「で、結局何が言いたいの?」ともう言わせない!理学療法士の申し送り【あるある失敗談】と相手別攻略法

理学療法士

はじめに

「Aさんは今朝9時にリハ室に来て、まずバイタルを測って、それから歩行練習を…」
「評価結果はROMがこうで、MMTはここで、FIMは…」
「〇〇さんが痛いと言っていて、それで…えーっと…」

若手理学療法士の皆さん。あなたの申し送り、こんな「残念な状況」になっていませんか?

良かれと思って詳しく話せば「長い!」と言われ、要点をまとめようとすれば情報が足りないと指摘される。申し送りの時間が、だんだん憂鬱になってきている…なんて方も多いかもしれません。

断言します。その失敗は、決してあなたの知識や技術が足りないからではありません。原因はたった一つ。申し送りの「相手の視点」が、すっぽり抜け落ちているだけなのです。

この記事では、理学療法士が陥りがちな「あるある失敗談」から伝わらない原因を解き明かし、【医師・看護師・先輩PT】など相手別に「響く」申し送りの極意を、具体的なNG/OK例文付きで徹底解説します。

この記事を読めば、あなたの申し送りは「自分本位な報告」から「チームを動かす情報提供」へと劇的に変わるはずです。

申し送りの大原則:「相手のゴール」から逆算する

まず、最も重要な意識改革から始めましょう。
申し送りは、自分の頑張りをアピールする「活動報告会」ではありません。相手の「次のアクション」をスムーズにするための「情報パス」です。

サッカーで、味方が走り出す未来の位置にパスを出すのと同じ。申し送りも、相手が次に何をするか、何を知りたいかを予測して、的確な情報を渡すことが重要です。

例えば、同じ患者さんの情報でも、相手によって「知りたいこと=ゴール」は全く異なります。

  • 医師が知りたいのは?
    → 医学的判断(処方変更、指示変更、退院判断)に必要な情報
  • 看護師が知りたいのは?
    → 24時間の病棟ケア(移乗、排泄、リスク管理)に直結する情報
  • 先輩PTが知りたいのは?
    → 明日のリハビリ計画(プログラムの継続・変更、注意点)を立てるための情報
  • ケアマネ/SWが知りたいのは?
    → 退院支援(住宅改修、サービス調整)に必要な情報

つまり、最高の申し送りとは、「この人はこの後、どんな仕事をするんだろう?」と想像し、その判断材料を先回りして提供することなのです。

【相手別】「この情報が欲しかった!」と思わせる申し送りの例文とコツ

それでは、相手別に「伝わる申し送り」のコツを、よくあるNG例と改善したOK例で見ていきましょう。


【vs 先輩・同僚PT】への引き継ぎ

  • 相手のゴール: 明日、質の高いリハビリをスムーズに提供すること
  • ポイント: 抽象的な表現を避け、具体的な数字や介助方法を伝える

❌ NG例
「今日はAさんの歩行練習をしました。少し疲れも見られたので、休みながらやりました。明日もよろしくお願いします。」

  • (先輩の心の声)少しってどれくらい?距離は?明日はどうすればいいの?リスクは?

✅ OK例
「Aさんの引き継ぎです。目標の『病棟内フリー歩行』に向け、現在、筋力向上が課題です。
本日、T-caneで病棟50m歩行を2回実施したところ、後半に息切れと体幹の側屈が見られました。
そのため、明日は距離を30mに短縮するか、間に座位休憩を挟んでいただけると幸いです。
また、離殿時にふらつきがあるので、必ず右横について骨盤の介助をお願いします。


【vs 看護師】へのケア情報共有

  • 相手のゴール: 安全な病棟ケア(特に移乗・排泄)を実践すること
  • ポイント: PTの専門用語を避け、「何を」「どうするか」を具体的に伝える

❌ NG例
「佐藤さん、今日から起立訓練を始めました。まだ下肢の支持性が低くて不安定です。気をつけてください。」

  • (看護師の心の声)支持性が低いって?どう気をつければいいの?介助量は?

✅ OK例
「お疲れ様です。佐藤さんの件でご報告です。今日から車椅子移乗練習を始めました。
【できること】は、手すりを使えばご自身で立てることです。
ただし、【注意点】として、立ちくらみでふらつくことがあります。
つきましては、病棟でのトイレ移乗の際は【やってほしいこと】として、必ずナースコールをもらい、『お辞儀をしてください』と声かけをお願いします。また、介助量はそれほど多くはありませんが、腋窩に手を触れておくことでも、万が一ふらついた時でもすぐに対応できるようにしておくとより安全だと思います。」


【vs 医師】への状態報告・相談

  • 相手のゴール: 医学的な判断・指示を出すこと
  • ポイント: PTとしての評価と提案をセットで伝え、医師の判断を仰ぐ

❌ NG例
「先生、鈴木さんのリハビリですが運動負荷はどうしましょうか?」

  • (医師の心の声)今どんなリハビリしてるの?何をしたいの?目標は?PTとしての意見は?

✅ OK例
「先生、お時間よろしいでしょうか。鈴木さんの件でご相談です。
現在、【PTとしての評価、計画】病棟ADL自立に向けて20mまでの歩行訓練を実施中です。動作自体は安定していますが、Afがあることもあり容易に目標心拍数を超過します。【提案/相談】血圧やSpO2の変動や自覚症状に問題なければ歩行練習距離を延長したいと考えています。心拍数としては120bpm以下でコントロールして運動負荷量を調整したいと考えていますが、よろしいでしょうか。

それでも話すのが苦手なあなたへ。「1分申し送り」を支える3つの準備

理論は分かっても、いざ本人を前にすると頭が真っ白になってしまう…という方もいるでしょう。そんなあなたのための、具体的な準備方法を3つご紹介します。

  1. 「3点メモ」術
    完璧な文章を用意する必要はありません。話す前に、メモ帳の隅にでも「①事実(何が起きた)」「②自分の考え(どう評価した)」「③依頼/相談(どうしてほしい)」の3つのキーワードだけを書き出しましょう。これだけで話の道筋を見失いません。
  2. 「主語」を明確にする練習
    無意識に主語を省略すると、事実と意見が混ざって伝わります。「痛い」「できない」ではなく、「【患者さんが】痛いと訴えている」「【私が評価した結果】まだ困難と判断した」のように、誰の事実で誰の意見なのかをハッキリさせるクセをつけましょう。
  3. 「一文」を短くする
    「〜で、〜なので、〜ですが…」と文章を繋げると、聞き手は頭の中で情報を整理しなくてはなりません。「〜です。なぜなら〜だからです。つきましては〜お願いします。」のように、「。」で短く区切ることを意識するだけで、驚くほど聞きやすくなります。

まとめ

伝わらない申し送りの原因は、スキル不足ではなく、自分の言いたいことだけを話してしまう「一方通行」にあります。

今日から意識すべき最も重要なことは、相手が「次に何をするか」を想像し、そのために必要な情報を「取捨選択」して、分かりやすい言葉でパスすること。

これが、チームから信頼される理学療法士への最短ルートです。

明日、あなたが申し送りをする相手の顔を思い浮かべてみてください。「この人は、この後どんな仕事をするんだっけ?」と想像することから始めましょう。
それだけで、あなたの言葉は相手に「届く」言葉に変わり始めます。今日から、あなたも「伝わる申し送り」を実践してみませんか?

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