はじめに
「聴診器は持っているけれど、正直、音が聞こえてもどう判断していいか分からない……」
「看護師さんやドクターのように、自信を持って評価に活かしたい」
リハビリ現場でそんな悩みを感じていませんか?
理学療法士(PT)にとって、聴診は単なる「音を聞く作業」ではありません。「動かしていいのか?」「どこを狙って介入すべきか?」を判断するための、極めて重要なリスク管理・評価ツールです。
今回は、理学療法士が聴診を行う目的から、具体的な手順、リハビリへの活かし方までを徹底解説します。
理学療法士が聴診を行う3つの大きな目的
理学療法士が聴診を行う理由は、診断をつけるためではなく、**「安全で効果的なリハビリを提供するため」**に集約されます。
① リスク管理(運動の中止・継続の判断)
離床前や運動中に聴診を行うことで、心不全の増悪や肺炎の兆候を早期にキャッチできます。
「いつもより呼吸音が減弱している」「聞いたことのない雑音がする」といった気づきが、重大な事故を防ぐ第一歩になります。
② 介入部位の特定(評価の妥当性)
特に呼吸リハビリにおいては、聴診によって「どの肺区域に痰が溜まっているか」「どこの換気が不十分か」を特定できます。これにより、スクイージングや体位排痰法の精度が劇的に向上します。
③ リハビリの効果判定
介入前に聞こえていた副雑音が、介入後に消失・軽減しているか? 換気音の左右差は改善したか?
これらを数値だけでなく「音」で確認することで、自分のアプローチが正しかったかどうかのフィードバックが得られます。
【実践】聴診の基本手順と評価部位
聴診を正確に行うためには、正しい位置にチェストピースを当てることが重要です。
肺音(呼吸音)の聴診
肺の区域(S1〜S10)を意識し、左右を比較しながら**「Zの字」を描くように**上から下へ移動させます。
• 前胸部: 鎖骨上窩から第6肋間付近まで。
• 背部: 肩甲骨の間や下角付近。特に下葉(S6, S10)は痰が溜まりやすいため入念に。
心音の聴診
以下の「4つの弁の領域」を意識して当てます。
• 大動脈弁: 第2肋間右縁
• 肺動脈弁: 第2肋間左縁
• 三尖弁: 第4肋間胸骨左縁
• 僧帽弁: 第5肋間左鎖骨中線(心尖部)
臨床で役立つ「副雑音」の分類と解釈
聴診で最も重要なのが、正常ではない音(副雑音)を聞き分けることです。以下の表を参考に、聞こえた音と病態をリンクさせましょう。
| 種類 | 音の特徴 |
| ウィズ(笛音) | ヒューヒュー(高音) |
| ロンカイ(低調性連続音) | グーグー、イビキ様(低音) |
| ファインクラックル(捻髪音) | パチパチ(細かい音) |
| コースクラックル(水泡音) | ブツブツ(湿った音) |
リハビリ現場での具体的な活用イメージ
聴診の結果をどうリハビリに繋げるか、具体的なケースを見てみましょう。
ケースA:離床前のスクリーニング
背部下肺野で**コースクラックル(水泡音)**を確認。
→ 「痰が貯留している」と判断し、離床前にハフィングや排痰介助を行い、クリアな呼吸音になってから歩行訓練へ移行する。
ケースB:負荷量の調整
運動中に**ウィズ(笛音)**が出現。
→ 気道が狭窄しているサイン。運動負荷を下げて安静を促し、SpO2や呼吸苦の程度を確認。必要に応じて主治医に報告する。
ケースC:心不全患者のモニタリング
心尖部で**「Ⅲ音(ギャロップリズム)」**を確認。
→ 心不全の増悪(左心不全)を示唆する重要なサイン。今日の運動療法は中止、または極低負荷に留め、即座にバイタルチェックと報告を行う。
理学療法士におすすめの聴診器
これから聴診器を購入、あるいは買い替えを検討しているなら、**「成人用の両面型」がおすすめです。
特に世界的なシェアを誇る**「リットマン(Littmann)」**などは、呼吸音と心音の両方が聞き取りやすく、多くのPTに愛用されています。安価すぎるものより、微細な音の変化を拾える信頼性の高いものを選ぶのが、上達への近道です。
まとめ:聴診はPTの強力な武器になる
聴診は「音を聞くこと」が目的ではありません。聞こえた音から病態を推論し、目の前の患者さんに今何が必要かを判断することが本質です。
最初は「何も聞こえない」「全部同じ音に聞こえる」かもしれません。ですが、毎日1人でも多くの患者さんの音を聞き続けることで、必ず「変化」に気づけるようになります。
まずは明日、リハビリ前のバイタルチェックと一緒に、聴診器を胸に当ててみることから始めてみませんか?
