はじめに|なぜ今「脳卒中ガイドライン」を理解すべきなのか?
脳卒中は、日本人の要介護原因の第1位であり、私たち理学療法士が日々直面する疾患のひとつです。特に、急性期病院・回復期リハ病棟・生活期の在宅支援において、エビデンスに基づいたリハビリテーションの実践が強く求められています。
2023年に一部改訂された『脳卒中治療ガイドライン2021〔改訂2023〕』は、近年の治療技術・薬剤・地域包括ケア体制の進化を反映し、従来のガイドラインから内容が大幅にアップデートされました。

本記事では、理学療法士の視点から重要な改訂ポイントや臨床で活用すべき知識を、できる限りわかりやすく解説します。「ガイドラインを読む時間がない」「要点だけ知りたい」という方に向けた、10分で読める実践的なまとめです。
ガイドラインの役割と全体構成|臨床における“判断の軸”を知る
● 脳卒中治療ガイドラインとは?
脳卒中治療ガイドラインは、日本脳卒中学会が発行している診療・治療の標準的な方針をまとめた公式文書です。医師だけでなく、看護師・薬剤師・リハビリ専門職など、チーム医療に携わるすべての職種に向けて作られており、診療の質の向上と医療の均てん化を目的としています。
ガイドラインは、科学的根拠(エビデンス)に基づいて、どの治療法・介入法が推奨されるかが段階的に示されており、臨床判断の土台となるものです。
● 2021年版の主な構成
- 脳卒中の定義と分類
- 脳梗塞の急性期治療(tPA・血管内治療)
- 脳出血・くも膜下出血の治療指針
- 二次予防(再発予防)と生活習慣病の管理
- 脳卒中後のリハビリテーション
- 地域連携・社会復帰支援
2023年改訂では、全140項目のうち66項目がアップデートされており、特に「抗血栓薬の使用」「CKD患者への配慮」「血栓溶解療法の適応拡大」などが注目されています。
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2023年改訂の注目ポイント3選|理学療法士が特に押さえるべき項目
① 抗血栓療法の適応が拡大
これまで禁忌とされていた高齢者や軽症例に対しても、抗血栓療法(特にDOACなどの使用)の適応範囲が明確化されました。
→ リハビリ介入時の転倒リスク・出血傾向の評価がより重要に。
② 脳卒中患者の高血圧・糖尿病・CKD管理の推奨が強化
リハビリ場面での血圧モニタリングや運動負荷の判断に関わる内容が改訂。
→ 糖尿病・慢性腎臓病(CKD)合併患者では運動療法に注意が必要です。
③ 回復期以降の「課題志向型リハビリ」の有効性が明記
機能回復だけでなく、生活課題に直結したリハビリの推奨が明記されました。
→ PTとして本人の価値観や日常生活上の目標設定が不可欠に。
理学療法士が現場で活かすための具体ポイント
● 急性期リハビリの注意点
- tPAや血管内治療施行後の24時間以内の離床は慎重に
- 再灌流障害や高血圧性脳出血の兆候に注意
- モニタリング項目:意識レベル・NIHSS・血圧・SpO₂・不整脈
● 回復期で求められるリハの質
- 目標は「歩けること」だけではなく、「買い物に行く」「一人でトイレに行ける」などの活動・参加レベルまで具体化
- **FIM・SIAS・歩行速度・バランス評価(BBSなど)**を用いて客観的に評価
- 地域包括ケアへの連携:ケアマネや訪問サービスと連携した生活期支援
よくある臨床の疑問とガイドラインの対応(Q&A形式)
疑問 | ガイドラインの対応(要約) |
高血圧のある人にリハビリしていい? | 安静時収縮期血圧180mmHg未満であれば基本的に問題なし。ただし急上昇や持続的な高値は要注意。 |
CKD患者に筋トレしてよい? | 軽~中等度CKDなら腎機能モニタリング下で低~中負荷は許容される。eGFRの低下には注意。 |
脳卒中後うつ病の人にはどう関わる? | 心理社会的サポートの介入もガイドラインで推奨。抑うつ症状への気づきと連携体制が重要。 |
ガイドラインを読む・使うコツ
● 全部読むのは大変…→要点をまとめた資料を活用しよう
日本脳卒中学会のWebサイトではダイジェスト資料や解説動画も掲載されています。また、院内勉強会・朝カンファレンスなどで要点をシェアすることで、チーム全体での理解が深まります。
● 「型」にはめすぎない|個別化とガイドラインのバランスを
ガイドラインはあくまで“判断の参考”。年齢、既往歴、生活背景、本人の意向を重視し、柔軟に活用しましょう。例えば、高齢で転倒リスクが高い人には、過度な筋トレよりもバランス練習+環境調整の方が現実的かもしれません。
まとめ|ガイドラインを“読んで終わり”にしないために
『脳卒中治療ガイドライン2021〔改訂2023〕』は、理学療法士にとっての臨床判断の土台となる資料です。特に抗血栓療法・高血圧・CKD管理、そして課題志向型リハビリの推奨など、実際のリハビリ現場に直結する重要なポイントが多数含まれています。
ぜひ一度、改訂ポイントをチェックし、自分の臨床にどう活かせるかを考えるきっかけにしてみてください。
▼参考リンク(外部サイト)
