はじめに:なぜ今「呼吸リハビリ」が注目されているのか?
近年、呼吸リハビリテーション(呼吸リハ)への注目が高まっています。高齢化社会が進み、慢性呼吸器疾患や肺炎などの患者が増加する中で、呼吸機能を改善し、QOL(生活の質)を維持・向上させるリハビリの重要性が再認識されているように思えます。
理学療法士(PT)として、急性期から在宅まで幅広く関われる分野であり、“呼吸を診る力”が求められる時代に入ってきたとも言えます。
この記事では、呼吸リハビリとは何か?どんな目的・効果があるのか?どんな人が対象なのか?を初心者にもわかりやすく解説していきます。
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呼吸リハビリとは?|初心者にもわかる定義と全体像
呼吸リハビリとは、呼吸器疾患などにより呼吸機能が低下した患者に対して、呼吸のしやすさを改善し、日常生活を支えることを目的とした包括的なリハビリテーションのことです。
単に「呼吸を楽にする」だけでなく、
- 呼吸困難の軽減
- 身体機能の維持・向上
- 排痰支援や感染予防
- 心理的サポートやセルフケア支援
といった多面的なアプローチが特徴です。
また、呼吸リハはチーム医療で行われ、医師・看護師・理学療法士・作業療法士・言語聴覚士・薬剤師・管理栄養士などが連携して関わります。
呼吸リハビリの目的と期待できる効果
呼吸リハビリの主な目的は、以下の5つに整理できます。
① 呼吸困難の軽減
呼吸筋や胸郭の可動性を改善することで、「息苦しさ」そのものを軽減することができます。
② 排痰促進・感染予防
体位ドレナージやスクイージングなどの技術で痰の排出を助け、肺炎リスクを下げることができます。
③ 運動耐容能・体力の向上
歩行や筋力トレーニングを通じて、身体の“持久力”や“筋力”を維持・改善し、再入院の予防にもつながります。
④ ADL(日常生活動作)の自立支援
「トイレに行ける」「食事ができる」など、生活動作を支える基礎になります。
⑤ 精神的・社会的なQOLの向上
呼吸の苦しさが軽減されると、表情や会話、外出意欲も改善する例が多くあります。
呼吸リハビリで理学療法士が行うこととは?
呼吸リハビリでは、理学療法士は「評価」と「介入」の両面で重要な役割を果たします。
■ 評価
- 呼吸パターン(浅い呼吸/努力性呼吸など)
- 胸郭の動き(左右差、拡張性)
- SpO₂(酸素飽和度)、呼吸数、心拍数
- 肺音(聴診器による評価)
- 呼吸困難の主観評価(Borgスケールなど)
■ 介入(治療)
- 体位ドレナージ:痰を出しやすい姿勢に誘導
- スクイージング:胸郭に手を添えて排痰を補助
- 呼吸筋トレーニング(IMT):吸気筋を強化
- 腹式呼吸・口すぼめ呼吸:呼吸法の再学習
- 運動療法:歩行訓練・エルゴメーターなど
呼吸リハビリの対象となる主な疾患
呼吸リハは、以下のような呼吸器疾患や呼吸機能低下が予想される状態に適応されます。
- COPD(慢性閉塞性肺疾患)
- 間質性肺炎/肺線維症
- 肺炎・誤嚥性肺炎
- 開胸手術後(肺がん手術など)
- 心不全(心肺リハとして)
- COVID-19後遺症や長期人工呼吸管理後の廃用状態
特にCOPDや心不全では、退院後の再増悪を防ぐ“出口戦略”としての呼吸リハが重視されています。
実際の臨床エピソード(例)
とある80代の肺炎患者さんは、痰が切れずに会話もままならない状態でした。毎日、体位ドレナージとスクイージング、腹式呼吸の指導を継続した結果、数日後には「ありがとう、少し息が楽になったよ」と笑顔で話されました。
呼吸リハは、数値だけでなく“表情の変化”にも表れます。
目の前で患者さんの生活が変わっていく感覚を味わえる、理学療法士として非常にやりがいのある領域です。
呼吸リハで理学療法士が担う役割とは?
呼吸リハビリにおけるPTの特徴は、“動かす”視点から呼吸を診られることです。
また、患者の動作を介して呼吸状態を引き出し、改善する技術はPTならではの強みでもあるとおもいます。
さらに、急性期・回復期・在宅リハビリまで広く関われる点も魅力です。多職種との連携の中で、身体機能の専門家として中心的な役割を果たす場面も多いのが呼吸リハの現場です。
まとめ:呼吸リハビリは理学療法士にとって“これからの武器”
呼吸リハビリは、単なる「補助的なリハビリ」ではありません。呼吸が変われば、生活が変わります。
そしてそれを支えるのが、理学療法士の評価力と介入技術です。
今後ますます需要が高まるこの分野で、呼吸を“診て、動かす”力を磨くことは、PTにとって強力な武器になります。
新人や学生のうちから、ぜひ基礎的な知識と技術を身につけておきましょう!