はじめに
感覚障害の検査は神経疾患の検査の中でも最も難しいものの一つであると思います。なぜなら、その判定はあくまで患者の主観に頼らないといけないため、患者の協力が得られなければ正確な検査ができないからです。
意識障害や高次脳機能障害で十分なコミュニケーションがとることが難しい場合では正確な検査は不可能に近いですが、その他異常のない人であっても疲労していたり精神的動揺を示しているような時でも同じように正確な検査はできません。

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✅ 4月から理学療法士になる学生
✅ 実習をひかえている学生
✅ 新人理学療法士
✅ もう一度基礎から勉強したい現役理学療法士
本記事では、理学療法士を目指す学生や新人理学療法士、そして改めて基礎から学び直したい理学療法士に向けて、今回は深部感覚障害をベースに基本的なところから、検査方法、評価方法について解説します。
感覚検査では何に注意すべきだろうか。
- 患者とのコミュニケーションが十分にとれるか。
- 検査は落ち着いて騒がしくないところで行うのが望ましい。
- 暗示を与えない。(誘導しない)
- 先入観を持たない。
- 患者の知能、意識、精神状態に異常がないことを確かめておく。意識障害があったり精神不安、非協力的であったり失語があったりなどのために正確な答えが答えられない時には信頼性に乏しい。
- 検査には患者の協力が必要である。このためには検査の内容や必要性をよく説明しておく。また、検査に対して、どう答えたら良いかわからないために手間取ることもあるため、答え方もよく説明しておく。
- 検査では騒がしいところでは控え、落ち着けるところが望ましい。閉眼させ、緊張したり不安な気持ちにならないように気をつけながら検査を進めましょう。
- 患者に暗示を与えたり、誘導するようなことをしてはいけない。検査のちょっとした言葉でも、患者は暗示にかかりやすいこともある。例えば「こちらは側はちょっとわかりにくいですよね?」と不注意に漏らすと、その暗示によって鈍麻の所見に陥ることもある。
- 患者の答えは確実に記録すること。先入観を持って検査したり、急いで検査したときはつい無造作になりがちとなる。
深部感覚障害についておさらい
運動制御・姿勢保持に極めて重要
深部感覚(固有感覚)は、運動制御や姿勢保持に重要な役割を果たし、障害されるとバランス能力の低下や運動のぎこちなさが生じます。臨床の現場では、脳卒中や脊髄損傷、末梢神経障害など、さまざまな病態で深部感覚障害が見られます。しかし、その評価や検査方法を適切に実施できているか、自信がない方もいるのではないでしょうか?
1. 深部感覚とは?
深部感覚(固有感覚)は、皮膚の表在感覚とは異なり、筋紡錘や腱紡錘、関節受容器などを介して、身体の位置や運動、張力を感知する感覚です。主な構成要素として以下のものがあります。
• 位置覚(関節の位置を把握する能力)
• 運動覚(関節の動きを感じ取る能力)
• 振動覚(パチニ小体を介して振動刺激を感知する能力)
これらの情報は、関節がどんな位置にあるか、どういう方向に動いたかを伝える神経繊維は脊髄後索を通る。後索路や脊髄小脳路を通じて中枢に伝達され、適切な姿勢制御や運動調整に寄与します。したがって、関節覚の障害は後索の障害を知る重要な指標となります。
2. 深部感覚障害の臨床的な特徴
深部感覚が障害されると、以下のような症状が見られます。
• 動作のぎこちなさ(協調運動障害)
• バランス能力の低下(特に視覚を閉じた状態で顕著)
• 関節位置の誤認識(関節の位置を正しく把握できない)
• 歩行時の異常(視覚に頼った歩行、踏み出しの不安定さ)
このような症状が見られた場合、適切な評価を行い、リハビリ介入の方向性を決めることが重要です。
深部感覚の検査方法
深部感覚障害を評価する際には、以下の検査を活用します。
① 位置覚・運動覚の検査
方法
• 関節位置覚テスト(他動的に関節を動かし、被験者にその位置を言語または反対側の関節で再現させる)
• 関節運動覚テスト(関節をゆっくりと動かし、動いている方向を被験者に答えさせる)

臨床的には、関節覚の検査には位置覚検査よりも運動覚検査の方が用いられることが多い印象です。
これは運動覚検査の方が行いやすいし、障害の程度も知ることができるからである。臨床的には運動覚と位置覚とを厳密に区別する必要はないため、一般的に運動覚を関節覚として記載することも少なくありません。
検査方法
ステップ1
検査方法では、足趾は背足や足底に、手指は手背や手掌に、伸展・屈曲させる。足関節や手関節でもしかり。患者の指を母指と示指で側面から掴むようにします。
⚠️上下でつまむと、例えば、指を下に屈曲させるときには、母指に力を入れるため関節覚が減弱していてもその圧迫感からわかってしまう場合があるため注意が必要です。
ステップ2
最初は大きくわかるように指を動かし、患者にこれを見てもらい背面に伸展させたら「上」、手掌に・足底面に屈曲したら「下」と答えてもらえるように指示する。
ここでは、動かす元の位置から上に動いたか、下に動いたかを答えてもらうように指示しておくことが必要である。
評価のポイント
• 眼を閉じた状態で実施
• 正答率を確認し、左右差を評価
② 振動覚の検査
方法
• 128Hzの音叉を**骨隆起部(胸骨。脛骨粗面、内外果、橈骨茎状突起など)に当て、振動を感じるか確認
• 健側と患側で感じ方を比較
評価のポイント:
• 振動覚も関節覚と同じく後索の障害を示すと考えられる。
• 糖尿病性末梢神経障害や脊髄病変の評価に有用
• 遠位部から評価し、徐々に近位部へ
• 振動覚鈍麻または消失は、50歳以上の高齢者の下肢では器質的障害がなくても左右同様に減弱していることがあるため注意が必要です。また、太っている人は痩せている人よりも減弱している可能性もあります。
③ ロンベルグテスト(Romberg test)
方法
• 閉眼立位保持が可能か確認
• バランスを崩す場合、視覚補正なしでは姿勢保持が困難である可能性がある
評価のポイント
• ロンベルグ徴候陽性 → 深部感覚障害の可能性
• 小脳性失調との鑑別(小脳障害では開眼時でもふらつく)
深部感覚障害評価のポイント
検査で深部感覚障害が疑われた場合、以下の点を総合的に評価します。
• 障害の程度(軽度・中等度・重度)
• 機能障害の影響範囲(上肢・下肢・全身)
• 日常生活動作(ADL)への影響
• 他の感覚(表在感覚、痛覚、温度覚)との関連
• 代償手段(視覚依存の有無、他の感覚補助の可能性)
評価結果をもとに、適切なリハビリテーション計画を立てます。
まとめ
• 深部感覚は運動やバランス制御に重要であり、障害されると運動のぎこちなさやバランス不良を引き起こす
• 位置覚・運動覚・振動覚の検査を適切に実施することが評価の鍵
• ロンベルグテストは臨床で簡便に活用できる評価法
• 障害の程度や影響を総合的に評価し、リハビリ計画を立案する
おわりに
深部感覚障害は、一見すると目に見えにくい問題ですが、適切な評価を行うことで、リハビリの方向性を明確にすることができます。本記事が、理学療法士を目指す学生や新人理学療法士、基礎を学び直したい現役理学療法士の皆さんにとって、理解を深める一助となれば幸いです。
日々の臨床の一助となりますように。
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