はじめに|THAのリハビリに自信が持てない…その理由とは?
人工股関節全置換術(THA)は、変形性股関節症や関節リウマチ、骨頭壊死などに対して広く行われる手術であり、整形外科リハビリの中でも理学療法士が頻繁に関与する代表的な疾患です。
一方で、

THA後のリハビリ、何を優先すべきか迷う…

脱臼が怖くて可動域訓練が進められない

TKAとの違いがわからないまま指導しちゃってる…?
といった声も多く、“なんとなくの対応”になってしまうケースも散見されます。
この記事では、臨床で求められる安全性と機能回復のバランスを重視した実践ポイントを整理し、2025年現在の最新エビデンスをもとに、THA術後リハの“今”を考えてみます。
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人工股関節全置換術(THA)とは?
THA(Total Hip Arthroplasty)は、摩耗・破壊された股関節の骨頭や臼蓋を人工関節に置き換える手術です。
整形外科ではTKA(人工膝関節置換術)と並んで非常に多く、今後の高齢化社会でも需要は拡大していくと予測されています。
主な適応疾患
- 変形性股関節症(OA)
- 関節リウマチ(RA)
- 大腿骨頭壊死症
- 股関節周囲の外傷・骨折後変形
【基礎知識】THA術後のリハビリが目指す3つの柱
THA術後のリハビリでは、次の3つの柱が重要です:
1. 脱臼リスクを最小限に抑える安全管理
→ 術式(後方/前方/側方)に応じた禁忌肢位の理解と動作指導がカギ。
2. 股関節周囲筋群の再教育と体幹制御の回復
→ 特に中臀筋や腸腰筋の再トレーニングは歩行・姿勢の安定に直結。
3. 実生活を見据えたフェーズ別の機能回復
→ ADL・IADLや外出・買い物・公共交通機関の利用まで視野に入れる。
【最新知見①】術後可動域制限と脱臼予防|動かさないリスクもある
従来のTHA術後リハでは、脱臼予防の観点から「90度以上の股関節屈曲」や「内旋・内転」動作を厳しく制限することが一般的でした。
しかし、近年の研究(J Arthroplasty 2023)では、
「過度な制限は可動域や筋力の回復を妨げ、歩行獲得の遅延・転倒リスクを高める」
との指摘が増えています。
✅ 最新の考え方
- 「禁忌肢位の制限」は必要最低限にし、動作教育を丁寧に行う
- 積極的な可動域訓練を術後2日目以降から導入
- 長期的には、脱臼率よりもADL自立やQOLの低下リスクが大きな問題
【最新知見②】筋膜リリースの導入で疼痛軽減と可動域改善をサポート
2024年以降、理学療法士による筋膜リリース(MFR: Myofascial Release)の有効性がTHA術後の早期リハビリで注目されています。
特に以下の部位へのMFRが効果的です。
- 大腿筋膜張筋〜腸脛靭帯:外側部痛の軽減、股関節外転の促進
- 中殿筋〜大腿筋膜連結部:Trendelenburg徴候の改善
- 腰方形筋〜骨盤帯筋膜:立位時の骨盤安定化に寄与
🔍 臨床研究より
THA術後患者へのMFR介入により、VASでの疼痛スコアが有意に低下し、早期退院が可能となった(Phys Ther Sci 2024)
MFRは安全かつ患者への負担が少ないため、術後リハの新たなスタンダードになりつつあります。
【最新知見③】術後せん妄・認知低下へのリスク管理とリハの連携
高齢のTHA患者では、術後にせん妄や認知機能の一時的な低下が見られることがあり、これがリハの進行を妨げる要因になります。
🧠 リスク因子
- 75歳以上、高血圧・糖尿病の既往
- 睡眠障害、術中の出血量・麻酔時間の長さ
- 術後の環境変化(夜間せん妄など)
✅ リハ側の予防的対応
- 術翌日からの早期離床(デイライト下の歩行)
- 時計・カレンダーの設置や日中の刺激増加
- OT・STとの連携で認知刺激や環境調整を行う
「筋肉」だけでなく「認知」と「精神状態」もケア対象であることが、今後ますます求められます。
例)歩行回復のフェーズ別アプローチ【リハ介入戦略】
▶ フェーズ1:術後〜1週目(急性期)
- 主目的:離床と基本動作獲得
- 介入内容:立位練習、歩行器使用での歩行開始、痛みと浮腫への対応
- ポイント:禁忌肢位を避けながらも座位保持時間の確保と重心移動練習
▶ フェーズ2:1〜4週(回復期)
- 主目的:ADL・歩行自立の推進
- 介入内容:中臀筋トレ、バランス訓練、杖歩行への移行
- ポイント:筋出力と荷重対称性の改善に注力
▶ フェーズ3:4週以降(維持・応用期)
- 主目的:活動レベルの向上とQOL支援
- 介入内容:屋外歩行、階段昇降、趣味・買い物への復帰支援
- ポイント:実生活の動作課題に即した訓練の導入(エラー学習など)
TKAとの違いをおさえる|“見えないリスク”を見極める力
THAとTKAではリハの重点が異なるため、経験値だけで判断すると誤りやすいのが落とし穴です。
比較項目 | THA | TKA |
主リスク | 脱臼・感染 | 可動域制限・拘縮 |
介入目標 | 股関節安定と歩行の質 | 関節可動域と疼痛緩和 |
リハの強度 | 慎重な初期負荷が必要 | 早期から可動域を積極的に |
THAは「動かさなすぎ」TKAは「動かしすぎ」が問題になることもあるため、適切な負荷調整が不可欠です。
THA術後リハの実践チェックリスト
☑ 術式に応じた禁忌肢位と動作制限を把握している
☑ 可動域・筋力・疼痛・荷重のバランスを客観的に評価できている
☑ 中臀筋の筋力低下による代償動作(骨盤傾斜・体幹側屈)を見逃していない
☑ MFRや電気刺激などの補助的アプローチを取り入れている
☑ せん妄予防や心理的支援など、多職種連携の視点を持っている
まとめ|THAリハは「安全」と「攻め」のバランスが成果を分ける
THA術後のリハビリでは、安全第一で進めつつも、患者の能力を信じて積極的な介入を進める姿勢が重要です。
脱臼を恐れすぎて動かさないことは、かえって患者の生活範囲を狭めてしまいます。
術式に応じた知識、個別性に配慮したプラン、そして患者の“やりたい”を支援する心。
その3つが揃ったとき、THA後のリハは“機能回復”を超えて、人生を取り戻すためのリハビリへと昇華します。