【保存版】理学療法士が迷う「自立度を上げるタイミング」の判断基準と臨床実例

動作観察・分析

― ADL・FIM評価から見守り移行まで、成功と失敗から学ぶ ―

はじめに:その“介助”、いつ外すべき?

理学療法士として臨床の現場に立っていると、こんな葛藤に直面することがあります。

「この患者さん、そろそろ自分でできそうだけど…まだ危ないかな」

「転倒したらどうしよう。でも、ずっと介助していたら自立できないし…」

特に回復期や在宅復帰支援の場面では、「今、介助を外すべきか?」という判断は非常に重要で、かつ難しい場面のひとつです。

早く介助を外しすぎれば転倒などのリスクが生じ、逆に遅すぎれば廃用や意欲低下を招いてしまう。

この記事では、“ちょうどいい自立支援”のタイミングをどう見極め、どう臨床に活かすかを具体的に解説します。

🔍この記事でわかること

  • 評価に使える指標・スケールの具体的活用方法
  • 自立度を上げるタイミングで迷ったときの判断基準と視点
  • 実際の臨床現場での成功事例と、判断ミスによるリスク
  • 自立支援における“責任”と“信頼”のバランスを考える方法
臨床理学Lab|リハの地図~学びnote~
**「臨床理学Lab」**は、理学療法における基本的な知識の向上に加え、評価と臨床推論の強化を目的としたメンバーシップです。「なぜこの評価をするのか?」「その結果から何がわかり、どう治療に活かせるのか?」深く掘り下げ、現場で実践できる力を養...

なぜ“自立支援のタイミング”は難しいのか?

自立=「できる」ではなく、「続けられる」こと

理学療法でいう“自立”は、ただ動作が完遂できるかどうかだけではありません。

実際の生活の中で、「安全に」「安定して」「継続的に」「本人の意思で」行えるかどうかが鍵になります。

身体機能評価だけでは判断できない

自立度を上げるには、以下のような多角的な視点が求められます。

  • 身体機能(筋力・バランス・関節可動域)
  • 認知機能(記憶力・注意力・遂行機能)
  • 心理状態(不安・モチベーション・自信)
  • 住環境・支援体制(家族の介助力や住宅改修の有無)

このうち1つでも大きな課題がある場合は、“自立”の意味が変わってきます。

自立度を上げる判断に使える3つの視点

① 客観的評価スケールを活用する

■ FIM(Functional Independence Measure)

  • 自立支援の代表的指標。
  • 「見守り」や「最小介助」から「修正自立」へ移行する際の細かい変化を見逃さないために有用。

■ BBS(Berg Balance Scale)

  • 41点以上で「転倒リスクが低い」とされるが、40点台でも「動作に不安定性が残る」ことはある。
  • スコアより「どうバランスを崩すか」を観察する。

■ TUG(Timed Up and Go)

  • 13.5秒以上は転倒リスクありとされるが、歩行スタイルや注意分割の有無にも注目。

◼️ 10m歩行テスト

  • 高齢者:屋内歩行では24.6秒、屋外歩行では11.6秒、通常高齢者では1.0m/秒、活動性の低い高齢者では0.66m/秒がカットオフ値として報告されています。
  • 脳卒中患者:田代らの研究では、10mを16.5秒、5mを8.2秒で歩く速度が、歩行距離に制限がなく、買い物や雑用を遂行できる能力の目安として報告されています。

② 観察力と“予備動作”のチェック

  • 動作前に本人がどう準備しているか(例:足を揃える、手をベッド柵に置く、など)
  • 「そろそろ動くかも」という意思表示のサインを見逃さないことが重要です。

③ 本人・家族の意向と不安を聞き取る

  • 自立支援においては、「本人のやる気」が非常に大切。
  • ただし、不安や過去の失敗体験があると「やりたくない」「怖い」という気持ちが勝ってしまうことも。

ワンポイント

不安が強い患者さんには、「練習だから失敗しても大丈夫」という心理的安全性を伝えることが効果的です。

ケーススタディ:歩行を見守りから自立へ

■ 症例

70代男性。右中大脳動脈領域の脳梗塞後、右片麻痺あり。発症から3週間、回復期リハビリテーション病棟にて理学療法介入中。

■ 介入当初

  • 起き上がり:一部介助
  • 立ち上がり:最小介助〜見守り
  • 歩行:四点杖使用、見守りでの歩行可能(病棟内短距離)
  • 坐位・立位バランス:おおむね安定
  • FIM(運動項目):59点
  • BBS(Berg Balance Scale):36点
  • 10m歩行テスト:0.35 m/sec(見守り下)
  • TUG(Timed Up and Go):30秒(最小介助)

■ 変化と“決断の時”

発症から4週目にかけて、以下のような機能的改善と行動変容がみられた。

身体機能の変化:

  • 10m歩行テスト:0.53 m/sec に改善(歩行速度の明確な向上)
  • TUG:20秒、最小介助から見守りレベルへ
  • BBS:42点に上昇(転倒リスク軽減の指標)
  • 麻痺側の股関節伸展と膝伸展の協調が改善、歩行中のふらつきが減少
  • 自主的な歩行練習への意欲が強く、「自分で病室まで歩きたい」という発言が増加

環境・心理面の変化:

  • 病棟の構造がシンプルで、安全確認がしやすい動線
  • ご家族の面会時に「一人で歩く姿を見せたい」という発言あり
  • 日中は疲労感の訴えが少なくなり、活動量が増加傾向

■ 判断と対応

判断の根拠:

  • 10m歩行速度が0.5 m/secを超えたことで、自立歩行の可能性を検討
  • TUGが20秒台に短縮され、バランス能力と俊敏性の改善が確認
  • BBSが40点を超えたため、転倒リスクが中等度から軽度に変化

実施した対応:

  • 転倒リスク対策 : いきなり自立西田するのではなく、最初は見守りから開始し少しずつ自立できるように支援
  • 環境調整:廊下の障害物を除去し、手すりの使用を確認
  • セラピスト以外のスタッフとも情報共有し、安全確認体制を強化
  • リハビリ場面外でも病棟スタッフと連携し、日常場面での自立歩行を段階的に促進

■ 結果

  • 自室〜トイレ間の移動を完全自立で安定して実施可能に
  • 病棟内の移動も日中は杖使用で自立歩行が定着
  • FIM(運動項目):72点に上昇(13点アップ)
  • 本人の自己効力感が向上し、リハビリ意欲も高まった
  • 家族やスタッフからも「歩き方がしっかりしてきた」と前向きな評価

このように、**歩行自立への判断は、「本人の意欲」+「客観的指標の変化」+「環境整備」**の3つの観点からアプローチしています。臨床では、「もうそろそろかな?」という感覚に、数値で裏付けを持たせることで、より安全で根拠ある判断が可能となります。

よくある失敗とリカバリー策

❌ 失敗例:早すぎた自立移行で転倒

60代女性、脊柱管狭窄症術後。歩行中に「もう介助いらない」と判断した結果、トイレ移動中に転倒。

→ 結果的に入院期間延長、患者の自信低下、家族の不信感を招いた。

✅ 対策とリスク管理

  • “見守り”の定義をチーム内で共有する(例:「触れてないけど1m以内で観察」など)
  • 自立移行前に“もしも”の行動パターンを練習しておく
  • 「成功だけでなく、失敗時の支援動作も準備する」ことも重要

まとめ:自立支援は“判断力”と“信頼”の積み重ね

理学療法士として「自立のタイミング」を見極めるには、単に筋力や動作能力を見るだけでなく、その人の生活・背景・心理状態を含めて包括的に捉える視点が必要です。

覚えておきたいポイントは以下の3つです。

  1. 評価スケールは「道具」であって、「最終判断」ではない
  2. 動作観察の“違和感”を見逃さない直感力も重要
  3. 自立支援とは、信頼と安全の“間”を探る作業

終わりに:自立を“させる”ではなく“引き出す”

患者さんが本来持っている能力や意欲を「引き出す」こと。それが理学療法士の本当の役割だと考えています。

自立へのタイミングに迷ったときこそ、私たちセラピストの“支援の在り方”が問われています。

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