主任理学療法士に必要な「臨床統率力」について
「主任理学療法士になったものの、役割の広さに戸惑っている…」
「臨床だけでなく、スタッフ教育や管理業務、多職種との連携など、考えることが多すぎて何から手をつければいいか分からない…」
多くの主任理学療法士、そしてこれからそのポジションを目指す方々が、このような悩みを抱えていると思います。
主任理学療法士の役割は、一人の優れたセラピストであるだけでは務まりません。求められるのは、**「臨床力」「教育力」「管理力」「コミュニケーション力」という4つの力を統合した、いわば『臨床統率力』**です。
この総合力がなければ、チームをまとめ、安全で質の高いリハビリテーションを提供し続けることは困難です。
この記事では、主任理学療法士に不可欠な『臨床統率力』の正体を解き明かし、それを高めるための具体的な方法を解説します。
あなたは現場での『臨床統率力』を発揮できていますか?この記事を読み終える頃には、その答えと、明日からの行動のヒントが得られていることを願います。
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主任理学療法士に求められる現場での多様な役割
主任理学療法士の仕事は多岐にわたります。具体的には、以下のような役割を同時にこなすことが求められます。
- 患者の安全確保と治療方針の最終決定
- 新人・後輩スタッフの教育と育成
- チーム全体の業務管理と効率化
- 医師・看護師・他部門との多職種連携
これらの役割は、日々の業務の中で複雑に絡み合ってきます。
【具体例で見る主任PTの現場】
- 新人指導の場面
新人PTが担当する難易度の高い患者について相談を受けた際、ただ手技を教えるだけでなく、「なぜその評価を選んだのか」「他に考えられるアプローチはないか」といった問いかけを通して、臨床推論のプロセスそのものを指導する。 - 患者急変時の対応
リハビリ中に患者の容態が急変。その場で冷静にバイタルを確認し、他のスタッフに的確な指示を出しながら、迅速に医師や看護師へ報告・連携する。パニックにならず、チームの司令塔として機能する。 - カンファレンスでの調整
医師やソーシャルワーカーと退院後の方向性について意見が割れた際、リハビリの専門家として患者の身体機能や生活環境を具体的に提示し、実現可能な目標設定を主導。各職種の意見を尊重しつつ、最適な着地点を見出す。
このように、主任理学療法士は常に複数の視点を持ち、状況に応じて最適な判断を下すことが求められるのです。


臨床統率力を構成する4つの力
臨床統率力は、以下の4つのコアスキルによって構成されています。これらは独立したものではなく、互いに深く関連し合っています。
臨床力:判断力と柔軟性の基盤
主任理学療法士は、チームの中で最も高い臨床判断力が求められる存在です。エビデンスに基づいた知識はもちろん、複雑な症例や予期せぬ変化に対応できる経験と柔軟性が不可欠です。
- 求められるスキル: 高度な臨床推論、リスク管理能力、最新知見のアップデート
- 具体例:
思うように改善が見られない患者に対し、従来の方針に固執せず、多角的な視点から再評価。新たなアプローチを立案し、チームに共有して治療方針を転換する。
教育力:思考を伝え、チームを育てる力
後輩に技術を教える(ティーチング)だけでなく、彼らが自律的に考え、成長できるよう導くコーチング)視点が重要です。なぜその判断に至ったのか、思考のプロセスを言語化して伝えることで、チーム全体の臨床力を底上げします。
- 求められるスキル: コーチング、フィードバック技術、言語化能力
- 具体例:
後輩の症例検討会で、結論を教えるのではなく、「あなたはこの患者の一番の問題点は何だと考える?」「その根拠は?」と問いかけ、本人の思考を深掘りさせる。
管理力:チームの成果を最大化する力
スタッフの能力や経験、患者の状況を総合的に判断し、最適な人員配置や業務分担を行う力です。リハビリテーション科全体のリソース(ヒト・モノ・時間)を効率的に活用し、チームとしての成果を最大化することがミッションです。
- 求められるスキル: 業務効率化、タスク管理、リスクマネジメント、労務管理
- 具体例:
急な欠員が出た際、残りのスタッフの業務負荷を考慮しながら、優先順位をつけてリハビリ計画を再調整。チームの混乱を最小限に抑える。
コミュニケーション力:チームを繋ぐ潤滑油
「報・連・相」はもちろん、他職種や患者・家族との信頼関係を築くための対話力です。特に、意見が対立する場面では、それぞれの立場や主張を正確に理解し、目標達成のために建設的な議論をファシリテートする調整力が求められます。
- 求められるスキル: 傾聴力、交渉力、ファシリテーション能力、プレゼンテーション能力
- 具体例:
治療方針についてドクターと意見が食い違った際、感情的にならず、客観的な評価データを用いて理学療法士の視点を論理的に説明し、合意形成を図る。

結論:臨床統率力とは「状況を最適化し、チームを動かす総合力」
ここまで見てきた4つの力は、それぞれが独立しているわけではありません。
- 高い臨床力があるからこそ、教育に説得力が生まれる。
- 円滑なコミュニケーション力が、効率的な管理業務を可能にする。
- 適切な管理力によって、スタッフは安心して臨床や自己研鑽に集中できる。
つまり**『臨床統率力』とは、これら4つの力を状況に応じて自在に組み合わせ、どんな状況でもチームにとって最適な行動を選択し、目標達成へと導く総合力**なのです。
一人のプレイヤーとして優れているだけでは不十分。オーケストラの指揮者のように、チーム全体のハーモニーを創り出す力が、主任理学療法士には求められています。
明日からできる!臨床統率力を高める4つの実践ポイント
「自分にはまだそんな力はない…」と感じた方も心配ありません。臨床統率力は、日々の意識と実践によって着実に高めることができます。
- 自己研鑽を継続する
臨床知識や技術のアップデートはもちろん、マネジメントやコーチングに関する書籍を読んだり、他部署の勉強会に参加したりして、視野を広げましょう。専門分野以外の知識が、多職種連携の場で役立つことも少なくありません。 - 柔軟性を意識して対応する
「いつもこうだから」という固定観念は、成長の妨げになります。後輩の新しい意見や他職種の視点を「まずは聴いてみる」姿勢を持ちましょう。自分とは違うやり方の中に、業務改善のヒントが隠れているかもしれません。 - 後輩育成を通して自身の思考を整理する
後輩に何かを教えることは、最高の学習機会です。「なぜこの手技を選択するのか?」を自分の言葉で説明するプロセスを通して、自身の臨床判断の根拠が明確になり、思考が整理されます。 - チームの声を聴き、現場調整を意識する
日々の会話の中でスタッフの悩みや意見に耳を傾け、働きやすい環境づくりを意識しましょう。小さな問題でも早期に察知し対応することが、チームの結束力を高め、大きなトラブルを防ぐことに繋がります。
まとめ:臨床統率力を磨き、信頼される主任理学療法士へ
主任理学療法士に求められるのは、単一の突出したスキルではなく、「臨床力」「教育力」「管理力」「コミュニケーション力」を統合した『臨床統率力』です。
この総合力を意識し、日々磨き続けることで、あなたはチームをまとめ、より安全で質の高いリハビリテーションを提供できる、信頼されるリーダーへと成長することができます。
最初から完璧な主任はいません。今日ご紹介した4つの力を意識し、明日から一つでも行動に移すことが、あなたとあなたのチームを大きく変える確実な一歩となります。
最後に、もう一度お聞きします。
「あなたの臨床統率力は、今どのくらいですか?」
まずは自己分析から始め、あなたのキャリアをさらに輝かせていきましょう。