はじめに|「なぜ、理学療法士の給料は上がらないのか?」
理学療法士として現場で働く中で、こう思ってる方は非常に多いのではないでしょうか。
「この仕事、本当に社会に必要とされているはずなのに、なぜ処遇はここまで厳しいのだろう…?」
「責任、業務量の割に給料が少ない…」
患者さんに寄り添い、生活の再建を支える専門職である理学療法士。
しかし現実には、初任給20万円前後、20年働いても手取りは大きく変わらないという声も少なくありません。
それは一体なぜなのでしょうか?
本記事では、そんな「理学療法士の処遇改善が難しい本当の理由」を僕なりに、6つの視点から考えてみました。
あくまで個人的な考えや意見に基づくものになりますが…。
同時に、少しでも前に進むために、私たちができるアクションにも触れていきたいと思います。
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理学療法士の処遇改善が進まない6つの理由
診療報酬体系の限界|「時間=収益」という構造がブレーキに
日本の医療・介護制度では、理学療法士の働きに対する評価は、診療報酬または介護報酬で行われます。
特に医療保険におけるリハビリテーションは、1単位=20分で何点と細かく点数化され、病院の収益はその合計点数に左右されます。
つまり、理学療法士の業務は「どれだけの時間を提供したか」で評価される仕組みになっており、スキルの有無や成果の質が反映されにくい構造になっています。
加えて、報酬は年々厳しく見直されており、疾患別リハビリの算定日数制限や、集団リハの点数削減など、経営サイドから見れば「収益性の低い部門」と見なされることも増えているのではないでしょうか。(特に回復期病院や維持期、施設等では。)
人材の供給過多|「代わりはいくらでもいる」状態が続いている
理学療法士の数は、ここ20年で急激に増加しました。
2000年には約3万人だった有資格者は、2025年には20万人を超える見通しとなっています。
その背景には、養成校の増加があります。定員の拡大により、毎年1万人以上の新人PTが誕生する状況が続いています。
その結果、一人ひとりの市場価値が相対的に下がってしまっているという現実があります。
現場ではこんな言葉を耳にします。
「経験者が辞めても、新卒で補充できるから大丈夫」
「高い給料を出さなくても人が来るから、無理に待遇改善しなくていい」
このように、供給が過剰な状態では、個人の専門性やスキルを活かす“価格交渉力”が働かないのです。
介入の「質」が数値化されず、評価されにくい
理学療法士の介入は、患者さん一人ひとりの状態に合わせた、繊細で丁寧な関わりが求められます。
しかしその「良いリハビリ」は、効果を数値で証明するのが難しいという課題を常に抱えています。
◆ 同じ“成果”に見えても、介入の「質」はまったく違う
理学療法の現場では、どれだけ丁寧にリスク管理を行い、患者の意欲を引き出し、個別性の高い介入をしても、その“質”が評価されにくいという問題があります。
たとえば、次のようなケースを考えてみてください。
▶ ケース:大腿骨骨折術後の高齢患者
自己研鑽をしている理学療法士 | 自己研鑽をしていない理学療法士 | |
リスク管理 | バイタル・栄養・疼痛など多角的に評価 | テンプレート通りの離床対応 |
目標設定 | 患者の生活背景を引き出し「庭に出る」が目標 | 毎回「今日は○m歩きましょう」で終了 |
関わり方 | 毎日の声かけや雑談で信頼関係を築く | 最低限の会話で機能訓練中心 |
結果 | 杖歩行50m可能 | 杖歩行50m可能 |
どちらも「杖歩行が可能になった」という表面的なアウトカムは同じです。
しかし、そのプロセスの質・関わり方・将来の生活に与える影響は大きく異なります。
それでも、多くの医療機関では「FIMスコアの変化」や「歩行距離」など、数値で表せる結果が重視されるため、こうした“介入の質”は評価に反映されにくいのが現実です。
◆ 努力が報われにくい構造
自己研鑽を積み、根拠を持って介入しても、
- 合併症を未然に防いだこと
- 精神的サポートが功を奏したこと
- 本人の希望をリハビリに反映させたこと
こうした“目に見えない価値”は、記録にも、点数にも、外からはほとんど見えません。
それゆえに、どれだけ臨床で工夫をしても、それが「評価」や「昇給」「周囲の理解」に結びつかず、モチベーションが下がる…という理学療法士も少なくありません。
この問題に対して、私たちができることは何か?
そのヒントは、「言語化」と「可視化」にあると考えています。
このような介入の「質」は、診療報酬の加算には結びつきません。結果として、努力や工夫が給与に反映されにくい職種となってしまっているのです。
経営層にリハビリ職の価値が届いていない
病院や施設の経営層は、医師や看護師など、他職種出身者が多くを占めています。そのため、理学療法士の働き方や役割の重要性が伝わりにくい傾向にあります。
また、PT・OT・STなどのリハ職は“コメディカル”という括りでまとめられ、経営判断の中で一括りに扱われてしまうことも珍しくありません。
結果として…
- リハ部門の予算が削られる
- 設備投資や人員配置が後回しになる
- 働き方改革の対象から外される
といった現象が起きやすくなり、職場環境・給与ともに改善しにくい構造が生まれています。
介護分野では「コスト」として見られやすい
訪問リハや通所リハなどの介護領域では、理学療法士は「生活支援の専門家」として重要な役割を担っています。
しかし経営視点から見ると、リハ職の人件費は固定費=コストとして捉えられるケースが多く存在します。
たとえば、
- ケアマネからの紹介が減れば稼働が落ちる
- 加算が細かく制限されている
- 利用者の変動に対してフレキシブルな対応が求められる
など、不安定な制度に依存したビジネスモデルであるため、安定した昇給や処遇改善が難しくなるのです。
キャリアパスの選択肢が狭く、「昇給の天井」が早すぎる
理学療法士のキャリア形成には、大きく分けて昇進ルートと専門性の二軸があります。
しかし現実には…
- 主任や係長になっても、年収に大きな変化はない
- 認定・専門資格を取得しても、手当は月5,000円~1万円程度(正直手当が無いところがほとんど…)
- 管理職になるにも限られた枠しかない
つまり、努力しても報われにくい構造が、モチベーションの低下や離職の一因になっているのです。
処遇改善のために、僕たち理学療法士ができること
制度や構造の問題を嘆くだけでは、何も変わりません。僕たち一人ひとりができることは、確かに存在します。
▶ 成果を「見える化」する
FIMスコア、QOL指標、リスク回避率などを活用し、介入の成果を数値として記録・発信しましょう。
チーム内や経営層に「リハ職の価値」を伝える武器になります。
▶ 新しい働き方を模索する
副業・訪問リハ・オンラインリハ・講師・SNS発信など、病院外で活躍できる道が広がっています。
自分の専門性を「資産」として活かす時代です。
▶ 業界全体で発信力を強める
「地味で安い職種」ではなく、人の生活に深く関わるエッセンシャルな仕事であることを社会に示す必要があります。
SNS・ブログ・note・講演などを通じて、社会への“理解者”を増やしていきましょう。
ただ、この問題を変えようと思うと、国を変える、というとんでもなく大きい壁が立ちはだかることになります。
そのため、変えようとする、よりは自らが変わろうとすることが大切かもしれませんね。
まとめ|構造を知り、行動を起こすことが未来を変える
理学療法士の処遇改善が進まない理由は、単なる一時的な問題ではありません。
それは「制度」「供給過多」「数値化の難しさ」「経営とのミスマッチ」など、多層的な社会構造が生んだ結果です。
しかし、だからこそ僕たちは今、「知ること」から始めるべきなのです。構造を知り、自ら発信し、行動を起こす。
小さな一歩が、未来を確実に動かす原動力になります。