【理学療法士必見】Pusher現象とLateropulsionの違いとは?評価スケール(BLS/SCP)と臨床ポイント

検査・評価

はじめに

「麻痺側へ強く傾いてしまう患者さんへの対応に困っていませんか?」

脳卒中片麻痺患者さんのリハビリテーションにおいて、姿勢保持が困難なケースは少なくありません。特に、身体を正中位に戻そうとすると強く抵抗されたり、あるいは支えがないと倒れ込んでしまったりする現象に遭遇したとき、多くの理学療法士(PT)が悩みます。

臨床ではよく使われる「Pusher現象(プッシャー現象)」と「Lateropulsion(ラテロパルジョン)」という言葉。このふたつのの違いを明確に説明できるでしょうか?

この2つは混同されがちですが、病態やメカニズム、そしてリハビリのアプローチを考える上で重要な違いがあります。

本記事では、Pusher現象とLateropulsionの定義の違い、推奨される評価スケール(BLS、SCP)、そして理学療法士が知っておくべき臨床評価のポイントを解説します。 この記事が明日からの臨床で「なぜ傾くのか」を整理でき、より適切な予後予測とアプローチにつなげる一助となれば幸いです。

定義を整理!Pusher現象とLateropulsionの違い

臨床現場では「傾く=Pusher」と捉えられがちですが、厳密には異なります。まずはそれぞれの定義と特徴を整理しましょう。 #

Pusher現象(Pusher Syndrome)とは

Pusher現象(Contraversive Pushing)は、非麻痺側上下肢を使って積極的に床や座面を押し、自らの身体を麻痺側へ傾斜させる現象です。

特徴: 垂直軸の認知のズレ(SPV: Subjective Postural Vertical の偏倚)が主な原因と言われています。

患者さんは「傾いている状態が垂直(真っ直ぐ)」だと認識しており、セラピストが身体を正中に戻そうとすると「倒される」という恐怖感から能動的に抵抗します。

主な責任病巣:視床後外側、島皮質、中心後回など。

Lateropulsion(ラテロパルジョン)とは

Lateropulsionは、直訳すると「側方突進」であり、**身体が側方へ倒れようとする現象全般**を指す広い言葉として使われることが多いです。 狭義には、延髄外側梗塞(ワレンベルグ症候群)などで見られる、あたかも外力によって引かれるかのように側方へ傾く現象を指します。

特徴: 小脳・脳幹システムの問題による姿勢制御障害です。Pusherのような「押す行為」がなくても、筋緊張の低下や平衡機能障害により、重力に抗えず受動的に倒れてしまいます。

決定的な違いは「能動的」か「受動的」か

両者を鑑別する最大のポイントは、「押し(Pushing)」と「抵抗」の有無です。

  • Pusher現象:「自分が正しい」と思って非麻痺側で**能動的に押す。修正しようとすると強く抵抗する。
  • Lateropulsion(狭義): 倒れるのを止められない、引かれる感覚。修正に対しての抵抗は少ない(あるいは、バランスを崩す恐怖からの反応のみ)。

※近年では、Lateropulsionという大きな枠組みの中にPusher現象が含まれるという解釈もありますが、臨床的には「非麻痺側の押し込みの強さ」で区別してアプローチを考えるのが一般的です。

理学療法士が使うべき評価スケール(評価表)

「なんとなく傾く」ではなく、客観的なスケールを用いて重症度を数値化することは、チームへの共有や予後予測において非常に重要です。ここでは代表的な2つのスケールを紹介します。

Pusher現象のゴールドスタンダード「SCP (Scale for Contraversive Pushing)」

Pusher現象の診断と重症度判定に最も用いられる評価法です。以下の3つの要素を座位・立位で評価します。

  • 1. 自発的な姿勢(傾いているか)
  • 2. 非麻痺側の外転・伸展(押しているか)
  • 3. 他動的な修正に対する抵抗(抵抗があるか)

各項目を点数化し、合計点が0より大きければPusher現象ありと判断します(一般的には各項目1点以上で診断)。 メリットは、Pusher特有の「抵抗」を明確に評価できる点です。

より包括的な重症度評価「BLS (Burke Lateropulsion Scale)」

近年、リハビリテーションの研究や臨床で普及しているのがBLSです。SCPが座位・立位に限局しているのに対し、BLSは以下の5項目で評価します。

  • 1. 寝返り
  • 2. 座位
  • 3. 立位
  • 4. 移乗
  • 5. 歩行
  • 最大17点満点

1. 寝返り2.座位3.立位4.移乗5.歩行最大17点満点で、点数が高いほどLateropulsion(傾斜傾向)が強いことを示します。 メリットは以下の通りです。

  • 感度が高い:軽微な傾斜から重度のPusherまで幅広く評価できる。
  • 天井効果が少ない:歩行レベルまで評価できるため、回復過程を追いやすい。
  • 予後予測に有用:入院時のBLSスコアが高いほど、在院日数が長く、ADL自立度が低くなる傾向があるという研究報告が多くあります。

臨床での使い分けのコツ

診断・スクリーニング:「これはPusher現象か?」を判断したいときはSCP。 経過・予後予測:「どのくらい良くなったか?」「ADLへの影響は?」を見たいときはBLS。

臨床における評価の具体的ポイントと注意点 スケールだけでなく、日々のハンドリングや観察の中でPTがチェックすべきポイントを解説します。

垂直認知のズレを確認する(SVVとSPV)

Pusher現象の本質は「主観的な身体の垂直(SPV)」のズレです。一方で「視覚的な垂直(SVV)」は保たれていることが多いのが特徴です。

簡易チェック法: 閉眼で座位をとらせ、「真っ直ぐだと思うところで止まってください」と指示します。この時、大きく麻痺側へ傾いていればSPVのズレ(Pusherの要素)が疑われます。逆に、開眼して鏡を見せれば修正できる場合は、視覚的代償が可能であることを示唆します。

ハンドリング時の反応を見る(抵抗感の触知)

身体を正中位に戻そうとした瞬間の反応が重要です。

  • Pusherの場合:戻そうとした瞬間に、非麻痺側の手足が突っ張り、グッと押し返してくる強い抵抗を感じます。
  • Lateropulsion(筋緊張低下など)の場合:抵抗感というよりは、体幹が崩れるような「重さ」や、支えを失うことへの「しがみつき」反応が見られます。

★テクニック:非麻痺側上肢を大腿部の上に置かせ(掌を上に)、手で座面を押せない状況を作ってから姿勢修正を行うと、体幹のアライメント評価がしやすくなります。

責任病巣の画像所見と照らし合わせる

前や評価後に、必ず脳画像を確認する習慣をつけましょう。

  • 延髄外側(ワレンベルグ症候群):Lateropulsionを強く疑います。
  • 視床(特に後外側)、被殻出血など:Pusher現象が出現するリスクが高いです。 広範な脳梗塞 : USN(半側空間無視)の合併により、傾きが助長されている可能性も考慮します。

まとめ

Pusher現象とLateropulsionは、現象としては「麻痺側への傾斜」という共通点がありますが、その背景にあるメカニズムには違いがあります。

  • Pusher現象:垂直認知のズレによる「能動的な押し」と「抵抗」が特徴。
  • Lateropulsion:姿勢制御障害による「受動的な傾斜」も含んだ広い概念

(BLSではこれらを包括して評価)。 理学療法士として重要なのは、「SCP」でPusherの要素(抵抗)を鑑別し、「BLS」を用いて寝返りから歩行までの重症度変化を追うことです。

「なぜ傾くのか」を正しく評価できれば、無理に正中位に戻して患者さんに恐怖心を与えるだけの訓練から脱却し、感覚入力や環境設定を用いた効果的なアプローチが可能になります。ぜひ明日の臨床から、BLSなどの評価スケールを取り入れてみてください。

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