摂食嚥下障害のリハビリはPT・OTにとっても非常に重要ですよね。
「担当の患者さん、食事中によくむせるけど、自分に何ができるんだろう…」
「嚥下はSTさんの専門分野だから、どう関わっていいか分からない…」
「リハビリ中に痰がゴロゴロしているけど、STさんにどう報告すればいい?」
病棟で患者さんと関わる理学療法士(PT)・作業療法士(OT)の皆さん、こんな悩みを抱えていませんか?
実は、摂食嚥下障害のリハビリは、STだけでなくチーム全員で取り組むことが非常に重要です。特に、リハビリの土台となる「ポジショニング」や、食べ物を使わない「間接訓練」には、PT・OTの専門性を活かせるポイントがたくさんあります。
この記事では、明日からの臨床ですぐに実践できる「誤嚥を防ぐポジショニング」と「安全な間接訓練」の基本を、PT・OT向けに解説します。患者さんの「食べる楽しみ」をチームで支えるための、確かな一歩を踏み出しましょう。
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なぜPT・OTも嚥下を知るべき?全身と「飲み込み」の深い関係
「嚥下=口や喉の問題」と思われがちですが、それは大きな間違いです。安全な嚥下は、全身の状態に大きく左右されます。
- 理学療法士(PT)の視点
良い姿勢を保つための体幹機能や、誤嚥しかけた時に力強く咳をして喀出するための呼吸機能は、嚥下の”土台”そのものです。体幹が不安定だったり、呼吸が浅かったりすれば、飲み込む力も弱くなってしまいます。 - 作業療法士(OT)の視点
食事に集中するための覚醒レベルや高次脳機能、箸やスプーンを口に運ぶ上肢機能や手指の巧緻性は、食べるという一連のADLを支える重要な要素です。
このように、PT・OTの専門分野は嚥下と密接に繋がっています。STと連携し、チームで関わることが、患者さんのQOL向上に不可欠なのです。
すべてはココから!誤嚥を防ぐ「安全なポジショニング」徹底解説
どんなに良いリハビリをしても、姿勢が悪ければ誤嚥のリスクは高まります。ポジショニングは、嚥下リハビリにおける**一番の“お薬”**と言っても過言ではありません。
【ベッド上】3つのチェックポイント
- リクライニング角度は「60度以上」が目安
安易に90度までギャッジアップすると、お尻が滑って「仙骨座り」になり、かえって顎が上がってしまいます。骨盤をしっかり起こした状態で、60度〜80度程度のリクライニングが基本です。 - 身体のねじれをなくし「左右対称」に
麻痺側に傾いていたり、体がねじれていたりすると、飲み込みに使う筋肉がうまく働けません。クッションやバスタオルを使い、体幹がまっすぐになるようサポートしましょう。(※戦略的に頸部を回旋した体勢を整える場合もあります。) - 頸部は軽度屈曲位
顎が上がると、気道が開き食べ物が入りやすくなって危険です。後頭部の下に枕やタオルを入れ、軽く顎を引いた「おじぎ姿勢」を作りましょう。これにより食道が開き、食べ物が通りやすくなります。
【車椅子】3つのチェックポイント
- 足の裏をしっかり床(フットレスト)に
足がぶら下がっていると体幹が不安定になります。足底をしっかり接地させることで、踏ん張りが効き、飲み込む力も入りやすくなります。 - 骨盤を立てて「深く座る」
ここでも「ずっこけ座り」は絶対NGです。お尻を一番奥まで引き、骨盤をしっかり起こして座りましょう。必要であれば、背中にクッションを入れます。 - テーブルの高さを合わせる
テーブルが高すぎたり低すぎたりすると、不自然な姿勢になります。リラックスして腕の重みを預けられる高さに調整しましょう。
STに的確に繋ぐ!PT・OTでもできる簡易スクリーニング
【重要】 ここで紹介するのは、あくまで嚥下障害のリスクに「気づく」ための視点です。嚥下評価や食事開始の判断は、必ず医師やSTと連携して行いましょう。
- リハビリ中に観察できるサイン
- 声がかすれている、ガラガラしている(湿性嗄声)
- 痰の量が多い、常に喉がゴロゴロ鳴っている
- 発熱を繰り返している(不顕性誤嚥の可能性)
- 代表的なスクリーニングテスト
- 反復唾液嚥下テスト(RSST):30秒間に何回「ごっくん」と唾を飲み込めるかを確認します(目安:3回未満は嚥下障害の疑い)。
- 改訂水飲みテスト(MWST):3mlの冷水を口腔底に注ぎ、嚥下してもらいます。①むせ、②呼吸状態の変化、③声の変化(嚥下前後に「あー」と発声してもらう)の有無を確認します。
これらの情報をSTに伝えることで、より的確な評価・訓練に繋がります。
明日から実践!PT・OTができる安全な間接訓練(基礎訓練)
間接訓練とは、食べ物を使わずに嚥下に関わる器官をトレーニングする方法です。覚醒が悪い方や誤嚥リスクが高い方にも安全に実施できます。
- ① 頸部・体幹のストレッチと筋力強化
飲み込みの動きには、頸部の柔軟性が不可欠です。頸部の回旋や側屈の運動、体幹の安定性を高めるアプローチは、PT・OTの得意分野であり、そのまま嚥下訓練になります。 - ② 呼吸練習と咳の練習
深呼吸で胸郭の動きを促し、息を「ハーッ!」と強く吐き出す練習(ハッフィング)で、痰や食べ物を喀出する力を養います。腹式呼吸の指導も有効です。 - ③ 嚥下おでこ体操
喉仏を上げる筋肉(舌骨上筋群)を安全に鍛える代表的な訓練です。- おでこに手のひらを当てる
- おへそを覗き込むように、頭を前に倒す
- 手のひらはその力に抵抗して、頭を押し返す
- 5秒間、ぐーっと力を入れ続ける
- ④ 口腔ケア
口腔内を清潔に保ち、誤嚥性肺炎を予防するだけでなく、歯ブラシなどによる刺激が口腔内の感覚を高め、唾液の分泌を促す立派なリハビリになります。
【まとめ】
今回は、PT・OTが摂食嚥下障害の患者さんに関わるための、ポジショニングと間接訓練の基本を解説しました。
- 嚥下アプローチの第一歩は、誰でもできる「安全なポジショニング」から
- PT・OTは体幹・呼吸・ADLなど、自分の専門分野から嚥下に深く関わることができる
- リハビリ中の「気づき」をSTに具体的に報告・連携することが、チーム医療の質を高める
患者さんの「口から食べたい」という切実な願いを支えるために、職種の壁を越えて協力していきましょう。この記事が、明日からのあなたの臨床のヒントになれば幸いです。


