はじめに
理学療法士として働く中で、**「とりあえずROM訓練しておこう」**といった日常が、いつの間にか“当たり前”になっていませんか?
僕自身、臨床1年目のころは**「ROM訓練って、結局なんのためにやってるんだろう?」**と悩んだことが何度もありました。ただ動かすだけで本当に意味があるのか。目的を見失ったまま、毎日同じ介入を続けてしまっていたのです。
本記事では、ROM訓練の本質を再確認し、それを「意味ある介入」に変えるための実践的な視点や工夫を紹介します。
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ROM訓練が“目的化”してしまう現場のリアル
臨床現場でこんな場面に出会いませんか?
- ルーチンのように股関節の他動運動
- 何の説明もなく、ただ膝関節を屈伸して終了
- 患者さん自身が「これって何のため?」と疑問顔
こういった場面において共通しているのは、ROM訓練が「手段」ではなく「目的」になってしまっているという点です。
本来、ROM訓練はADLや活動の実現に向けた“手段のひとつ”であるはずなのに、気づけば“やることリストの1つ”に変わってしまっている。これは、忙しい現場ほど起こりやすい「落とし穴」です。
関節可動域訓練は「目的」ではなく「手段」
ROM訓練の目的は、関節の柔軟性を改善し、機能的な動作を可能にすることです。
例えば、以下のように“動作”と結びつけて初めて意味を持ちます。
- 肩関節屈曲:上着を着る、髪をとかす、洗体動作の再獲得
- 足関節背屈:立ち上がりの安定、歩行の推進力確保
- 股関節伸展:立位保持や階段昇降の効率化
単に可動域が「広がった」「硬さが取れた」で終わってしまうと、それは「運動学的にはOK」でも、「生活の質(QOL)」にはつながっていないかもしれません。
“ただ動かす”から“意味を持たせる”ROM訓練に変える方法
では、ROM訓練を“意味ある介入”に変えるにはどうすればいいのでしょうか?
ここでは、臨床で実践できる3つの工夫を紹介します。
① 動作やADLとセットで考える
可動域訓練を「その関節の動き」としてではなく、「ある動作を実現するための要素」として捉えることで、介入の目的が明確になります。
例:「足関節背屈0°」ではなく「階段を安全に上がるための背屈角度」として設定。
② 段階的に“機能訓練”へつなげる
ROM訓練を終えたあと、自動運動→動作訓練へと自然につなげる構成を意識すると、動きの再学習が促進されます。
他動→自動→荷重下での動作→生活動作に応用
③ 患者と目的を共有する
患者さん自身が「何のためにこの訓練をやっているのか」が分かると、積極的な参加と理解が生まれます。モチベーションが上がるだけでなく、効果の定着も促されます。
「この動きが広がると、洗濯物を干しやすくなりますよ」と説明するだけで全然違います。
【実例紹介】ROM訓練が“生きた”臨床の瞬間
僕が担当した、ある右肩骨折術後の高齢女性のケースです。
拘縮が進行しており、ROM訓練は欠かせない状況でした。でも当初、彼女は言いました。
「毎日これをやって意味あるの?家に帰っても腕は使わないと思う。」
僕はその言葉にハッとしました。
生活をイメージして話を聞いたところ、「一人暮らしで洗濯干しができないと困る」と本音を話してくれました。
そこからは洗濯動作の再現→肩屈曲をその動作につなげるROM訓練→自動介助訓練という形に切り替えたところ、リハビリの参加姿勢が大きく変わりました。
退院前には「これで家で洗濯できる!」と笑顔を見せてくれました。
まとめ|ROM訓練を“意味ある介入”にするための3つの視点
最後に、関節可動域訓練を「ただの運動」にしないためのポイントを整理します。
✅ 1.目的を明確にする(ADL・動作との関連性を意識)
✅ 2.プロセスを設計する(他動→自動→動作)
✅ 3.患者と目的を共有する(納得と参加が生まれる)
おわりに
ROM訓練は、地味で単調に思われがちな介入ですが、**その本質を理解して組み立てると、患者さんの人生に直結する「意味あるリハビリ」**になります。
「今日のROM訓練は、誰の、どんな生活に結びついているか?」
そんな問いを持って、明日のリハビリに臨んでみてください。きっと、何かが変わり始めます。