【若手PT向け】立ち上がり評価が変わる!見逃し厳禁の“代償動作”5選と分析のコツ

動作観察・分析

はじめに

新人・若手理学療法士(PT)や学生の皆さん、日々の臨床、お疲れ様です。
患者さんのリハビリで基本中の基本となる「立ち上がり動作」。あなたは、その評価に自信がありますか?

「とりあえず立てているからOK」
「手すりを使えば安定しているし…」

もし、そう考えているなら少し注意が必要です。一見スムーズに見える立ち上がりの裏には、患者さんの根本的な問題を隠す**“代償動作”**が潜んでいることが非常に多いのです。

この代償動作を見抜けるかどうかは、リハビリの効果を最大化し、患者さんの真の機能回復を導くための重要な分かれ道。

今回は、多くのPTが意外と見逃している立ち上がりの代償動作5パターンと、その原因・評価のコツを、分かりやすく解説します。

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立ち上がりの「代償動作」とは?【PTなら知っておきたい基本】

まず、基本の確認です。代償動作とは、筋力低下や関節可動域制限、痛みなど何らかの機能不全がある場合に、他の部位がその働きを補うことで生じる、非効率でリスクのある運動パターンを指します。

立ち上がり動作における代償は、患者さんなりの「なんとかして立とう」という工夫の表れです。しかし、この代償を見逃し放置することは、

  • 根本原因の改善が遅れる
  • 腰痛や膝痛など二次的な障害を引き起こす
  • 特定の環境でしか立てず、転倒リスクが増大する

といった深刻な問題につながります。私たち理学療法士は「立てた」という結果だけでなく、「どのように立ったか」という動作の質を評価する専門家です。

PTが見逃しがちな立ち上がりの“代償動作”5選

それでは、明日からの臨床ですぐに使える「観察の視点」を5つご紹介します。

深く、速くお辞儀をするように体幹を前に倒す

お尻が椅子から離れる瞬間(離殿時)に、必要以上に深く、速くお辞儀をするように体幹を前に倒すパターンです。

  • 現象:
    • 頭部が膝よりも大きく前方に突出する。
    • 勢いよく「よいしょ!」と立ち上がる。
  • 考えられる原因:
    • 大腿四頭筋・大殿筋の筋力低下: 下肢で体を押し上げる力が弱いため、体幹の前方移動で得られる運動エネルギー(勢い)を利用して立ち上がろうとしています。
  • 評価のコツ【見逃しポイント】:
    「しっかりお辞儀ができていて良い」と誤解しがちです。しかし、これは勢いに頼った不安定な動作。**「いつもよりゆっくり立ってみましょう」**と指示することで、この代償は顕著になります。勢いなしで立てるかどうかが、真の下肢筋力の指標です。

左右どちらかに依存して立ち上がる

左右どちらかの手や脚に極端に依存して立ち上がるパターンです。

  • 現象:
    • 片方の手で手すりや膝を強く押している。
    • 離殿時に体が左右どちらかに傾いたり、ねじれたりする。
  • 考えられる原因:
    • 片麻痺(脳卒中後遺症など)
    • 変形性股関節症・膝関節症による片側の痛みや筋力低下
  • 評価のコツ【見逃しポイント】:
    手すりやアームレストがあると非常に見逃しやすくなります。**一度、上肢を使わずに立ち上がれるか試してもらいましょう。**また、PTが患者さんの両足の甲に軽く手を置き、左右の荷重のかかり具合(床反力)を感じ取ることも有効な評価方法です。

立ち上がる前に体幹を大きく揺らす

立ち上がる前に、体を前後に数回揺らしてからでないと立てないパターンです。

  • 現象:
    • 「いち、にの、さん!」とリズムをとるように体を揺らす。
    • 反動がないと、お尻が全く浮かない。
  • 考えられる原因:
    • 体幹・下肢の筋出力低下: 静的な状態から体を持ち上げるだけのパワーが不足しており、反動で補っています。
    • 運動学習の問題: 体幹の前傾と下肢の伸展をスムーズに協調させる運動プログラムが苦手な場合もあります。
  • 評価のコツ【見逃しポイント】:
    患者さんの「癖」や「準備運動」として見過ごしてしまうケースです。**「反動を使わずに、1回でスッと立てますか?」**と問いかけ、どこまでできるのかを評価しましょう。介入によってこの反動の回数が減ることは、明確な改善指標となります。

腕の力に頼って立ち上がる

アームレストや自身の膝を、腕の力で「ぐっ」と強く押して体を持ち上げるパターンです。

  • 現象:
    • 立ち上がる際に、腕や肩に過剰な力みが見られる。
    • 上肢の補助なしでは、立ち上がりが明らかに困難になる。
  • 考えられる原因:
    • 著しい下肢支持筋(大腿四頭筋、大殿筋など)の筋力低下
  • 評価のコツ【見逃しポイント】:
    「安全に立てているから」と介入の優先順位を下げていませんか?これは下肢の機能低下を上肢で覆い隠している状態です。**「もし荷物で両手が塞がっていたらどうしますか?」**といった具体的な生活場面を想定させ、上肢の補助に頼らない動作の必要性を共有し、評価・介入につなげましょう。

脚を大きく開いて立ち上がる

立ち上がり動作の評価では体幹や股関節に目が行きがちですが、土台である足部のチェックは不可欠です。

  • 現象:
    • ワイドベース: 足を肩幅以上に大きく開いて安定性を補う。
    • 足部の過度な外旋(ガニ股): 股関節内旋・内転可動域制限の代償。
    • 踵の早期離地: 離殿のかなり前から踵が浮いてしまう。足関節背屈可動域制限や下腿三頭筋の短縮が疑われます。
  • 考えられる原因:
    • バランス能力の低下(ワイドベース)
    • 足関節・股関節の可動域制限
    • 下腿や足部の筋機能不全
  • 評価のコツ【見逃しポイント】:
    セラピストの視線はどうしても骨盤や体幹に行きがち。意識して**「足元」を観察する癖**をつけましょう。開始時の足の位置(踵が膝の真下より少し後ろにあるか)、立ち上がり中の足底の接地状態を必ず確認してください。

まとめ:立ち上がり評価の解像度を上げ、質の高いリハビリを提供しよう

立ち上がり動作は、単に「立てる/立てない」の二択で評価するものではありません。今回挙げた5つの代償動作は、その裏にある患者さんの本当の問題点を教えてくれる重要なサインです。

  1. 過度な体幹前傾(勢い)
  2. 非対称性(片側への依存)
  3. 反動動作(筋力不足)
  4. 上肢でのプッシュオフ(下肢機能の代償)
  5. 足部の異常(土台の問題)

これらの視点を持って患者さんの立ち上がりを観察し、「なぜ、この代償動作が出現するのか?」と仮説を立てて検証する。この繰り返しが、あなたの臨床での評価・分析能力を飛躍的に向上させます。

明日からの臨床で、ぜひあなたの「観察眼」をアップデートし、患者さんのより良い未来につながるリハビリテーションを提供してください。

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