はじめに【こんな人におすすめです】
- 初めてパーキンソン病の患者様を担当することになった新人・若手理学療法士
- パーキンソン病のリハビリについて、基本から学び直したい方
- 臨床で使える具体的なアプローチ方法を知りたい方
「パーキンソン病の患者さんを初めて担当するけど、何から評価すればいいんだろう…」
「すくみ足へのアプローチって、具体的にどうやるの?」
回復期でも、生活期でも、分野を問わず出会う可能性のあるパーキンソン病(PD)。いざ担当すると、特有の症状に戸惑い、アプローチに悩む理学療法士は少なくないのではないでしょうか。
この記事では、そんなあなたのために、パーキンソン病の理学療法で必ず押さえるべき基本知識を、症状の理解から具体的な評価・アプローチ方法まで、網羅的に解説します。
この記事を読んだことによって、明日からの臨床に自信を持って臨む一助となれば幸いです。
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パーキンソン病とは?理学療法士が知るべき基本病態
まずはおさらいです。
パーキンソン病は、脳の「中脳黒質」という部分の神経細胞が減少し、運動をスムーズにする「ドパミン」という神経伝達物質が不足することで起こる神経変性疾患です。
ドパミンが減ることで、脳からの運動の指令がうまく伝わらなくなり、「錐体外路症状」と呼ばれる特有の運動症状が現れます。私たち理学療法士は、この運動症状に対して的確にアプローチしていくことが求められます。
【要点整理】パーキンソン病の四大運動症状
パーキンソン病の理学療法を行う上で、基本となるのが「四大運動症状」の理解かと思います。それぞれの特徴と、臨床でどう見えるかを見ていきましょう。
① 無動・寡動(すくみ足・小刻み歩行)
動作が遅く(無動)、動きが小さく(寡動)なる症状です。パーキンソン病の最も中核的な症状と言えます。
- 臨床での見え方
- 歩き始めの一歩が出ない「すくみ足」
- 歩幅が極端に狭くなる「小刻み歩行」
- 腕の振りが少なくなる
- 表情が乏しくなる「仮面様顔貌」
- 寝返りや起き上がりがスムーズにできない
② 筋強剛(きんきょうごう)
自分の意思とは関係なく、筋肉がこわばって硬くなる症状です。患者様は「体が重い」「動かしにくい」と感じます。
- 評価のポイント
- 他動的に関節を動かすと、ガクガクとした抵抗を感じる「歯車様強剛」が特徴的です。関節可動域測定の際に確認しましょう。
③ 振戦(しんせん)
何もしていない時(安静時)に、手や足が意図せずふるえる症状です。
- 臨床での見え方
- 椅子に座って手を膝に置いている時などにふるえが見られる。
- 何か物を持ったり、動作を始めるとふるえが軽減・消失するのが特徴です。精神的な緊張で強くなることもあります。
④ 姿勢反射障害
体のバランスを保つ反射がうまく働かなくなり、ふらつきや転倒が多くなる症状です。特に病状が進行すると顕著になります。
- 臨床での重要性
- 転倒リスクに直結するため、理学療法介入の最重要ターゲットです。
- 特に後方へのバランスを崩しやすく、一度崩すと立て直せずにそのまま後ろへ倒れてしまう「突進現象」が見られます。
見逃し厳禁!リハビリに影響する「非運動症状」
パーキンソン病のリハビリを難しくするのが、運動症状以外の「非運動症状」の存在です。これらは患者様のQOLやリハビリへの意欲に大きく関わるため、必ず目を向けましょう。
- 起立性低血圧: 立ち上がった際に血圧が下がり、めまいやふらつき、失神を起こすことも。離床・立位練習前後のバイタルチェックは必須です。
- 抑うつ・アパシー(意欲低下): 「やる気が出ない」のは症状の一つ。共感的に関わり、小さな成功体験を積めるような課題設定が重要です。
- 認知機能障害: 計画を立てて物事を実行する「遂行機能」や、注意機能の低下が見られます。一度に二つのことを行うデュアルタスク(二重課題)が苦手になります。
- 痛み: 筋強剛や不良姿勢が原因で、腰や肩などに関節痛や筋肉痛を訴える方が多いです。
- 疲労感: 身体を動かしていなくても強いだるさを感じることがあります。
パーキンソン病の理学療法評価のポイント
担当になったら、まずは以下の点を中心に評価を進めましょう。
- 歩行分析: 歩行速度、歩幅、すくみの有無、腕の振り、方向転換の様子
- バランス評価: ファンクショナルリーチテスト(FRT)、継ぎ足立位、Timed Up and Go Test (TUG) など
- ADL評価: 寝返り、起き上がり、立ち上がり、移乗動作
- 関節可動域・筋力: 特に体幹や股関節の伸展制限、筋力低下に注意
- 非運動症状の聴取: 上記の非運動症状について、本人や家族から丁寧に話を聞く
明日から使える!パーキンソン病の理学療法アプローチ5選
評価で課題を抽出したら、いよいよアプローチです。ここでは代表的な5つの方法を紹介します。
1. 大きく動く練習(LSVT BIG®の概念)
パーキンソン病では動きが小さくなりがちなので、意識的に**「大きく」「全力で」**動く練習が非常に有効です。これは「LSVT BIG®」というリハビリテーションプログラムの考え方に基づいています。
- 具体例: 手足を大きく振りながらその場足踏みをする、大きく腕を回す、大股で歩く練習など。
2. キューイング(聴覚的・視覚的)の活用
すくみ足や小刻み歩行には、外部からの合図(キュー)が効果的です。
- 聴覚的キュー: メトロノームの音に合わせて歩く、理学療法士が「いち、に、いち、に」と掛け声をかける。
- 視覚的キュー: 床に一定間隔でテープを貼り、それをまたぐように歩いてもらう。
3. 姿勢反射を鍛えるバランス練習
転倒予防のために、様々な状況下でのバランス練習は不可欠です。
- 具体例
- 重心移動練習(前後左右へのリーチ動作など)
- 不安定なマットの上での立位保持
- 目を閉じた状態での立位保持
- ボールの受け渡しなど、上肢の操作を加えながらの立位練習
4. 生活に直結する機能的動作練習
実際の生活で困っている動作を、反復して練習します。
- 具体例
- ベッドからのスムーズな起き上がり
- 狭い場所での方向転換
- 椅子からの立ち上がり・着座
5. デュアルタスク(二重課題)トレーニング
安全な環境下で、運動と認知課題を同時に行い、より実用的な能力を高めます。
- 具体例
- 歩きながらしりとりをする
- 計算をしながら足踏みをする
まとめ
パーキンソン病の理学療法は、症状の進行を緩やかにし、患者様のQOL(生活の質)をできるだけ長く維持・向上させることが最大の目標です。
運動症状だけでなく非運動症状にも配慮し、薬物療法とのタイミング(オン・オフ症状)を考慮しながら、その人らしい生活を支えることが、私たち理学療法士の重要な役割です。
この記事で紹介した基本知識を土台に、ぜひ自信を持ってパーキンソン病のリハビリテーションに取り組んでください。
ありがとうございました。