はじめに
緩和ケア病棟に配属されたばかりの理学療法士の方や、がんリハビリテーションに携わる方の中には、「これ以上改善が見込めない患者さんに何ができるのか?」と悩む方も少なくありません。
緩和ケアにおけるリハビリテーションは、従来の「治す」リハビリから「支える」リハビリへと視点を移すことが重要です 。
本記事では、緩和ケア病棟での評価指標や、信頼関係を築くための「傾聴」の技術について解説します。
緩和ケアにおける理学療法の目的
WHOの定義によれば、緩和ケアは生命を脅かす病に直面する患者とその家族のQOL(生活の質)を向上させるアプローチです。
理学療法士の主な役割は、以下の通りです。
- 生活の質を保つ動作支援:ベッド上での快適さの確保や、ADLの維持・改善。
- 「できることを伸ばす」視点:病気そのものを治すのではなく、その時々の状況下で「自分らしい生活」を取り戻すことを目指します。
実践で役立つ評価指標:PSとIPOS
緩和ケアの現場では、患者さんの全身状態や苦痛を客観的に評価するために、以下の指標が活用されます。
PS(パフォーマンスステータス)
日常生活の動作レベルを0〜4の5段階で評価し、全身状態の指標とします。
- PS 0〜2:一般的な薬物療法の適応となる状態。
- PS 3以上:日中の50%以上をベッドや椅子で過ごす状態。副作用のリスクが高まるため、より慎重な介入が求められます。
IPOS(Integrated Palliative Care Outcome Scale)
患者さんの身体的、心理社会的、スピリチュアルな問題を定量的に評価するツールです。最近3日間の状態を10項目の質問でアセスメントし、医療・看護チームと共有することで、適切なケアの提供に繋げます。
がんサバイバーへの運動療法のエビデンス
「安静第一」と考えられがちな緩和ケアですが、近年の研究では運動の有効性が示されています。
- 2012年のコクランレビューや最新の系統的レビューにより、運動はがん治療中・治療後ともに安全に実施可能であることが示唆されています。
- 持久力、筋力、倦怠感、うつ状態、そして健康関連QOLの改善に寄与するという十分なエビデンスがあります。
信頼を築く「傾聴」とコミュニケーション
緩和ケアにおいて、リハビリ技術と同じくらい重要なのが「傾聴」です。適切な「聴く姿勢」が患者さんの安心感と信頼を生みます。
具体的な傾聴の技法
- オープンクエスチョン:患者さんの自己開示を促し、信頼関係を深めます。
- うなずき・あいづち:患者さんの話す量が増え、関係性が深まることが研究で示されています。
- オウム返し(反復):共感を示し、患者さんの心理的負担を軽減します。
- 沈黙の活用:無理に言葉で埋めず、沈黙を共有することで患者さんの心理的安定を支援します。
また、本人の意思を尊重したケアは、家族の心理的負担を軽減し、納得感を高めるというエビデンスもあります。
理学療法士自身のバーンアウトを防ぐために
終末期のリハビリは、スタッフにとっても精神的ストレスが大きい業務です。「治らない」という言葉に無力感を感じたり、他職種との連携に悩むこともあります。
長く支援を続けるためには、「アサーティブなコミュニケーション」が有効です。
- I(私は)メッセージを使う:相手を尊重しつつ、「私はこう感じている」と率直に伝えることで、過度な我慢を避けられます。
- ユーモアを取り入れる:臨床現場にユーモアを取り入れることも、心の健康を保つ一助となります。
まとめ:技術だけでなく「心」の寄り添いを
緩和ケアにおけるリハビリテーションは、単なる機能訓練ではありません。
「聴く姿勢」が信頼をつくり、小さな反応が大きな安心に繋がります。
患者さんが最期まで「能動的に生きる」ことを支援するために、身体的アプローチと心のケアの両輪で向き合っていきましょう。
参考文献
- WHO緩和ケア定義(2019年定訳)
- Campbell KL, et al. Exercise Guidelines for Cancer Survivors
- がんのリハビリテーション診療ガイドライン
- IPOS(Integrated Palliative Care Outcome Scale)マニュアル


