はじめに
急性期リハビリテーションにおいて、「早期離床」は患者の予後を大きく左右する重要な介入の一つです。特に、ICU(集中治療室)やCCU(冠疾患集中治療室)に入院している患者は、ベッド上安静が長引くことで廃用症候群が進行しやすく、筋力低下や肺炎、深部静脈血栓症(DVT)などの合併症リスクが高まります。
最近では、「ICU-AW(ICU関連筋力低下)」という概念が注目されており、ICU入院中の患者の約50%が筋力低下を起こすと報告されています。このようなリスクを防ぎ、患者の早期回復を促進するために、理学療法士による積極的な早期離床が求められています。
本記事では、急性期リハビリにおける早期離床の進め方を、評価方法・介入の流れ・注意点などを含めて解説します。
この記事はこんな人におすすめ!

✅ 急性期病院でリハビリを担当する理学療法士(PT)
✅ ICUやCCUでのリハビリテーションの実践方法を知りたい方
✅ 早期離床を安全に進めるための評価基準を知りたい方
✅ 急性期リハビリにおけるバイタル管理のポイントを学びたい方
す✅ 看護師や医師と連携しながら、離床を効率的に進めたい方

「急性期リハビリの早期離床って、どこまで進めていいの?」

「どんなバイタル変化があったら中止すべき?」
といった疑問をお持ちの方に役立つ内容となっています。
早期離床のメリットと効果
急性期患者において、早期離床を進めることで以下のような効果が期待できます。
✅ 廃用症候群(Disuse Syndrome)の予防
長期間のベッド上安静は、筋萎縮や関節拘縮、骨密度低下を引き起こし、最終的にはADL(日常生活動作)の低下につながります。早期離床を進めることで、これらの廃用症候群を防ぐことができます。
✅ ICU-AW(ICU関連筋力低下)の予防
ICUに長期間入院すると、全身の筋力低下が進行し、特に抗重力筋(大腿四頭筋、腸腰筋、脊柱起立筋など)の筋力が著しく低下します。これにより、離床後も歩行や立位保持が困難になるケースが多く、早期の理学療法介入が重要になります。
✅ 人工呼吸器離脱の促進(ウィーニングの補助)
人工呼吸器を装着している患者に対しても、早期離床を行うことで横隔膜の廃用を防ぎ、呼吸筋の回復を促進できます。座位や立位姿勢を取ることで、肺活量の増加や呼吸仕事量の低減が期待できるとされます。
✅ 認知機能の維持(ICUせん妄の予防)
長期のICU管理ではせん妄(ICU Delirium)が問題となることも多く、患者の意識レベルが低下し、最終的には認知機能障害に繋がることがあります。早期離床を行い、適切な刺激を与えることで、認知機能の低下を防ぐことができます。
早期離床を進める前の評価ポイント
離床を安全に進めるためには、以下の項目を事前に評価することが重要です。
(1) バイタルサインのチェック
。離床可否の基準の例(あくまで患者の状態に応じて主治医の指示を確認することが大切です)
血圧,収縮期BP 90〜160mmHg、拡張期BP 40〜100mmHg
心拍数,40〜130 bpm(安静時)
SpO₂,90%以上(酸素投与下でも可)
呼吸数,8〜30回/分
意識レベル,GCS 9以上 or RASS -2 以上
バイタルの変動が著しい場合は、離床を一時的に見合わせることも必要です。
(2) 疾患ごとのリスク評価
疾患によっては、早期離床を進める際に特別な注意が必要です。
• 心疾患:心不全のNYHA分類、EF値、不整脈の有無など
• 呼吸器疾患:人工呼吸器の設定(FiO₂、PEEP)、酸素療法の有無
• 術後患者:創部の安定性、疼痛管理、DVTリスク
▶ 医師や看護師と情報共有をしながら、適切な離床プランを立てることが重要です。
早期離床の進め方(ステップ別アプローチ例)
早期離床は、患者の状態に応じて段階的に進めることが重要です。
🔽 ステップ①:ベッド上介入
• 体位変換(仰臥位 → 側臥位 → 端座位)
• ROM運動(他動・自動)
• 呼吸リハビリ(腹式呼吸、口すぼめ呼吸)
🔽 ステップ②:端座位・座位保持
• ベッドアップ(30°→ 45°→ 60°)
• 端座位保持(1分→3分→5分)
🔽 ステップ③:立位・移動練習
• 立ち上がり動作の練習
• 立位保持(1分 → 3分 → 5分)
🔽 ステップ④:歩行訓練
• 短距離歩行(10m→30m→50m)
• 階段昇降訓練(必要に応じて)
急性期リハにおける早期離床のポイントとコツ
医学的安全性の確認
ポイント
• バイタルサインの安定: 血圧、心拍数、SpO₂、呼吸数などを確認。特に急変のリスクが高い患者では、事前に目標範囲を設定しておく。
• 酸素需要・供給のバランス: 補助循環や人工呼吸器の設定、酸素投与量を考慮し、離床による負荷が過大にならないか評価。
• 主要臓器の状態: 心不全、腎不全、肝機能障害などがある場合、離床による血行動態変化を慎重に評価。
コツ
• 主治医や看護師と事前にリスク評価を共有し、段階的に離床を進める。
• 離床時の目標を 「端坐位」「立位」「歩行」 など、細かくステップに分けて計画を立てる。
離床による血行動態変化への対応
ポイント
• 起立性低血圧のリスクを考慮し、段階的な体位変換(臥位→端坐位→立位)を実施。
• 離床直後だけでなく、数分後のバイタル変化にも注意(リバウンド性低血圧の可能性)。
コツ
• ティルトテーブルやリクライニングベッドを活用し、徐々に負荷を上げる。
• 圧迫ストッキングや適切な水分補給を活用し、血圧維持をサポート。
呼吸状態の評価とサポート
ポイント
• 人工呼吸器管理中・酸素療法中の患者では、呼吸リザーブ(余裕)を評価。
• 離床時にSpO₂が低下する場合、換気不全や呼吸努力増大のサインか評価。
• 呼吸器系合併症(無気肺、誤嚥性肺炎など)のリスクを考慮し、離床後の呼吸状態も観察。
コツ
• 離床前に排痰を促進し、気道クリアランスを確保。
• NPPV(非侵襲的陽圧換気)を活用して、離床時の呼吸負担を軽減。
• 呼吸補助筋を使った異常呼吸パターンが出ていないか確認。
意識・神経学的評価
ポイント
• 意識レベル(GCSやRASS)をチェックし、適切な覚醒状態か評価。
• せん妄リスクがある場合は、離床前後の行動や言動の変化を観察。
コツ
• ICUではせん妄予防として早期離床が推奨されているため、可能なら積極的に動かす。
• 環境調整(昼夜のリズム、眼鏡・補聴器の使用)も意識する。
筋力・機能評価
ポイント
• ICU-AW(ICU関連筋力低下)のリスクを評価し、MMTや簡易的な筋力評価を実施。
• バランスや立位耐久性を確認し、転倒リスクを予測。
コツ
• まずはベッド上での運動(アクティブアシスト運動、ブリッジング)を行い、筋活動を促す。
• 立ち上がり補助具(平行棒、歩行器)を活用し、安全に段階的な負荷を調整。
離床のタイミングとリハチームの連携
ポイント
• 離床のタイミングを適切に判断し、他職種(医師・看護師・呼吸療法士など)と協力。
• 患者ごとに「どこまでが安全か」を明確にし、離床プロトコルを作成。
コツ
• 離床時のリスク管理を可視化し、各スタッフが共通認識を持つ。
• 離床時の記録を残し、「前回ここまでできた→次はここまで」と、継続的な進行を図る。
まとめ
✅ バイタルサインを確認しながら、安全に離床を進める
✅ 段階的に進め、患者の負担を最小限にする
✅ 病棟スタッフと連携し、適切なタイミングで離床を実施する
早期離床を適切に進めることで、患者の予後を大きく改善できます。ぜひ、日々の臨床で実践してみてください!
日々の臨床の一助となりますように。
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