急性期リハにおける“早期離床”はなぜ重要か?エビデンスと現場のリアル

呼吸リハビリ

はじめに

「早期離床は大切です」

医療やリハビリの現場で働く人なら、一度は聞いたことがあるフレーズではないでしょうか。

患者さんにとって、ベッドからできるだけ早く離れることが“いいこと”である——その考えは、今や常識に近い存在となっています。

でも、ちょっと立ち止まって考えてみてください。

なぜ、早期離床がそれほどまでに重要視されるのか?

あなたはその理由を、明確に、わかりやすく説明できますか?

この記事では、“早期離床”の科学的根拠と、その現場でのリアルな実践をテーマに、「早期離床の本当の意味」について、病態別の視点やリスク管理も交えながら、臨床に活かせる形で解説していきます。

“なんとなく大事”から“自信を持って語れる”へ——

あなたの臨床に、ひとつ深みを加えてみませんか?

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第1章|早期離床とは?その定義とタイミングの意味

「早期離床」とは何を指すのか。医療職によってその捉え方は微妙に異なりますが、

一般的には**「急性期(発症・入院後48〜72時間以内)に、ベッドから身体を離す行為」**を指します。

たとえば以下のような動作は、すべて「離床」の範囲に含まれます。

  • ベッド上での起き上がり
  • 端座位保持
  • 車椅子乗車
  • 立ち上がりや歩行

このような動作を、全身状態が許す限り、早期に導入することが早期離床の目的です。

では、なぜ「48〜72時間以内」という早期のタイミングが推奨されるのでしょうか?

それは、ベッド上安静によって起こる“廃用”が、驚くほど早く進行するためです。

●ベッド上安静の弊害:早ければ24時間以内に筋萎縮が始まる

筋力は、1日ベッドに寝ているだけで1〜3%低下するとされ、

ICUでは5〜7日で**ICU-AW(ICU後の筋力低下症候群)**を発症する可能性が高まります。

また、肺炎、静脈血栓症、認知機能低下、抑うつなどの合併症も見過ごせません。

つまり、急性期でも“動かさないこと”のほうがリスクが高いということです。

第2章|なぜ早期離床が必要なのか?科学的エビデンスからの視点

近年、国内外の研究で「早期離床」の効果を示すエビデンスが急増しています。

以下では、主要な文献や統計からその“根拠”をまとめます。

●離床の主な効果(科学的メリット)

  • 人工呼吸器離脱期間の短縮
  • ICU滞在期間の短縮
  • ADL回復の促進
  • 院内死亡率の低下
  • 再入院率の低下
  • うつ症状・せん妄の予防

●注目研究①:Lancet(2009)

SchweickertらのRCT研究では、

人工呼吸管理中のICU患者に対して早期の理学・作業療法を導入した群で、ADL自立度が有意に改善し、ICU・病院滞在日数も短縮されたと報告されています。

●注目研究②:JAMA(2014)

Needhamらによるレビューでは、早期離床は「安全かつ効果的」であり、致命的合併症は極めて稀であるとされています。

第3章|早期離床が進まない“現場のリアル”

エビデンスはあっても、実際の現場では早期離床がなかなか進まない。

その要因は、単に知識の有無ではなく、“人”と“制度”の間にある見えない壁です。

●離床を妨げる主な要因

  • 看護師・医師、リハビリスタッフとの認識のズレ(安全 vs.機能維持)
  • 病棟ルールやオーダーの縛り(医師の離床許可待ち)
  • モニタリング環境の不備
  • 時間帯・マンパワーの制限
  • 家族や患者本人の不安

僕が勤務している病院のリハビリ科では、理学療法士が離床に人数をかかることを禁止されています。

例えば、

脳出血後の患者さん、人工呼吸器管理中ですが主治医から離床許可をもらいました。ただ、デバイス類や介助量が多いので一緒についてきてもらえることはできませんか?

無理です。人数をかけちゃうとそれだけ単位をとれる時間が限られるので、人手が欲しかったら看護師さんに依頼して。

なんとも腹立たしいです…。

●実際にあったエピソード

上記の内容も実際に担当した症例でした。

他のケースでは、

「看護師さんに止められたので今日はベッド上リハだけで」と報告したところ、

医師から「そんなに状態悪くないですよ。起こしてよかったのに」と言われたことがあります。

つまり、現場内でも“誰がどの根拠で判断しているのか”が曖昧なこともあるのです。

第4章|理学療法士としての工夫とアプローチ

では、理学療法士としてどうすれば早期離床を進められるのか?

それは、“ただ起こす”ではなく、“準備して、説明し、連携する”ことです。

●離床を進める5つの工夫

  1. 状態の“見える化”
     → HR・SpO₂・血圧・意識・表情・呼吸数などをモニタリングし、チームと共有
  2. 段階的な離床準備
     → 四肢運動、呼吸介助、体位ドレナージ、促通手技などで前段階を整える
  3. 時間帯の工夫
     → 検査・処置・回診の合間を狙い、無理のないタイミングで離床を実施
  4. 患者・家族の不安解消
     → 離床の意味を丁寧に説明。「起きたら苦しい」という思い込みを払拭する
  5. 成功体験の共有
     → 看護師や医師と“離床できたこと”をこまめに共有。チームの認識を変える

第5章|「早期離床」は目的ではなく、“生活再建”への第一歩

大切なのは、「起こすこと」が目的ではないということです。

僕たち理学療法士が支援するのは、その人がもう一度“自分らしく生きる”ための道筋。

その一歩目が、早期離床であり、「生活への第一歩」です。体が起きれば、視界が広がる。呼吸がしやすくなる。意欲も変わってくる。

つまり、離床は身体機能だけでなく、心理的にも社会的にも大きな転機となるのです。

まとめ|「早く起こす」ではなく「今だから起こす」

  • 急性期でも、安全を確保すれば早期離床は実現可能
  • 科学的根拠(エビデンス)は十分に蓄積されている
  • 離床を止めているのは“患者の状態”ではなく“現場の壁”かもしれない
  • 理学療法士は、状態を見極め、説得し、行動に変える専門職
  • 離床の一歩は、患者の生活再建の一歩

最後に

「早期離床が大切」という言葉は、もはや常識となりつつあります。

しかし、“なぜ大切なのか”を深く理解し、自信を持って説明できる人は意外と少ないのではないでしょうか。

今回の記事が、その「なんとなく」から一歩踏み出し、臨床における判断や説明に説得力を持たせる一助になれば幸いです。

リスク管理を忘れず、目の前の患者さんにとっての“最善のタイミング”で一歩を踏み出せるように——。

それが、僕たちリハビリ専門職に求められている本当の「早期離床」かもしれません。

最後まで読んでいただき、ありがとうございました。

明日の臨床に、少しでもプラスのヒントがありますように。

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