【理学療法士向け】明日からの臨床が変わる膝関節の評価|運動学に基づく観察

動作観察・分析

その膝評価、”現象”の観察だけで終わっていませんか?

「先生、膝が痛くて…」

臨床で何度となく耳にするこの主訴に対し、私たちはまず何を見るでしょうか。腫脹や熱感、圧痛の確認、そして膝のアライメントや動作の観察。もちろん、これらは非常に重要です。

しかし、例えば「スクワットで膝が内側に入りますね(ニーイン)」という“現象”の発見だけで、評価を終えてしまってはいないでしょうか?

なぜ、その患者さんの膝は内側に入ってしまうのか?その背景にある力学的ストレスは?原因は股関節?それとも足部?

この記事では、若手から中堅の理学療法士が「知っている」はずの運動学の知識を、「臨床で使える」武器に変えるための思考法について考えていきます。

運動連鎖の視点を取り入れた膝関節の観察・評価法を身につけ、明日からの臨床を一段レベルアップさせていきましょう。

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【知識の臨床応用】最低限押さえるべき膝関節の運動学

教科書で学んだ知識を、臨床の視点で再確認します。「なぜそう動くのか」がわかると、異常動作の意味が深く理解できます。

脛骨大腿関節(TFJ):安定性の鍵“スクリューホームムーブメント”

膝関節が完全伸展する最後の局面で、脛骨が下腿に対して外旋する動き。これが「終末伸展回旋運動(スクリューホームムーブメント)」です。

  • なぜ起こる?
    • 大腿骨の内側顆が外側顆より大きい形態的な特徴
    • 靭帯(特に前十字靭帯)の張力
  • 臨床的な意味は?
    この動きにより、膝関節は伸展最終域でガチッとはまり込み、筋活動が最小限でも高い安定性を得られます。歩行で言えば、立脚初期(イニシャルコンタクト)での衝撃吸収と安定化に極めて重要です。
    逆に、この機構が破綻していると、立脚初期に膝がガクッと崩れるような不安定感(ギビングウェイ)や、伸展時の痛みを引き起こす原因となります。

膝蓋大腿関節(PFJ):膝蓋骨の“正しい軌道”を知る

膝蓋骨(パテラ)は、大腿四頭筋の力を脛骨に効率よく伝える滑車の役割を担っています。膝の屈曲に伴い、大腿骨の溝(大腿骨滑車溝)に沿って複雑な軌道を描きます。

  • 臨床的な意味は?
    この軌道が逸脱すること(特に外側への亜脱臼傾向)が、膝蓋骨大腿疼痛症候群(PFPS)、いわゆる”ランナーズニー”の主要な原因となります。
    Q角の増大、外側広筋の過緊張、内側広筋(特に斜走線維)の機能不全などが、この軌道異常を引き起こす代表的な要因です。評価では、膝蓋骨の動きがスムーズか、内外側へのストレスがかかっていないかを確認します。

【静的評価】止まった姿から力学的ストレスを読み解く

静的なアライメントは、その患者さんが日常的にどのような力学的ストレスにさらされているかを知るための重要な手がかりです。

  • 正面から見る:外反膝(X脚)と内反膝(O脚)
    • 観察ポイント: Q角、膝蓋骨の向き
    • 運動学的解釈:
      • 外反膝: 膝関節の外側コンパートメントへの圧迫ストレスと、内側側副靭帯(MCL)への伸張ストレスが増大します。
      • 内反膝: 膝関節の内側コンパートメントへの圧迫ストレスが増大し、変形性膝関節症(膝OA)の典型的なアライメントです。
  • 側面から見る:反張膝と屈曲膝
    • 観察ポイント: 大腿骨に対する脛骨の前後位置
    • 運動学的解釈:
      • 反張膝: 膝関節後方の関節包や靭帯への伸張ストレスが持続的に加わります。代償的にハムストリングスや下腿三頭筋が過緊張状態にあることも少なくありません。

【動的評価】膝の問題は膝で起きていない!運動連鎖で原因を探る

ここからが本題です。膝の痛みの多くは、股関節や足部といった隣接関節の機能不全が原因で起こる**「運動連鎖の破綻」**の結果です。

歩行観察:スラスト現象を見逃すな

  • ラテラルスラスト(外側への動揺)
    立脚中期に膝が外側へ「グッ」と流れる現象。主に内反膝(O脚)の患者さんに見られ、内側コンパートメントへの衝撃を増大させ、変形性膝関節症の進行因子となります。
  • ターミナルスラスト(終末伸展時の急激な過伸展)
    立脚初期に膝が急激に伸展(過伸展)する現象。前十字靭帯(ACL)機能不全や、大腿四頭筋の筋力低下を代償するパターンとして見られます。
【DAY2】関節可動域運動のエビデンスを臨床に活かす:論文を現場で役立てるコツ|リハの地図~学びnote~
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【Day2 歩行分析のヒント】膝の過伸展(反張膝)と急激な伸展、その違いを説明できますか?原因別の評価とアプローチ戦略例|リハの地図~学びnote~
はじめに こんにちは! 日々の臨床での歩行観察・分析、日々向き合っている方も多いと思います。 中でもよく見かける異常歩行の一つが「膝の過伸展(反張膝)」。立脚期に膝が“カクン”と後ろに反ってしまう、あの現象ですよね。 「ああ、大腿四頭筋が弱...

スクワット評価:膝機能不全のあぶり出し

スクワット動作は、膝関節の機能不全を評価するための非常に優れたツールです。特に注目すべきは『Knee-in / Toe-out(ニーイン/トゥアウト)』です。

膝が内側に入ってしまうニーイン。この現象の裏には、大きく分けて2つの原因が潜んでいます。

  • 原因①:股関節由来のニーイン(Hip Strategy)
    • 原因: 中殿筋を中心とした股関節外転・外旋筋群の筋力低下や機能不全。
    • メカニズム: スクワットで股関節を屈曲する際、外転筋群が骨盤と大腿骨を安定させられないため、大腿骨が内転・内旋してしまいます。結果として、膝が内側に入ります。
    • 見分け方: 片脚立位で骨盤が落下する(トレンデレンブルグ徴候)、クラムシェルなどの股関節外転筋テストで筋力低下や代償動作が見られる。
  • 原因②:足部・足関節由来のニーイン(Ankle Strategy)
    • 原因: 足部の過回内(オーバープロネーション)や足関節の背屈制限
    • メカニズム(過回内): 土台である足部が内側に崩れる(アーチが潰れる)ことで、その上にある下腿が内旋します。運動連鎖により、大腿骨も追従して内旋し、ニーインが発生します。
    • メカニズム(背屈制限): しゃがみこむ際に必要な足関節の背屈可動域が不足していると、代償的に下腿を内旋させ、足部を回内させて可動域を確保しようとします。これもニーインにつながります。
    • 見分け方: 立位で舟状骨が過度に落ち込んでいる(Navicular Drop Test)、踵骨が外反している。しゃがんでもらうと踵が浮いてしまう。

多くの場合、これらの原因は複合しています。しかし、どちらが優位な問題なのかを評価で見極めることが、効果的なアプローチの第一歩となります。

【症例別】観察所見から治療へつなげる思考プロセス

評価で得られた情報を、どう治療に結びつけるのか。2つの典型的な症例で見ていきましょう。

  • Case1:ランニングで膝の外側が痛む20代女性(腸脛靭帯炎疑い)
    • 観察所見: スクワットで顕著なニーイン。片脚スクワットではさらに骨盤が動揺し、膝が内に入る。その際に大腿部外側に疼痛が誘発される。
    • 仮説: 股関節外転筋群の機能不全(Hip Strategy優位)により、走行中の立脚期に股関節が不安定になっている。その代償として大腿筋膜張筋・腸脛靭帯が過剰に働き、摩擦ストレスが増大している可能性が高い。
    • アプローチ方針: 膝周囲のマッサージやストレッチも対症療法として行いつつ、根本原因である中殿筋の選択的なトレーニング(クラムシェル、サイドブリッジ等)を最優先する。正しいフォームでのスクワット動作の再学習も重要。
  • Case2:立ち座りで膝の内側が痛む70代女性(変形性膝関節症)
    • 観察所見: 静止立位で内反膝。歩行時にラテラルスラストを認める。スクワットでは足部が過回内し、踵がやや浮き気味になる。
    • 仮説: 内反アライメントに加え、足部の崩れ(Ankle Strategy優位)が立脚期の不安定性を助長し、膝内側への力学的ストレスを増大させている。
    • アプローチ方針: 大腿四頭筋の筋力強化はもちろんのこと、足部アーチをサポートするような足底板(インソール)の検討や、後脛骨筋など足部内因筋のトレーニングを指導。股関節外転筋の強化も動的アライメントの安定化に寄与する。

まとめ:現象の奥を見る眼を養い、評価の質を高めよう

今回のポイントをまとめます。

  • 膝関節の運動学(スクリューホーム、膝蓋骨軌道)は、関節の安定性と痛みの発生機序を理解する上で不可欠。
  • 静的アライメントは、日常的な力学的ストレスを推測するヒントになる。
  • 動的評価、特にスクワットでの「ニーイン」は、膝以外の問題(股関節・足部)をあぶり出す絶好の機会。
  • 「なぜニーインするのか?」と一歩踏み込み、運動連鎖の視点で原因を仮説立てることが、的確なアプローチにつながる。

膝の痛みを訴える患者さんを前にしたとき、ただ膝を曲げ伸ばしするだけでは、根本的な解決には至りません。

明日からの臨床で、ぜひ一人の患者さんのスクワット動作を「股関節」と「足部」にも注目して観察してみてください。今まで見えなかった痛みの原因が、きっと見えてくるはずです。

この記事が日々の臨床の一助となりますように。

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