はじめに|「このリハビリ、本当に正しかったのかな」と感じたあなたへ
理学療法士として臨床に出てしばらく経つと、誰しも一度はぶつかる壁があります。
それは、「このリハビリは本当に正しかったのか?」という自問です。
教科書通りに評価して、アプローチを選択しても、思うように結果が出ない。他のセラピストと比べて、自分の介入に確信が持てない。
そんな“モヤモヤ”を感じた経験はありませんか?
実際、僕も新人の頃からずっと「リハビリに正解はあるのか?」と悩みながら、患者さん一人ひとりと向き合ってきました。
そして最近、ようやく気づいた気がします。
「正解がないことこそ、この仕事の本質なのかもしれない」と。
この記事では、リハビリの“正解探し”に疲れたあなたへ、臨床の中で僕自身が見つけたヒントや、迷いとの付き合い方について共有したいと思います。
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リハビリに「正解がない」と感じる理由
現場には、無数の“例外”がある
学生時代に学ぶ知識や手技は、いわば“理想的な前提条件”に基づいています。
しかし、実際の臨床現場では、想定通りに進むことの方が稀です。
- 高齢による複数疾患の合併
- 家庭環境や介護力の制限
- 認知機能の低下や意欲の波
- その日その時の心理状態
たとえば、同じ「大腿骨骨折後の歩行練習」でも、一人の患者さんには不安を減らす声かけが重要かもしれませんし、患者さんには痛みに寄り添いながら、段階的なアプローチが必要かもしれません。
つまり、“正しい”関わり方は患者ごとに違う。
この多様性に対応していくには、単に知識を当てはめるだけでは不十分です。
指導者や先輩の意見も分かれる
臨床指導を受けていると、別の先輩には違うことを言われて混乱した…
という経験はないでしょうか?
ある評価のやり方、歩行練習の進め方、目標設定の仕方。
それぞれのスタイルがあるからこそ、「誰が正しいの?」と迷ってしまうことも。
でも、これは裏を返せば「いろんな正解がある」ということ。
だからこそ、自分なりの考え方を磨くことが求められているのです。

「迷い」は、むしろ専門職としての成長の証
迷っている時点で、すでに誠実な臨床をしている
「これで良かったのかな…」
そんな風に悩むということは、あなたが患者さんと真剣に向き合っている証拠です。
患者さん一人ひとりの人生や生活に関わるこの仕事で、迷いがない方がむしろ不自然。
“悩む”という行為自体が、あなたの臨床思考を深めていると思います。
成長のステップとしての“自己内省”
臨床で感じた違和感を放置せず、少しでも振り返る習慣があるなら、あなたはもうすでに成長曲線の中にいます。
たとえば、
- 「なぜこの評価を選んだのか?」
- 「このゴールは患者さんの希望と一致していたか?」
- 「本人の表情や言葉にどんな変化があったか?」
こうした問いを自分に投げかけることで、臨床力は磨かれていきます。
「自分の中の臨床判断の軸」を持つ
判断の連続を“なんとなく”で終わらせない
僕たちは1日数十回、数千回以上、介入や声かけ、環境調整などに判断を下しています。
その一つひとつを「なぜこの選択をしたのか」と言語化できるようになることが、“自信”につながり、納得”を生む力になります。
臨床での判断を迷わずに行うために、僕は以下の3つの視点を意識しています。
- 評価結果と目標は、つながっているか?
- 介入方法は“本人の生活”とリンクしているか?
- 患者の“本音”や価値観が見えているか?
例:左不全片麻痺の症例で感じた“軸の必要性”
あるとき、左不全片麻痺で歩行に不安を抱える方に、バランス練習を中心に進めていたとします。
でも、本人がポロッと漏らした言葉――
「杖ついて近くの喫茶店まで、また行けるようになりたいんだよね」
その瞬間、設定した“評価に基づくアプローチ”と、“患者さんの本当に望むゴール”にズレがあると気づきます。
そこからは、歩行器や杖の使い方の工夫、段差の練習、地図を見ながらのイメトレなど、「本人が望む生活」に近づけるための支援に切り替えます。
その時の“正解”は、そのときに初めて見えた、と言うことになります。
悩み続けることは「専門性の証」である
“何ができたか”ではなく“どんな意味があったか”
リハビリがうまくいったとき、確かに嬉しい。
でも、ずっと忘れられないのは、患者さんの表情や言葉だったりしませんか?
- 「あなたが担当でよかった」
- 「リハビリ中、久しぶりに笑えたよ」
- 「歩けるようになっただけじゃない。自分を取り戻せた気がする」
それらの言葉は、数値では測れない“リハビリの本質”だと思うのです。
まとめ|「正解がない世界で、あなたは十分戦っている」
理学療法士という仕事に、たった一つの正解は存在しません。
たちだからこそ、僕は悩み、迷い、そして考え続けるのだと思います。でもその迷いこそが、臨床力を磨き、患者さんとの関わりを深め、あなた自身を一流のセラピストへと育ててくれる、そう思います。
「自信がない」「成長していない気がする」
そんな風に思ったときほど、自分がどれだけ一人ひとりに真剣に向き合ってきたかを、
ぜひ振り返ってみてください。
あなたの悩みは、決して無駄ではない、とおもいます。それは、これからの臨床にきっと生きる“宝”になるはずです。
ここまでお読みいただきありがとうございました。