はじめに|「なんでこの評価してるんだろう?」と思ったことありませんか?
理学療法士として臨床に立ちはじめたとき、多くの人が直面する壁のひとつが「臨床推論」です。
最初は評価項目を覚えるだけで必死。ようやく慣れてきても、「この評価が治療とどうつながるのかがわからない…」「評価はできたけど、それで何をどう判断すればいいの?」と悩む人は少なくありません。
これはあなたが未熟だからではなく、“考える技術”のトレーニング機会が少ないから。
そして臨床推論は、決して「センス」や「ひらめき」だけでできるものではありません。この記事では、臨床推論が苦手になる原因と、明日からできる克服方法について詳しく解説していきます。
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臨床推論とは?思ったよりシンプルな“考える力”
まず、臨床推論とは何かをシンプルに捉え直してみましょう。
臨床推論とは、
評価で得られた情報から「なぜこの患者はこのような状態なのか?」を考え、最適な治療方針を導くためのプロセスです。
例えば、立ち上がり動作でお尻が持ち上がらない患者がいたとします。ただ筋力が弱いから? バランスの問題? 痛みの回避? それとも恐怖心?
これらを見極め、最も可能性の高い仮説を立て、それに基づいて介入し、結果を再評価する――これが臨床推論の基本の流れです。

なぜ臨床推論が苦手になるのか?よくある5つの原因
1. 「評価=ゴール」になってしまっている
学生時代は、「MMTやROMをしっかり測れるか」が試されます。しかし、臨床では評価はあくまで“手段”。その先にある仮説や治療選択までつなげて初めて意味を持ちます。
2. パターン認識に頼りすぎて、応用がきかない
症例を多く経験すると、似たような患者像を「このタイプね」と自動処理しがちです。これは経験の賜物でもありますが、まだ推論力が育っていない段階でパターンに頼りすぎると、“思考停止”につながります。
3. 自分の仮説にこだわりすぎる
「絶対にこれが原因だ」と思い込むと、他の視点が抜け落ちます。臨床推論は“仮説検証”の繰り返しであり、間違っていたら修正する柔軟さが重要です。
4. 振り返りの時間がなく“やりっぱなし”
日々の業務に追われ、症例の振り返りができていないケースは多いです。何がうまくいき、何が失敗だったのかを振り返らなければ、思考力は育ちにくいのです。
5. 「正解」があると思ってしまっている
臨床は“正解のない世界”です。評価結果も治療方針も、白黒はっきりつくことは少なく、「これが一番可能性高そう」というグレーゾーンでの意思決定が求められます。
苦手を乗り越えるには?今日からできる5つの工夫
1. 評価前に「何が知りたいのか?」を明確にする
評価をする前に、「この人の課題はなんだろう?」「何が原因として考えられるか?」を自問しましょう。目的がはっきりすれば、評価項目の意味もクリアになります。
2. 仮説→検証→再評価の流れを意識する
「仮説を立てる→それを検証する→結果を振り返る」というループを回す意識が大切です。たとえば、「股関節屈曲の可動域制限が歩行の原因かもしれない」と思ったら、それを検証できる評価や介入を考えます。
3. 他職種や先輩と「この症例どう思いますか?」と話す
多角的な視点は推論力を養う最高の材料です。評価結果を一人で抱え込まず、他者の思考プロセスに触れることが、自分の視野を広げてくれます。
4. SOAPや臨床記録を“推論目線”で書く
ただ事実を書くのではなく、「なぜそう考えたのか」「今後どうすべきか」までを言語化して記録しましょう。文章にすることで思考の筋道が見えるようになります。
5. 症例ごとに「迷ったこと・考えたこと」をメモする
すべての症例で完璧な推論をする必要はありません。むしろ「なにに迷ったか?」を記録することで、次の症例での思考がより明確になります。
実体験エピソード|「仮説が外れていたこと」から学んだこと
僕自身、新人の頃は「筋力低下=動作障害」と安易に決めつけていた時期もありました。
ある高齢女性の歩行困難に対して、MMTで下肢筋力低下を確認し、筋力訓練を中心にアプローチ。しかし数日たっても歩容が改善せず、再度評価すると、実は“膝関節の痛み”による代償的な動きだったことが判明。
この経験から、「評価結果はヒントにすぎず、本当の問題は違う場所にあることもある」と痛感しました。
おわりに|“考える力”は才能じゃない、育てるもの
臨床推論は、特別な才能がある人だけができるものではありません。
評価を「つながりのある情報」として扱い、それを基に仮説を立てて検証していく――この積み重ねが、あなたの思考力を確実に育てていきます。
悩むことは、成長の証拠です。今日の患者さんに、ほんの少しでも「なぜ?」と立ち止まって考えてみる。
それだけでも、あなたはもう「考える理学療法士」への第一歩を踏み出しています。