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2025年、米国理学療法士協会(APTA)が約8年ぶりに変形性股関節症の診療ガイドラインを改訂しました。今回の改訂で特に重要なのは、徒手療法の使い分け方の明示、超音波療法の大幅な格下げ、そしてオンライン介入の追加という3点です。本記事ではその全体像を整理したうえで、日本版ガイドライン(2021年)との比較を通じて、臨床にどう活かすかを考えていきます。

1. 米国2025年版ガイドライン:推奨介入の全体像

今回のガイドラインでは、エビデンスの質に基づいてA〜Fのグレードで推奨度が分類されています。理学療法士として特に注目すべき点を、グレード別に整理します。

グレードA(強い推奨):徒手療法と運動療法

A
徒手療法
週1〜3回 / 6〜12週間

今改訂のもっとも実践的な更新点は、患者の主訴に応じた徒手療法の使い分けが明示されたことです。

可動域制限が主訴の場合:高負荷・長軸牽引を選択します。関節包の線維化や骨棘形成による制限に対して、より強い牽引刺激で関節包にアプローチします。

疼痛が主訴の場合:低負荷・長軸牽引が推奨されます。疼痛抑制機序(gate control theory)を活用しながら、過度な関節ストレスを避けた介入が基本です。

💡 臨床のポイント:初回評価で「制限 vs. 疼痛」どちらが主訴かを丁寧に整理することが、徒手療法の選択精度を上げる第一歩になります。
A
漸進的筋力トレーニング
最もエビデンスが厚い運動介入

運動療法の中で最も強い推奨を受けたのは、ノルディックウォーキングや自宅での一般的な体操ではなく、漸進的な負荷をかける筋力トレーニングです。4か月時点での筋量増加が確認されており、機能改善との関連も報告されています。

ただし、この効果を得るうえで最大の前提となるのが「継続性」です。ガイドラインでも継続の困難さを認識したうえで、患者教育との組み合わせが強調されています。

💡 臨床のポイント:運動処方の際は「何をするか」と同時に「続けるための障壁は何か」を評価し、セルフマネジメントの支援まで視野に入れましょう。

グレードB(中等度推奨):患者教育と体重管理

B
患者教育 / 体重管理 / オンライン介入
新規追加項目あり

今改訂で新たに追加されたのが、オンラインでの疼痛対処スキルトレーニングです。認知行動療法的なアプローチをデジタルで提供する形式で、通院困難な患者や在宅での継続支援に活用できる可能性があります。

体重管理については、BMI 25以上の患者を対象に5〜7.5%の減量を目標とし、多職種連携のもとで進めることが推奨されています。股関節への荷重軽減は痛みや進行抑制に直結するため、PTとして介入のきっかけにできる重要な視点です。

グレードD(注意):超音波療法の大幅格下げ

D
超音波療法
2017年版 グレードB → 2025年版 グレードD

前回版(2017年)でグレードBだった超音波療法が、今回の改訂でグレードDに格下げされました。最新の研究でその効果が否定されたことが主な理由であり、変形性股関節症への超音波療法は、単独での第一選択から外すべきというメッセージが明確です。

⚠ 臨床の注意点:根拠なく物理療法を継続することは、限られたリハビリ時間の非効率な使い方につながります。既存の介入内容を今一度見直す機会としてください。

2. 標準化された評価:3カテゴリーを押さえる

米国版ガイドラインでは、初回評価時とフォローアップ時の両方で、以下の3カテゴリーすべてを実施することを求めています。日常臨床の評価バッテリーを見直すうえでの基準として活用できます。

自己報告式
WOMAC
HOOS
PROMIS
(患者主観の症状評価)
身体パフォーマンス
6分間歩行テスト
TUG(Timed Up and Go)
(客観的機能測定)
身体機能障害
関節可動域(6方向)
筋力測定
疼痛(NPRS)
FABERテスト

3つのカテゴリーを組み合わせることで、「患者が感じる困難さ」「実際にできる動作」「身体的な機能障害」を多角的に把握できます。治療効果の判定も、主観と客観の双方から根拠を持って説明できるようになります。

3. 日本の現状:二次性股関節症の文脈を理解する

米国版の強力なエビデンスを学ぶと同時に、日本版(2021年)が示す「日本固有の臨床文脈」も欠かせません。

疫学的背景の違い

日本における変形性股関節症の大きな特徴は、寛骨臼形成不全に続発する「二次性」が圧倒的多数を占めることです。発症年齢も40〜50歳代と米国より相対的に若い傾向があります。「一次性が多い」米国のデータをそのまま適用する際は、この病態背景の違いを念頭に置く必要があります。

日本版ガイドラインの強み

日本版はエビデンス量では米国版に及ばない部分もありますが、「保存療法は3か月を目安とする」「手術時期を逸しない」という整形外科医との連携を前提にした具体的な指針は、実臨床で非常に有用です。また評価指標としては、日本の医療現場に浸透しているJOA hip scoreが中心的に使用されています。

4. 日米ガイドライン:比較一覧

比較項目 米国版(2025年) 日本版(2021年)
主な病態 一次性(原因不明)が多い 二次性(寛骨臼形成不全等)が主体
発症年齢 高齢者中心 40〜50歳代と比較的若い
徒手療法 主訴別(可動域 vs 疼痛)に使い分けを明示 推奨されるが具体的パラメータは限定的
運動療法 漸進的筋力トレーニングが最推奨 運動療法全般を推奨
超音波療法 グレードD(格下げ) 明確な記載なし
患者教育 オンライン疼痛対処スキルを新規追加 重要性は示されているが形式は限定的
評価指標 WOMAC / HOOS / PROMIS / 6MWT / TUG JOA hip score が中心
手術連携 保存療法を包括的に整理 手術タイミングを含めた多職種管理を明示
強み 豊富なエビデンスと数値化されたパラメータ 日本の医療体制に沿った包括的な臨床判断の枠組み

臨床への活かし方:双方を統合する視点

米国版ガイドラインは「何をどのくらいの頻度・強度で行うか」という実施パラメータに強みがあります。一方で日本版は「いつ手術に移行するか」「多職種でどう管理するか」という、マネジメントの枠組みを示している点で優れています。

理学療法士として最も重要なのは、目の前の患者が「二次性か一次性か」「主訴は可動域制限か疼痛か」「継続の障壁は何か」を丁寧に評価し、双方のガイドラインの強みを統合して治療計画に落とし込むことです。

エビデンスは指針であって、処方箋ではありません。患者個人の病態・生活・目標に合わせた臨床判断こそが、私たちの本質的な役割です。

まとめ

2025年版の米国ガイドラインの改訂ポイントを整理すると、以下の4点に集約されます。

徒手療法は主訴(可動域 vs 疼痛)によって使い分ける ② 漸進的筋力トレーニングが最も強いエビデンスを持つ運動療法である ③ 超音波療法は単独での第一選択から外すべき ④ 評価は3カテゴリー(自己報告・パフォーマンス・機能障害)を組み合わせて実施する

日本の臨床では、これらに加えて「二次性という病態の特性」と「手術タイミングを見据えた連携」という視点を統合することで、より患者に寄り添ったリハビリテーションが実践できます。

参考文献

  1. Koc TA Jr, et al. Hip Pain and Movement Dysfunction Associated With Hip Osteoarthritis: Clinical Practice Guideline Linked to the International Classification of Functioning, Disability and Health. J Orthop Sports Phys Ther. 2025;55(11):CPG1-CPG31.
  2. 日本運動器理学療法学会. 股関節機能障害理学療法ガイドライン. 2021.

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