、より人間的な役割、すなわち**「触れ、対話し、統合し、決断する」**という本質的な業務に集中できるようになるのです。
AIの進化は、私たちから仕事を奪う脅威ではありません。理学療法の質を次のステージへと引き上げ、患者さんにより大きな価値を提供するための**「革命的なチャンス」**です。
未来を恐れるのではなく、自らの手で創り出していきましょう。
まずはこの記事を読んだ今日、あなたの臨床で患者さんとの対話の時間をいつもより5分だけ長く取ってみませんか?
その5分こそが、AIには決して生み出せない、あなただけの価値なのですから。