もしリハビリ中に患者が倒れたら?理学療法士が知るべき急変対応とBLSの全て

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理学療法士必見!リハビリ中の急変対応マニュアルの決定版。BLSの全手順から、臨床場面別のシミュレーション、急変の予兆サイン、チーム連携まで徹底解説。この記事を読めば、いざという時の不安が自信に変わり、患者さんの命を守るプロとして行動するための第一歩のきっかけを作る記事です。


はじめに:その瞬間、あなたは的確に動けますか?

「〇〇さん、ゆっくり立ちましょうか…」
起立練習を始めたその時、患者さんの顔が蒼白になり、ふらりと膝から崩れ落ちた――。


上記は、私たちが臨床で遭遇しうる、決して他人事ではないリアルなシナリオです。理学療法士は高齢者や心疾患、脳血管疾患など様々なリスクを抱える方々と日々接しており、急変対応の最前線に立つ医療専門職と言っても過言ではありません。

「もしも」の瞬間、パニックにならず、冷静に、そして的確に生命を救う行動がとれるか。その成否は、私たちの知識と準備にかかっています。

この記事では、単なる救命法の解説に留まらず、理学療法士の視点から「臨床現場で本当に役立つ急変対応と一次救命措置(BLS)」を、具体的な手順と場面別シミュレーションを交えて網羅的に解説します。

この記事を最後まで読めば、あなたの急変対応への不安は、「患者の命を守る」というプロフェッショナルとしての自信に変わるはずです。

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**「臨床理学Lab」**は、理学療法における基本的な知識の向上に加え、評価と臨床推論の強化を目的としたメンバーシップです。「なぜこの評価をするのか?」「その結果から何がわかり、どう治療に活かせるのか?」深く掘り下げ、現場で実践できる力を養...

第1章:なぜ理学療法士にBLSが不可欠なのか? – 私たちの役割と法的側面

一次救命措置(BLS: Basic Life Support)とは、心臓や呼吸が止まった傷病者に対し、その場に居合わせた人が救急隊や医師に引き継ぐまでに行う、生命を維持するための基本的な処置です。

心停止後の救命率は、1分経過するごとに7~10%低下すると言われています。例えば、救急車の全国平均到着時間は約9分。この「魔の9分間」に何もしなければ、救命の可能性は限りなくゼロに近づきます。この空白を埋めるのが、私たちの行うBLSなのです。

【救命の連鎖:私たちが担う重要な役割】
![救命の連鎖のイラスト]

  1. 心停止の予防
  2. 早期認識と通報
  3. 一次救命措置(迅速なCPRとAED) ← 理学療法士の主戦場!
  4. 二次救命措置と心拍再開後の集中治療

私たち理学療法士がこの鎖の3番目を確実に繋ぐことで、患者さんの社会復帰の可能性は劇的に向上します。

「でも、もし失敗したら責任を問われるのでは…?」
ご安心ください。日本では「善きサマリア人の法」の趣旨が尊重されます。善意で行った救命行為の結果について、悪意や重大な過失がなければ、法的な責任を問われることはありません。ためらわずに行動することが、何よりも尊いのです。

第2章:急変は突然ではない!理学療法士が見抜くべき「5つの予兆サイン」

優れた理学療法士は、急変が起きる前の「サイン」を見抜きます。心停止の多くは、その前に何らかの予兆を示します。リハビリ中の患者さんの変化に、誰よりも早く気づけるのは私たちです。

【リハビリ中止を判断すべき危険なサイン】

  • ① 顔色・表情の変化
    • 顔面蒼白、チアノーゼ(唇や爪が紫色になる)
    • 冷や汗、脂汗
    • 苦悶様の表情、一点を見つめる
  • ② 呼吸の変化
    • 頻呼吸(呼吸が速く浅い)、努力性呼吸(肩で息をする)
    • 不規則な呼吸、ゼーゼーという喘鳴(ぜんめい)
  • ③ 意識レベルの低下
    • 会話が噛み合わない、呂律が回らない
    • 呼びかけへの反応が鈍い、傾眠傾向
  • ④ 患者の主観的な訴え
    • 「胸が痛い」「胸が苦しい」「締め付けられる感じ」(→心筋梗塞などを疑う最重要サイン)
    • 「動悸がする」「めまいがする」「気分が悪い」
  • ⑤ バイタルサインの異常
    • 収縮期血圧の急激な低下(例:70mmHg以下等)
    • 脈拍の異常(例:40回/分以下の徐脈、120〜130/分以上の頻脈)
    • SpO2の低下(90%を下回るなど)

これらのサインに一つでも気づいたら、勇気を持ってリハビリを中止し、すぐに「〇〇さん、少し休みましょう。看護師さんを呼んできますね」と伝え、応援を要請しましょう。 この早期判断が、最悪の事態を防ぎます。

第3章:【完全フローチャート】急変発生から救急隊到着までの全手順

いよいよ、BLSの具体的な手順です。この流れを頭に叩き込み、いつでも引き出せるようにしておきましょう。

【BLS基本フロー】
安全確認 → 反応確認 → 応援/119番/AED手配 → 呼吸確認 → CPR(胸骨圧迫+人工呼吸)→ AED使用

Step1:安全確認と応援要請

  • まず自分の安全! 周囲の医療機器、コード類、濡れた床などを確認し、安全な場所を確保します。
  • 大声で応援を呼ぶ! 「誰か来てください!急変です!人が倒れました!」と、とにかく周囲に異常事態を知らせます。

Step2:反応の確認

  • 肩をしっかり叩き、耳元で大きな声で呼びかけます。「大丈夫ですか!?わかりますか!?

Step3:応援への具体的指示(チーム医療の開始)

  • 集まってきたスタッフに、明確に、人を指名して指示を出します。
    • 〇〇さん(看護師)、ドクターコールと緊急コール(コードブルー)をお願いします!
    • △△さん(療法士)、そこのAEDと救急カートを持ってきてください!

Step4:呼吸の確認(10秒以内)

  • 胸と腹部の上下運動を「見て」確認します。
  • 要注意:死戦期呼吸(しせんきこきゅう)
    • しゃくりあげるような、途切れ途切れのあえぐような呼吸。これは心停止のサインであり、「呼吸なし」と判断します。
    • 判断に迷ったら「呼吸なし」として、ためらわず次のステップへ進みます。

Step5:質の高い心肺蘇生(CPR)の実践

① 胸骨圧迫(心臓マッサージ) – 最も重要なアクション
  • 位置: 胸の真ん中、胸骨の下半分。
  • 姿勢: 肘をまっすぐ伸ばし、肩を手の真上に。体幹を安定させ、股関節から体重を乗せるように圧迫すると、疲れにくく質の高い圧迫が可能です。
  • 深さ: 約5cm(6cmを超えない)。「思ったより深く」がポイント。
  • 速さ: 1分間に100~120回。「もしもしかめよ」のテンポです。
  • ポイント: 「強く、速く、絶え間なく」。そして、圧迫した後は必ず胸が元の高さに戻る**「リコイル」**を意識します。これが心臓に血液が戻るために不可欠です。
② 人工呼吸(訓練を受け、感染防護具があれば)
  • 比率: 胸骨圧迫30回:人工呼吸2回(30:2)
  • 方法: 気道を確保(頭部後屈あご先挙上法)し、ポケットマスクなどを用いて1回1秒かけて吹き込みます。胸が軽く上がるのを確認します。
  • 優先順位: ためらいや準備がなければ省略し、胸骨圧迫を継続してください。中断時間を最小にすることが最優先です。

Step6:AED(自動体外式除細動器)の確実な使用

  • AEDが到着したら、CPRを中断し、音声ガイダンスに従います。
  1. 電源ON
  2. 電極パッドを貼る
    • 衣服を全て取り去り、素肌に直接貼ります。
    • 注意点: 汗で濡れていれば拭く。貼り薬があれば剥がして拭く。心臓ペースメーカーの出っ張りは避けて貼る。
  3. 心電図解析
    • 「体に触れないでください」の指示に従い、全員が離れます。
  4. 電気ショック
    • 「ショックが必要です」とアナウンスされたら、充電後にボタンが点滅します。再度**「みんな離れて!」**と最終確認し、ボタンを押します。
  5. CPR再開
    • ショック後、または「ショックは不要です」と指示されたら、ただちに胸骨圧迫からCPRを再開します。

第4章:【場面別シミュレーション】あなたの職場ならどう動く?

BLSの手順は同じでも、現場の状況によって動き方は変わります。

シナリオ①:リハビリ室(スタッフ複数名)

  • 強み: マンパワーと機材が豊富。
  • 動き方:
    • リーダー役: 全体を俯瞰し、指示を出す人(経験豊富な療法士や医師)。
    • CPR(胸骨圧迫)役: 2分交代で質の高い圧迫を継続。
    • AED/救急カート役: 迅速に機材を準備・操作。
    • 記録役: 時間、バイタル、処置内容などを時系列で記録。
    • 外線/連絡役: 家族への連絡などを担当。
    • ポイントは明確な役割分担(リーダーシップとフォロワーシップ)です。

シナリオ②:病室・ベッドサイド(狭い空間)

  • 課題: 狭いスペースと、沈み込むベッド。
  • 動き方:
    1. まずナースコールで応援を要請。
    2. ベッドをフラットにし、CPRを行いやすい高さに調整。
    3. **ベッドのマットレスの下に硬いバックボードを挿入し、**効果的な胸骨圧迫ができる環境を作る。
    4. 点滴スタンドやモニターなどの周辺機器を整理し、動線を確保。

シナリオ③:訪問リハビリ(スタッフ1名)

  • 課題: 応援がすぐ来ない、資源が限られる、家族の動揺。
  • 動き方:
    1. 自分と患者の安全を確保し、ためらわず119番通報。
    2. **スマートフォンをスピーカーホンにし、**指令員の指示を仰ぎながらCPRを開始。
    3. 家族に対応を依頼: 「玄関の鍵を開けておいてください!」「保険証とお薬手帳を用意してください!」と具体的に指示し、動揺する家族に役割を与えます。
    4. 事前の備え: 普段から担当利用者の近隣の**AED設置場所(AED N@VIで検索)**を把握しておくことが、大きな差を生みます。

第5章:急変対応後のプロフェッショナルな動き

救急隊に引き継いだら終わりではありません。

  • 救急隊への申し送り: 状況、既往歴、リハビリ内容、発見時の様子、行った処置などを**「SBAR(状況・背景・評価・提案)」**のようなフレームワークで簡潔かつ的確に伝えます。
  • 診療録(カルテ)への記録: 「5W1H」で客観的な事実を時系列に沿って詳細に記録します。これは医療安全管理上、非常に重要です。
  • デブリーフィング(振り返り): 対応に関わったスタッフ全員で、今回の対応を振り返ります。「何が良かったか」「次はどうすればもっと良くなるか」を建設的に話し合い、チームの経験値を高めます。
  • 自身のメンタルケア: 急変対応は心身に大きなストレスを与えます。一人で抱え込まず、上司や同僚と話し、気持ちを整理する時間を持つことが大切です。

まとめ:知識とシミュレーションが、あなたを最高の「第一発見者」にする

リハビリ中の急変対応は、理学療法士としての専門性が問われる重要な局面です。

【今日からできること】

  1. 急変の予兆サインを常に意識して患者さんを観察する。
  2. BLSのフローチャートを頭の中で何度もシミュレーションする。
  3. 職場の緊急時マニュアル、AEDと救急カートの場所を今すぐ確認する。
  4. AHAのBLSプロバイダーコースなど、実践的な講習会に参加し、「できる」スキルを身につける。

「知っている」と「できる」の間には、大きな壁があります。その壁を越えるのは、日頃の準備とシミュレーション、そして一歩踏み出す勇気です。

この記事が、あなたの臨床での不安を解消し、患者さんの命を救うための確かな一歩となることを心から願っています。

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