【理学療法士向け】自動介助運動と他動運動の違いとは?ROM訓練の目的と適応を解説

基礎知識

そのROM訓練、目的は明確ですか?

新人セラピストや学生の皆さん、臨床で関節可動域(ROM)訓練を行う際、こんな経験はありませんか?

  • 目の前の患者さんに行っているのが「自動介助運動」なのか「他動運動」なのか、自信を持って言えない…。
  • 先輩から「なぜこの患者さんに他動運動を選択したの?」と聞かれ、うまく答えられなかった…。

似ているようで、その目的もアプローチも全く異なる「自動介助運動(A-AROM)」と「他動運動(PROM)」。この2つの違いを正確に理解し、根拠を持って使い分けることは、リハビリテーションの効果を最大化するための必須スキルです。

この記事では、関節可動域訓練の基本に立ち返り、自動介助運動と他動運動の違いについて解説します。明日からの臨床にすぐ活かせる知識を、一緒に整理していきましょう。

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関節可動域(ROM)訓練の基本|3つの運動分類

まず大前提として、関節可動域訓練は運動の主体が誰かによって、大きく3つに分類されます。

  1. 自動運動 (Active ROM: AROM)
    患者さん自身の筋力のみで行う運動。
  2. 自動介助運動 (Active-Assistive ROM: A-AROM)
    患者さん自身の筋力に、セラピストなどの介助を加えて行う運動。
  3. 他動運動 (Passive ROM: PROM)
    患者さんの力は使わず、完全にセラピストなど他者の力だけで行う運動。

今回は、この中でも特に混同しやすく、臨床での判断が重要になる「自動介助運動」「他動運動」に焦点を当てていきます。

【完全な受け身】他動運動(PROM)とは?目的と適応

他動運動(Passive ROM: PROM)とは、患者さん自身の筋収縮を伴わず、セラピストが関節を動かす運動です。患者さんは完全に力を抜いた「受け身」の状態になります。

他動運動の主な目的は、「関節機能の改善・維持」です。筋力をつけることが目的ではありません。

  • 関節拘縮の予防・改善: 長期間動かさないことによる関節の硬さを防ぎます。
  • 循環の促進: 関節を動かすことで、血流やリンパの流れを促します。
  • 疼痛の緩和: 穏やかな動きが、痛みの軽減につながることがあります。
  • 固有受容感覚の入力: 関節が動いているという感覚情報を脳に送ります。
  • 意識障害や完全麻痺があり、自力で関節を動かせない患者さん (MMT 0〜1程度)
  • 筋収縮を避けたい、炎症が強い時期や術後早期の患者さん
  • 評価目的(end-feel(最終域感)を確認し、可動域制限の原因を探る場合など)
  • 患者さんには完全にリラックスしてもらいましょう。
  • 関節の近位をしっかり固定し、安定した操作を心がけます。
  • 常に患者さんの表情や筋の抵抗感を確認し、痛みのない範囲で滑らかに行います。
  • 最終域での**end-feel(組織が伸張されたときの抵抗感)**を丁寧に感じ取り、関節包や筋肉の状態を評価することが重要です。

【患者が主役】自動介助運動(A-AROM)とは?目的と適応

自動介助運動(Active-Assistive ROM: A-AROM)とは、患者さんが主体的に動かそうとする意志と筋収縮があるものの、筋力不足や痛みで全可動域を動かせない場合に、セラピストがその不足分を補助する運動です。主役はあくまで患者さんです。

自動介助運動の主な目的は、「筋機能の再教育と強化(時には関節機能の改善)」です。

  • 筋力の維持・増強: 特にMMT 2〜3レベルの筋力向上に効果的です。
  • 自動運動(AROM)への移行: 全可動域を自力で動かすためのステップになります。
  • 運動学習の促通: 正しい運動パターンを体に覚えさせます。
  • 患者の能動的な参加意欲の向上: 「自分で動かせた」という感覚がモチベーションにつながります。
  • 筋力低下はあるが、一部自力で関節を動かせる患者さん (MMT 2〜3程度)
  • 痛みによって、全可動域の自動運動が困難な患者さん
  • 協調性や筋持久力が低下している患者さん
  • 介助は必要最小限に! これが最も重要です。患者さんの能力を最大限引き出すことを意識しましょう。
  • 患者さんの動き出すタイミングやスピードに合わせて、スムーズに補助します。
  • 僧帽筋が過剰に働くなど、代償動作が出現していないかを常に観察し、必要であれば修正を促します。

【一覧表で比較】一目でわかる!他動運動 vs. 自動介助運動

ここまでの内容を比較表で整理しました。この表を頭に入れておくだけで、臨床での判断がスムーズになります。

項目他動運動(PROM)自動介助運動(A-AROM)
患者の役割受け身(筋収縮なし)主体的(筋収縮あり)
セラピストの役割運動の全てを行う動きの補助・介助
主な目的関節機能の維持(拘縮予防など)筋機能の再教育・強化
主な適応(MMT)MMT 0〜1MMT 2〜3
キーワード関節の柔軟性、循環、感覚入力筋力、運動学習、能動性

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知識を実践に結びつけるために、具体的な症例で考えてみましょう。あくまでも一つの例として参考にしてください。

Case 1:脳卒中急性期、右上下肢が弛緩性麻痺(MMT 1)の患者さん

  • 選択: 他動運動(PROM)
  • 思考プロセス: 筋収縮がほとんど見られないため、まずは関節拘縮の予防と、麻痺した手足への感覚入力が最優先。セラピストが全介助で各関節を動かす。

Case 2:肩関節周囲炎(凍結肩)で、肩関節の屈曲が90°までしか挙がらない患者さん

  • 選択: 自動介助運動(A-AROM)
  • 思考プロセス: 90°までは自動運動で、そこから先は痛みのない範囲でセラピストがゆっくりと介助し、最終域を広げていく。患者さん自身の動かす意志と筋活動を活かしながら、可動域の改善を図る。

Case 3:大腿骨骨折術後3週、筋力はMMT 2レベルの患者さん

  • 選択: 他動運動から自動介助運動へ
  • 思考プロセス: 当初は他動運動で可動域を確保しつつ、筋収縮が見られ始めた段階で自動介助運動に移行。「もう少し、ご自身の力で!」と声かけをしながら、セラピストは重力の影響を減らすように介助する。筋力の向上に合わせて、徐々に介助量を減らしていく。

このように、患者さんの状態(MMT、疼痛、意識レベルなど)を日々評価し、「今のこの患者さんに最も必要なことは何か?」を考えることが、運動療法を選択する上での鍵となります。

まとめ

今回は、関節可動域訓練における「自動介助運動」と「他動運動」の違いについて解説しました。

  • 他動運動(PROM)は、患者さんが受け身で行う「関節を守り、維持する」ための運動。
  • 自動介助運動(A-AROM)は、患者さんが主役で行う「筋力を引き出し、育てる」ための運動。
  • 両者の目的と適応を理解し、患者さんの状態に合わせて柔軟に使い分けることが重要。

基本に忠実に、しかし常に患者さん一人ひとりの状態に合わせて思考を巡らせること。それが、私たち理学療法士の専門性です。明日からの臨床で、自信を持ってROM訓練を提供するために、ぜひ本記事の内容を役立ててください。

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