はじめに
膝関節全置換術(TKA)は、変形性膝関節症の患者さんに多く行われる手術です。術後のリハビリは患者の回復を左右する重要なプロセスであり、理学療法士(PT)にとってはSOAP記録を正確に書くことが必須スキルです。
本記事では、新人PTがつまずきやすい「SOAP記録の書き方」を、膝関節TKA術後の症例を使ってわかりやすく解説します。
【この記事の対象読者】
- 新人理学療法士
- PT学生
- 臨床でSOAP記録に慣れたい方
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症例紹介:70代女性・膝関節TKA術後3日目
- 右膝の変形性膝関節症のため膝関節全置換術を受ける
- 術後3日目に行った病棟リハビリ
- 主訴は「膝が痛い」「動かすと怖い」などの不安感
- ADLは寝返り、起き上がりは自立、歩行は杖歩行で補助あり
- 膝関節可動域:屈曲90度、伸展-5度
- 大腿四頭筋筋力低下(MMT2)
- 起立・立位動作は手すり使用で不安定ながら可能
- 歩行は歩行器を使用して可能だが立脚期が短縮
【前半】カルテ風SOAP記録例
S(Subjective)主観的情報
「膝の痛みが強く、特に動かすとズキッと痛みます。歩くのも怖いです。」
「夜寝ているときも痛みで目が覚めることがあります。」
O(Objective)客観的情報
- 膝関節可動域:屈曲90度、伸展-5度
- 大腿四頭筋筋力:MMT2(エクステンションラグを認める)
- 動作は全体的に軽介助が必要
- 歩行状況:歩行器使用し歩行可能だが歩幅は狭い。上肢でもたれかかり右立脚期は短縮している。
A(Assessment)評価・考察
- 術後の痛みが動作の妨げとなり、動作には全体的に介助が必要である。術後3日目として可動域の改善はスムーズと考えられる。しかしながら膝関節伸展のMMTは2と筋力低下が目立っている。
- 動作時には軽介助が必要であり、歩行練習は可能であるのの上肢でもたれかからような歩容であり、右立脚期が短縮している。これは疼痛や筋力低下が影響して下肢の支持性が低下していることが原因と考えられる。
- 転倒リスクが高い状態である。
※実際にはもっと端的に記録する事が多いです。
P(Plan)治療計画
- アイシングと疼痛管理を継続
- 膝関節の関節可動域運動
- 大腿四頭筋の筋力増強運動
- 起立・立位練習
- 歩行器歩行練習
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【後半】SOAP記録の書き方とポイント解説(詳細版)
1. Subjective(主観的情報)の解説
Subjectiveは、患者さん本人やご家族から聞き取った主観的な情報を記録する部分です。ここで大切なのは、「患者の言葉をできるだけそのまま書く」こと。
たとえば、「膝が痛い」という表現だけでなく、「ズキッとした痛み」「夜中に痛みで目が覚める」など、痛みの種類や時間帯、どのような時に痛むのか詳しく聞き取ると、治療方針を立てる上で非常に役立ちます。
また、患者の感情や不安、日常生活で困っていることも重要な情報です。痛みや身体の状態だけでなく、「動かすのが怖い」「歩くと疲れる」などの心理的な側面を記録することで、リハビリ計画に心理的サポートを組み込むことができます。
さらに、Subjective情報は患者とのコミュニケーションの結果でもあるため、聞き方や信頼関係が良好であればより正確な情報が得られます。新人PTは、単に質問するだけでなく、患者の言葉に共感しながら聴く姿勢を意識しましょう。
2. Objective(客観的情報)の解説
Objectiveは、PT自身が直接測定・観察した数値や状態を記録します。ここは医学的なデータとして客観性が求められるため、具体的でわかりやすい表現が重要です。
例えば、膝関節の可動域は「屈曲90度、伸展-5度」と正確に記載し、筋力評価はMMTのような標準的な評価方法で数値化します。
歩行状況やバランス評価も、「歩行器の使用」「手すりあり」「歩幅狭い」「ふらつきあり」といった状態を細かく書くことで、患者の全体像を把握しやすくなります。
また、観察の際には、患者の動作の質も見るポイントです。例えば、「痛みを避けるために体重をかけにくそう」「膝をかばう歩き方をしている」などの所見も記録しておくと、後の評価や計画に活きます。
新人PTは、客観的情報を漏れなく、正確に集めることを意識しましょう。数値だけでなく動作の特徴や変化も見逃さないようにすることが大切です。
3. Assessment(評価・考察)の解説
Assessmentは、SubjectiveとObjectiveの情報を統合し、患者の状態や問題点を臨床的に分析・考察する部分です。ここが一番難しいと感じる新人PTも多いですが、論理的思考の力を鍛える重要なステップです。
具体的には、
- どの症状が主な障害となっているのか?
- それが患者の日常生活や動作にどう影響しているか?
- どんなリスク(転倒、拘縮、合併症など)があるか?
- 患者の心理的な状態はどうか?
これらを整理しながら文章にまとめます。
先ほどの例でいうと、「術後の痛みが膝の動きを制限し、大腿四頭筋の筋力低下や関節可動域制限を生み、結果的に歩行が不安定で転倒リスクが高い」という因果関係を示すことが大切です。
また、患者の不安感がリハビリ参加の障壁になっていることも指摘します。
このように問題点を具体的に掘り下げて書くことで、治療計画(Plan)の根拠が明確になり、他スタッフとの情報共有もスムーズになります。
4. Plan(計画)の解説
Planは、今後のリハビリの具体的な方針や目標、実施内容を記載する部分です。ここでは、
- 何を目的にリハビリを行うのか?
- どのような手技や運動療法を実施するのか?
- その頻度や期間は?
- 患者の心理面ケアはどうするか?
- 安全管理や注意点は?
といったことを具体的に書きます。
例えば「痛み緩和のためのアイシングを毎回実施」「大腿四頭筋筋力強化のために坐位での膝伸展運動を1日3回、10回ずつ」「歩行器歩行の自立促進を目指し、歩行練習を毎日100mを5セット」「患者の不安軽減のため、毎回説明時間を設ける」など、具体的で実現可能な計画を立てることが重要です。
新人PTは、計画が曖昧だと治療効果の評価がしにくくなるため、数字や時間などの具体的な内容を盛り込むことを意識しましょう。
5. SOAP記録のまとめとコツ
- SOAPは「患者の状態を正確に把握し、適切な治療計画を立てるための重要なツール」
- 主観(S)と客観(O)は分けて記載、主観は患者の言葉、客観は数値や観察結果を具体的に
- 評価(A)は「なぜ問題が起きているか」「臨床的影響」を考えて書くことが大切
- 計画(P)は「具体的で現実的な目標と方法」を示し、頻度や回数も入れると効果的
- 書く時は専門用語を使いすぎず、読み手がわかりやすい言葉を選ぶこと
- 日々の実践で繰り返し書くことが上達への近道
📘 最後までお読みいただき、ありがとうございました。
SOAP形式の記録は、単なる“書類作業”ではなく、患者さんを理解し、質の高いケアにつなげる大切な手段です。忙しい日々の中でも、「ただ書く」のではなく、「考えて書く」姿勢を持ち続けたいですね。
この記事が、日々の臨床で悩んだり迷ったりするあなたのヒントになれば嬉しいです。
今後も、現場で使える知識や記録の工夫、思考の整理につながる内容を発信していきますので、よければまた覗きに来てくださいね。
それでは、今日も一日、お疲れさまでした。
あなたの臨床が、少しでも楽しく、意味あるものになりますように。