はじめに
脳卒中(脳梗塞・脳出血・くも膜下出血)の患者さんを担当する際、最も重要かつ緊張するのが「初期評価」ではないでしょうか?
「何から見ればいいのか分からない」「評価項目が多すぎて抜け漏れが怖い」
新人理学療法士や実習生にとって、限られた時間の中で患者さんの状態を正確に把握し、適切なリハビリ計画を立てることは容易ではありません。
しかし、初回評価は治療方針を決定する**「羅針盤」**です。ここが不十分だと、効果的なリハビリテーションは提供できません。
そこで本記事では、理学療法士が脳卒中患者さんの初回評価で「絶対に押さえるべき項目」と「効率的な手順」を網羅的に解説します。必要に応じて臨床前のチェックリストとしてご活用ください。
なぜ脳卒中の初期評価が重要なのか?
脳卒中発症後の症状(運動麻痺、感覚障害、高次脳機能障害など)は、患者さん一人ひとり全く異なります。
丁寧な初回評価を行うことで、以下の重要な情報が得られます。
- 現在の身体機能レベル: 何ができて、何ができないのか
- 介助量(ADL能力): 看護師や家族への介助指導の根拠
- リスク管理: リハビリを行っても安全な状態か
- 予後予測と目標設定: ゴール設定の根拠
これらを統合・分析することで、最短距離で社会復帰を目指すプログラム立案が可能になります。⚠︎もちろん、脳卒中リハビリに限らず、初期評価はどの領域でも非常に大切です。
【チェックリスト】脳卒中初期評価で押さえるべき7つの項目
抜け漏れを防ぐために、以下の7つのカテゴリーに分けて評価を進めましょう。
① 問診・情報収集(全体像の把握)
まずはカルテやご本人からの聴取で、ベースとなる情報を集めます。
- 現病歴: 発症日、病型(脳梗塞/脳出血等)、病巣部位(画像所見)、治療経過
- 既往歴: 高血圧、糖尿病、心疾患などのリスク因子
- 主訴(HOPE): 「また歩きたい」「家に帰りたい」など、患者さんの切実な願い
- 生活状況(Need): 発症前のADL、家屋環境(段差・手すり)、家族構成、キーパーソン
② 身体所見(リスク管理)
離床を進める前に、医学的な安全性を確認します。
- 意識レベル: JCS、GCS
- バイタルサイン: 血圧、脈拍、SPO2、体温、呼吸数
- 顔面神経麻痺: 口角の下垂、流涎の有無
- 頭蓋内圧亢進症状: 頭痛、嘔吐、意識障害の進行など
③ 運動機能評価(身体機能)
理学療法士の専門性が最も問われる部分です。
- 麻痺の程度: BRS (Brunnstrom Recovery Stage)、FMA (Fugl-Meyer Assessment)、SIAS
- 関節可動域 (ROM): 麻痺側だけでなく非麻痺側の拘縮も確認
- 筋力: MMT(非麻痺側・体幹を中心に)
- 筋緊張: MAS(痙縮)、Rigidity(固縮)、低緊張など
- 協調性: 指鼻試験、踵脛試験
- バランス能力:
- 静的/動的坐位バランス
- 静的/動的立位バランス
- FBS (Berg Balance Scale)、TUG、FRTなど
- 歩行能力: 歩行速度、歩行パターン、装具や杖の必要性
④ 感覚機能評価(入力系)
運動麻痺と同様に動作へ大きく影響します。
- 表在感覚: 触覚、痛覚、温度覚
- 深部感覚: 位置覚、運動覚(模倣試験など)、振動覚
- 複合感覚: 二点識別覚など(必要に応じて)
⑤ 高次脳機能評価(認知・精神)
一見麻痺が軽くても、動作獲得を阻害する要因となります。
- 注意障害: 集中が続かない、散漫
- 記憶障害: 指示が入らない、新しいことを忘れる
- 失語症: ブローカ失語、ウェルニッケ失語など(STと連携)
- 失行症: 運動麻痺はないのに道具が使えない、動作ができない
- 半側空間無視 (USN): 左側の見落とし(BIT行動性無視検査など)
- 遂行機能障害: 段取り良く行動できない
⑥ ADL評価(生活能力)
「機能」だけでなく「能力(しているADL)」を評価します。
- FIM (機能的自立度評価表): 点数化することで回復の推移を追えます
- BI (Barthel Index)
- 基本動作: 寝返り、起き上がり、坐位保持、立ち上がり、移乗
⑦ 心理・社会背景(ICF背景因子)
- 心理状態: うつ傾向(JSS-Dなど)、意欲(Vitality Index)、不安
- QOL: 生活の質への満足度
失敗しない初回評価の手順(フローチャート)
スムーズな評価は患者さんの負担を減らし、信頼関係構築に繋がります。以下の流れを意識しましょう。
- カルテ情報の確認(予習)
- 病巣から予測される症状を頭に入れておく(トップダウン評価の準備)。
- 医師の指示(安静度)を必ず確認。
- 挨拶・オリエンテーション
- 「〇〇を確認するために動かしますね」と目的を伝え、同意を得る。
- バイタル・意識レベル確認
- 安全第一。中止基準に抵触しないか確認。
- 問診(主訴の聴取)
- まずは患者さんの声に耳を傾け、ラポール(信頼関係)を形成。
- 全体像の観察・スクリーニング
- 寝返りや起き上がりなどの動作を軽く見せてもらい、大まかな能力を把握。
- 詳細な機能評価(運動・感覚・高次脳)
- 臥位でできること(ROM/MMT/反射)→ 坐位 → 立位・歩行と、姿勢変換の回数を減らす工夫を。
- ADL評価
- 実際の病棟生活での様子も看護師から聴取。
- フィードバック
- 「〇〇は良い状態ですね」「ここを良くしていきましょう」と前向きな言葉で締めくくる。
評価を統合し「予後予測・目標設定」へ
評価は「測って終わり」ではありません。得られた情報を**ICF(国際生活機能分類)**の視点で整理し、問題点を抽出します。
- 問題点の抽出: 「歩けない原因は、筋力低下なのか? 感覚障害によるバランス不良なのか?」
- 予後予測: 「脳画像の損傷部位と現在の機能レベルから、3ヶ月後に独歩は可能か?」
- 目標設定 (Goal Setting):
- 短期目標: 2週間以内にトイレ移乗を見守りレベルへ
- 長期目標: 3ヶ月後に杖歩行で自宅退院
これらをレポートやカルテに記載し、チームで共有することが理学療法士の役割です。
まとめ
脳卒中患者さんの初回評価は、項目が多く大変な業務です。しかし、この評価の質が、患者さんのその後の人生(QOL)を大きく左右すると言っても過言ではありません。
【重要ポイントの復習】
- 事前情報(カルテ)で予測を立ててから評価に臨む。
- リスク管理を徹底する。
- 機能(麻痺など)と能力(ADL)の両面を見る。
- 患者さんの主訴(希望)を置き去りにしない。
焦る必要はありません。まずはこのマニュアルの項目を一つずつ丁寧に確認し、患者さんに最適なリハビリテーションを提供できるよう準備を進めていきましょう。
