「なんだか上の空…」は注意障害?「動作がぎこちない…」は失行?リハビリスタッフ向け明日から使えるアプローチ

脳血管リハビリ

高次脳機能障害のリハビリ悩みますよね…

「担当している患者さん、リハビリに集中できていないな…」
「簡単な着替えのはずなのに、なぜか袖に腕を通せない…」
「指示は理解しているようなのに、動き出すと戸惑ってしまう…」

新人・若手セラピストの皆さん、臨床でこのような場面に遭遇し、アプローチに悩んでいませんか?

その症状、もしかしたら高次脳機能障害の中でも特に頻度の高い「注意障害」「失行」が原因かもしれません。

この記事では、注意障害と失行の基本的な知識から、明日からの臨床ですぐに実践できる具体的なリハビリ方法までを、分かりやすく解説します。この記事が日々の臨床の一助となれば幸いです。

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まずは基本から!「注意障害」のリハビリテーション

注意障害とは、一言でいうと「注意のアンテナがうまく働かない状態」です。脳卒中後の患者さんなどでよく見られ、リハビリの効果を最大限に引き出すためには、この障害への理解と適切なアプローチが不可欠です。

臨床でよく見る症状タイプと具体例

注意障害にはいくつかのタイプがあります。患者さんのどのタイプに当てはまるか観察してみましょう。

  • 全般性注意障害:なんだかボーッとしている、すぐに疲れてしまう、反応が鈍い。
  • 持続性注意障害:課題を始めてもすぐに集中が途切れ、他のことをし始めてしまう。
  • 選択性注意障害:周囲の物音や会話など、関係ない刺激に気を取られやすい。
  • 転換性注意障害:複数の作業を切り替えるのが苦手(例:料理中に電話対応後、元の作業に戻れない)。
  • 配分性注意障害:2つ以上のことを同時に行う「ながら動作」が極端に苦手になる(例:話しながら歩く、メモを取りながら話を聞く)。

【実践編】注意障害への具体的なリハビリアプローチ

アプローチの基本は、「集中できる環境を作り、本人の工夫を促すこと」です。

まずは、患者さんが集中しやすい「場」を作ることが最優先です。

  • 刺激を減らす:静かな個室やリハビリ室の隅を選ぶ、カーテンを閉める。
  • 情報を絞る:机の上は課題に必要な物品だけにする。ポスターなどが少ない壁側を向いてもらう。

机上訓練から始め、徐々にADL(日常生活動作)に繋げていきます。

  • 机上課題の例
    • 単純な計算ドリル、間違い探し、文字探し
    • ペグボード、カードの仲間分け
    • セラピストの動きを真似する模倣課題
  • ADL訓練への応用
    • 調理、買い物、掃除など、生活に直結した課題を通して注意機能の改善を目指します。

患者さん自身が注意をコントロールする工夫を身につけるためのアプローチです。

  • 指差し確認・声出し:「次は〇〇をする」と声に出したり、手順を指で差したりして、注意を課題に向けさせます。
  • タイマーやアラームの活用:時間を区切って課題を行うことで、持続性注意の訓練になります。「このタイマーが鳴るまで頑張りましょう」といった声かけが有効です。
  • チェックリストの活用:手順の多い動作(調理や整容など)は、チェックリストを作成し、一つひとつ確認しながら行ってもらうことで、抜け漏れを防ぎます。

麻痺はないのに動けない?「失行」のリハビリテーション

失行とは、運動麻痺や感覚障害がないにも関わらず、「体の動かし方のプログラム」が思い出せず、意図した動作が正しく行えない状態です。患者さん本人は「やろうとしているのに、なぜかできない」と混乱していることも少なくありません。

臨床でよく見る症状タイプと具体例

失行もいくつかのタイプに分けられます。

  • 観念運動失行:「バイバイして」と指示するとできないが、帰り際には自然に手が振れる。指示や模倣での動作が苦手。
  • 観念失行:歯ブラシを渡しても髪をとかそうとするなど、物品の目的や一連の動作の順序が分からなくなる。
  • 構成失行:積み木で手本と同じ形が作れない、図形の模写が苦手など、パーツを組み合わせて全体を形作ることが困難。
  • 着衣失行:服の上下や前後、裏表が分からず、うまく袖に腕を通せない。

【実践編】失行への具体的なリハビリアプローチ

アプローチの基本は、「エラーレス・ラーニング(無誤学習)」です。誤った運動パターンを学習させないよう、失敗させずに正しい動きを導くことが重要です。

一つの動作を細かい工程に分け、一つずつ確実にクリアしてもらいます。

  • 例(歯磨き):「①歯ブラシを持つ」→「②歯磨き粉のキャップを開ける」→「③歯ブラシにつける」…
  • 前方連鎖法(フォワードチェイニング):①から順に教える
  • 後方連鎖法(バックワードチェイニング):最後の工程だけ本人に行ってもらい、達成感を得やすくする

言葉の指示だけで動けない患者さんには、様々な感覚情報で動きをガイドします。

  • 視覚的キュー
    • セラピストがやって見せる(鏡のように対面ではなく、隣に並んで見せるのがコツ)。
    • 写真やイラストで手順を示す。
    • 物品に目印をつける(例:靴下の踵に色のついたテープを貼る)。
  • 聴覚的キュー
    • 「右手を袖に…ぐーっと入れます」のように、動作を実況中継する。
    • 「サッと」「トン」などのオノマトペ(擬音語・擬態語)を使う。
  • 体性感覚的キュー
    • セラピストが患者さんの手や足を取り、一緒に動かす(ハンドリング)。
    • 動かしてほしい身体部位を軽く触れて、意識を促す。

正しい運動パターンを再学習するためには、実際の物品を使った反復練習が効果的です。日常生活の場面で、意味のある動作を繰り返し行い、身体に覚えさせていきましょう。

ワンランク上のセラピストになるために

注意障害と失行は、密接に関連しています。注意が散漫だと、動作のプログラムを正しく実行することも困難になります。そのため、両方の側面から評価・アプローチする視点が重要です。

また、リハビリは専門職だけで完結しません。

  • ご家族への指導:症状を分かりやすく説明し、ご家庭でできる介助のコツ(声かけの仕方、環境設定など)を伝え、最強のチームメンバーになってもらいましょう。
  • チームアプローチ:看護師や介護福祉士と、有効だった声かけやアプローチ方法を共有し、病棟生活全体で一貫したケアを目指すことが、患者さんの能力向上に繋がります。

【まとめ】

今回は、注意障害と失行のリハビリアプローチについて解説しました。

  • 注意障害には「環境調整」で集中できる場を作り、「代償戦略」で本人の工夫を引き出す。
  • 失行には「エラーレス・ラーニング」を基本に、「動作の分解」と「多様なキュー」で正しい動きを導く。

最も大切なのは、マニュアル通りのリハビリではなく、患者さん一人ひとりの状態をよく観察し、その人に合ったアプローチを試行錯誤することです。この記事が、明日からの皆さんの臨床のヒントになれば幸いです。

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