はじめに
理学療法士として臨床現場に立っていると、患者さんの動作に対して「何かがおかしい」「この動き、なぜ出てるんだろう?」と直感的に思う場面が必ず出てきます。
しかし、その“なんかおかしい”を言語化できず、曖昧な評価のまま訓練が進んでしまっているケースも少なくありません。
この記事では、「触診」と「動作観察」を組み合わせた評価の視点から、そうしたモヤモヤを“臨床推論”へと変える方法を紹介します。
特に若手理学療法士や動作分析に伸び悩む中堅PTに向けて、評価と触診を“つなげる”という考え方を詳しく解説していきます。
この記事でわかること
- 動作の「なぜ?」を言語化できない原因
- 動作観察と触診を“つなげる”具体的な方法
- 臨床推論の精度を上げるための評価サイクル
- 明日から臨床で使える実践的な3ステップ
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🔍理学療法士にありがちな悩み:「見えてるけど、わからない…」
たとえば、歩行時に「骨盤が左右に揺れているな…」と感じたとします。
それを“骨盤の偏位”と分析するのは簡単ですが、「なぜその偏位が起きているのか?」と掘り下げようとすると、急に難しくなってしまうのです。
その原因の多くは、動作観察と触診を“別々のもの”として扱ってしまっていることにあります。
・動作観察は「外からの評価」
・触診は「内からの評価」
この2つの評価手法を、“一連の評価サイクル”として活用できるかどうかが、動作分析の精度を左右します。
臨床評価の本質:「見て、触って、考える」評価の流れを持つ
評価において重要なのは、「見た→仮説→触る→確かめる→また見る」という反復と統合のサイクルです。
つまり、触診は動作観察で得られた情報を「確かめ、深めるための手段」として活用されるべきなのです。
逆に言えば、動作観察で“疑った”ことを、実際に触れて確かめることができないと、解剖学や運動学の知識が机上の空論になってしまいます。
この評価の流れを身につけることで、患者の“動きの背景にある構造的問題”にアプローチできる力が育っていきます。

実際の臨床から:歩行×中殿筋の評価を例に
🧪事例:片麻痺の患者さんの歩行分析
歩行中、患側の骨盤が大きく沈み込んでいることに気づきました。いわゆるTrendelenburg兆候です。
このとき、「中殿筋の筋力低下では?」という仮説が浮かぶことも多いかと思います。
次に、中殿筋の収縮を動作中に触診します。立脚期に中殿筋に手を当ててみると、収縮が不十分で健側との差が明確に感じられました。
→ この時点で仮説が“感覚として”裏付けられ、評価の精度が一段階上がったことになります。
このように、観察→触診→確信というサイクルを通して、動作の背景にある連動・協調・代償のメカニズムが見えてくるのです。
動作と触診の“連動”に気づくための3ステップ
① 観察で仮説を立てる
まずは「動作の異常」が目に入る。その異常を筋・関節・神経などの構造的要素に紐づけて仮説を立てる。
例:「股関節伸展が出ない」→「腸腰筋の短縮 or 臀筋の弱化では?」
② 触診で仮説を検証する
動作中や安静時に該当部位を触診し、実際に筋の硬さ・収縮・緊張・痛みなどを評価する。
例:腸腰筋に過剰な緊張があり、収縮時に痛みがある→短縮の仮説が強化
③ 統合してアプローチへつなげる
観察と触診の情報を統合し、「なぜその動きになっているか?」の答えを導く。
そこから治療計画や訓練内容へ反映させる。
❌よくある失敗パターンとその対処法
失敗パターン | 解決のヒント |
全部の筋をとりあえず触ってみる | 仮説を立ててから触ることを徹底する |
安静時にしか触診しない | 動作中の触診を積極的に取り入れる |
観察と触診をつなげていない | 評価の記録に「動作と構造の関係性」を書き残す |
観察だけで評価を終わらせる | 必ず**“触って確認”する習慣**をつける |
✍理学療法士が意識すべき“触診力×観察力”の統合
触診は“手の感覚”だけの話ではありません。
それは**「考えながら触れる技術」**であり、構造的な知識・動作の理解・臨床的な経験が複雑に絡み合うスキルです。
逆に言えば、「動作をどう見て、どこに触れ、何を感じたか」を言語化できるようになることで、後輩指導やチーム内連携にも大きく貢献できるようになります。
まとめ:評価に触診を“統合”しよう
- 動作観察だけでは、動きの“表層”しか見えません
- 触診を組み合わせることで、構造的背景まで評価できるようになります
- 大事なのは「見て、触って、考えて、また見る」の繰り返し
- この習慣が、臨床推論の精度を劇的に高めます
🧭次のステップに向けて
今後、以下のような記事も順次公開予定です。
- 【実践編】触診が苦手な人のための「収縮・硬さ・痛み」の見極めトレーニング
- 【応用編】深層筋の触診と運動連鎖の評価方法
- 【指導編】新人に“感覚”をどう教える?触診の言語化マニュアル
ここまで読んでいただきありがとうございました。